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事業アイデアは、自分の中に眠っている
解説
【安易な事業の多角化は失敗のもと】
フラワー教室に通って知識と技術を身につけた花崎あゆみさ んは、念願のフラワーショップを開業。苦労もあったが経営は軌道に乗る。そこでもう一押しと、新規事業を立ち上げた。これがまた評判で、花崎さんはつくづ く「起業して良かった」と感じている。
花崎さんが新たに始めた事業とは、「フラワー教室」である。新規事業とはいえ、彼女は未経験・未知の 分野でビジネスを始めたわけではなかった。
時折り、事業が波に乗った途端、「今度はこんな事業を」と、まったく新しい分野に手を出す人がい る。が、これは厳しい結果を招くことが多い。柳の下に二匹目のドジョウがいるとは限らないし、どうしても新事業に力を注ぐことになるため、先発の事業がお ろそかになり、結果、二兎を追うものは、一兎も得ずということにもなりかねないからだ。
事業が波に乗ったと思えても、強力な同業者がいつ現 れるかわからないし、そもそも慢心は、必ず失敗につながるスキを経営者にもたらす。だから起業から 1年や 2年の好成績で「次の事業を」などと安易に考えないこと。まだまだ基盤固めのタイミングだ。
【新 規事業のための資源はすでに揃っていた】
花崎さんが新規事業を立ち上げることができたのも、初めから野心満々で次の事業を狙ったのではな く、「フラワーショップの業績をどう上げるか」を課題にしたことで、「花」から離れずにアイデアを探すことができた点にある。
実は彼女は、 フラワー教室を始められる「ハウツー」と「スペース」と「仕入れ先」とをすでに持っていたのだ。フラワーショップを開くための教室通いを通じて、「どう教 えれば素人がアレンジをできるようになるか」を彼女はつかんでいた。また、自分の作業用に設けたアトリエは教室にもなる。そして「ショップで扱う商品」も 「教室で扱う教材」も同じ卸元から仕入れができる。
【すでにある複数の要素を結合したのがアイデ ア】
答えを明かすと、「なーんだ」と思うかもしれないが、実は「なーんだ」と反応されるくらいが、アイデアとしてはいい頃合いなのだ。意 外性を感じるアイデアというのは、話としては面白いが、実際に事業展開を図っていくうえでのハードルは高くなる。
それに彼女は教室だけをや るのではない。「教室併設ショップ」である。この業態は決して古臭くはない。しかも、ひとりで、ほぼ同一の経営資源を使って 2つの事業を営めるのだから、これは「一粒で二度おいしい」ナイスアイデアと言うべきだ。
また、この「なーんだ」が見つけられず、業績を伸 ばせなかったり、そもそも起業できなかったりする人も多い。「自分はショップを経営するのだ」と決めてかかってしまえば、「教室」というアイデアは出てこ なくなってしまう。彼女がそのワナに落ちずに済んだのは、ショップという空間より、花という素材に意識が向いていたからだ。
そもそも事業ア イデアというものは、何もかもが突然に閃いて出てくるようなものではない。すでに自分の中にある、いくつかのキーワードが結び付いて出てくるものである。
「通 学経験」「作業用アトリエ」「毎朝行く仕入れ先」。彼女の頭の中にバラバラと存在していたこれらのキーワードがくっついて、「そうか! 自分で教室をやれ ばいいんだ」というアイデアに至ったのだ。そして繰り返しになるが、この 3つのキーワードを結び付けることができたのは、彼女が花にこだわっていたからである。
【アイデ ア探しは本来、起業準備段階で】
前回の「強化書」では【自分の強みの認識】を学習した。それを思い出してほしい。花崎さんの場合は、当 然、花を扱うことに強みがある。アイデアだけなら、いろいろな事業分野に及んで考え付くこともできる。だが、そのアイデアを本当にビジネスにしようと思え ば、その事業を自分が「できる」、そして「やりたい」と思えなければだめなのだ。
花崎さんのケースは、アイデア発見のタイミングが起業後だ が、本来、こうした取り組みは、起業準備の段階でしっかりやってほしい事柄だ。実際、「フラワー教室併設フラワーショップ」は、開業の時点から実施可能 だった業態である。彼女が気づくのが遅かっただけのこと。たまたま他店との差別化が容易な立地での開業だから良かったが、これが競合ひしめく場所だった ら、彼女のショップは相当な苦戦を強いられていただろう。
今週のキーワード<扇の要>
いい事業アイデアとは、新規性や採算性が高いことはもちろんだが、何よりもまず、自分の強みを生かせ
るアイデアのことだ。そして、その強みこそが、一見バラバラに存在するアイデアのタネをひとつに結び付
けてくれる「扇の要(おうぎのかなめ)」なのである。