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同業者だけが、ライバルではない
解説
【限られた休み時間の使い方】
オフィス街に「コーヒーと文具の店」を出し、昼食後の女性来店客 を収益の柱と考えた昼末涼子さん。しかし客足は予測を大きく下回ってしまった。同業店が近隣にないことを確かめた上での出店だったのに……。一体、女性た ちは昼休み、どこへ行っているのか?
もちろん、特定の場所を言い当てられるに越したことはないが、この問題は答えがひとつだけ、というわ けではない。オフィス街にありそうで、彼女たちが行きそうなところなら、実は大概が正解である。むしろ正解がたくさんあることが今回のポイントなのだ。
と えあえず一例を挙げよう。女性たちは、食後にクイックマッサージ店へ出かけていた。 1時間ある休みを、食事に20~25分、マッサージにも20~25分、残りの時間を移動などに費やしていたのだ。
しかもそのマッサージ店で は、来店者に本格的なドリンクサービスをしていた。ということは、「食後の飲み物」という点で、昼末さんの店とぶつかりあっている。
【甘かった競合店調査】
昼末さんは出店に際して十分に競合チェックをしたつもりだった。彼女の出 店予定地から一番近い外資系ブランドのカフェまで500mは離れている。いくつかある近隣の飲食店にもすべて入って調べてみたが、やはり本格的なコーヒー を出す店はひとつもなかった。
だから「同一商圏内に競合はいない。この場所ならできる」と昼末さんは判断したわけだが、結論としては、彼女 の競合チェックは甘かった。なぜ甘かったのか。それは彼女が、「競合とはどういう相手を指すのか」を、しっかりと理解していなかったからだ。
【同一ターゲットを狙う異業種こそ要チェック】
飲食ビジネスに限らず、多くの人が「競合」と言 われて思い浮かべるのは同業者である。もちろんそれも間違いではない。だが、それだけではないのだ。むしろ、見つけにくいという意味で同業者以上に手ごわ いのが、「同一ターゲットを狙う異業種」である。
昼末さんの店も、近所のクイックマッサージ店も、共に「このオフィス街にいる、昼食後の時 間を持て余している若い女性たち」をメインターゲットに選んでいる。これは、ひとつのビジネスチャンスをめぐる壮絶な戦いである。なのに昼末さんはクイッ クマッサージ店を「同業者ではないから」と思って、まったくチェックしなかったのだ。
もし事前にその店に行き、無料でおいしいコーヒーやお 茶が提供されていることをつかんでいたら、昼末さんは現在のようなコンセプトの店にしただろうか……。
【暇つぶしツール市場に起きた革命】
これは実際の話だが、近年、雑誌類の売り上げは非常に厳しい 状況にある。なぜか? 情報を探す手段がインターネットに移行してしまったからだろうか?
確かにそれもある。だが、それ以上に雑誌に痛打を 与えたのは「ケータイ」である。そもそも雑誌はきちっと机に向かって読むようなものではない。電車に乗っている時や、人と待ち合わせをしている時など、つ まり、行動が制限されている時の暇つぶしのために読むことのほうが多い(多かった)ものだ。
しかし現在はどうか。車中や待ち時間では、ケー タイを取り出してゲームで遊ぶ、メールをやりとりする、ネットでものを調べるといった行動が急拡大している。つまり、雑誌はケータイに「暇つぶしツール市 場」の王座を奪われてしまったわけだ。
【競争相手はまだまだいる?】
雑誌VS ケータイにせよ、カフェVSクイックマッサージにせよ、異業種ではあるが、同じターゲットを奪い合う関係である。繰り返すが、競争相手は同業者だけではな い。だから、クイックマッサージ店が仮にドリンクをサービスしていなくても、昼末さんにとってはライバルなのだ。
そしてこのオフィス街に は、他にも同一ターゲットを狙う異業種サービスがあるかもしれない。だとすれば昼末さんにとっては大変なことである。冒頭で記した「正解がたくさんある」 というのは、さまざまな競争相手がひしめいているかもしれないという意味である。
今 週のキーワード<有利な環境>
昼末さんの「誰に、何を、どう売る?」の内容自体は悪くなかった。むしろナイスアイデアだ。
それだけに競争相手を見抜けなかったことが悔やまれる。
いい事業アイデアができたら、次はそれをもっとも有利な環境で始めることを真剣に考えなくてはならない。