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実際にできるのかを、厳しく検証する
解説
【人に任せるか、仕事を削るか】
自らの禁煙体験を生かし、同じ苦労をしている人々の力になろう と、「禁煙グッズショップ」をネット上に開設した寝ズ甚八さん。しかし全業務を一人でこなし、顧客にも個別対応しているため、寝る暇もなく、とうとう倒れ る寸前に。これでは元も子もない。今後どうすればいいのか? そもそも何がまずかったのか?
最終的な答えはひとつ。寝ズさんは仕事量を減 らすしかない。ただし、仕事量を減らすための手段には、大きく異なる2つの方法がある。ひとつは自分がやっていることを誰かに任せる方法。もうひとつは、 業務自体を削減する方法だ。では、どちらがいいのか? できれば、どちらか一方ではなく、両方の手段を取り入れていきたい。
急に仕事を任せ ようと思ったところで、それを依頼する相手は簡単に見つかるものではない。また、見つかったとしても、管理や育成の手間は増えるし、当然ながら人件費や外 注費の上昇を招いてしまう。半面、業務の削減は、ひとつ間違えれば顧客満足の低下や収益力の低下につながる恐れもある。
【事業の魅力を損なわないように改善する】
つまり、どちらにもリスクはある。したがって取るべき 方法は、業務を細かく分類し、その種類ごとに、よりリスクの低い方法はどちらかを考え、いずれかを選択する、あるいはいずれも選択しない、などの結論をひ とつひとつに出していくことである。
例えば、梱包・発送作業はパートタイマーを雇って任せる。メルマガの発行は週刊から隔週刊に減らす。顧 客対応は従来同様、精力的に行う。といったように。
大事なことは、この振り分け方針を間違えないことだ。梱包・発送作業は自分でやる。メル マガの発行間隔は現状のまま。顧客対応はパートタイマーに任せる、と決めたらどうだろう。事業の崩壊は目に見えている。
要するに、事業の魅 力を維持できるギリギリのラインまで、業務の委託と業務自体の削減とで、自らの作業を減らすこと。オーバーワークを改善するための応急処置はこれしかな い。
【将来どうしたいのかを決める】
こうした改善を繰り返しながら、抜本的な 改革にも取り組みたい。過労で倒れるほど働かなければ顧客満足と回収が維持できないビジネスモデルには、やはり問題がある。
この事業の強み は、言うまでもなくグッズの販売に際して、寝ズさんが親身なアドバイスを行うことにある。しかし、それを寝ズさん一人に負っている点が、この事業の弱みに もなっている。相談者が10人ならいいが、1000人になったらどうする、という事業の成長を前提とした課題に対する答えも、彼は持ってはいないようだ。
ま ずは根本的な意思決定が必要である。寝ズさんが、この事業を自分ひとりで家業的に進めたいなら、相談に乗る人数を限定していくことである。一方、この事業 を社会的に広めたいなら、寝ズさんと同様のコンサルができる「禁煙アドバイザー」を確保するシステムづくりが必要となる。もちろん、初めは一人でじっくり と、段階を追って複数体制に、という長期的な計画でもかまわない。
【事業実施上の課題を解決し ておく】
ここで寝ズさんの準備段階をチェックしてみよう。「なぜ、何を、誰に、どう売るのか?」という事業アイデア上の課題には、ちゃん と答えを出している。しかし、この事業を「日々、どう運営するのか」や「将来、どう発展させるのか」という事業実施上の課題には、きちっと答えを出してい なかったようだ。
寝ズさんには強い使命感があり、市場もこの事業に魅力を感じている。だから事業としては成立可能。だがその段階で満足し、 実施計画をおざなりにしてスタートを切ってしまうと、かえって動機やアイデアの素晴らしさが災いし、起業家自身のオーバーワークや、それがたたっての顧客 サービス低下という問題を引き起こしかねないのだ。実際、こうしたケースは非常に多い。
どんなにいいアイデアに基づく事業でも、日々の業務 システムができていなければ稼働はしないし、将来ビジョンが立てられていなければ行き詰まるということを、寝ズさんはしっかりと理解しておくべきだった。
今週のキーワード<先のこと>
なぜ、何を、誰に、どう売るのか?」を確立したら、今度は、
「誰が、何を、なぜ、いつ、どう作業するのか?」という業務システムを練り上げること。
また、その事業をどう伸ばしたいのかを考え、さらに成長に伴って業務システムをどう変えるのかも考えておくこと。
「そんな先のことまで……」ではない。いい事業は、起業家が予想するより、はるかに早く発展することが多いからだ。