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事業計画は、読む人の立場に立って作成する
解説
【迅速・正確に事業の魅力を伝える】
元来ペット好きの犬林素子さんは、保険外交で得た知識を活 かしてペットの医療共済を企画。その事業の正否を確かめようと、動機や理想をレポート用紙にびっしりつづり、それを知人の経営コンサルタントに手渡した。 が、コンサルは書類を一目見ただけで、中身を読むこともなく、彼女に突き返してしまった。なぜなのか?
「ボリュームが多すぎて、読むのが 大変」と答えた人は正解。「横書きレポート用紙に手書きでびっしりでは、要点が把握できない」と答えた人も正解。「そもそも書類をいきなり渡して、さあ読 んでくれという姿勢が良くない」という答えもいい。
「事業の正否を確かめる」という目的を考えれば、これは、事業計画書にして提出すべき ケースだった。事業計画書とは、事業の内容、意義、具体的な進め方、実現性や採算性、安全性や成長性などを、客観的に、かつ、明瞭・簡潔・平易にまとめた 書類のこと。
したがって書き方は、項目を立て、箇条書きを中心に、可能な限り数字を使って根拠を示すものでなければならない。当然、数字は 表や図にまとめる。また、写真や絵を添付してもいい。要は、早く、正確に、事業の魅力を相手に伝えるためのツールなのだ。手紙のようにズルズルと文章をつ らねる書き方では、到底その目的は果たせない。
【強い思いこそ、人に伝わるような配慮が肝心】
犬 林さんは事業計画書の存在自体を知らなかったかのかもしれない。しかし問題は、それを知らなかったことではなく、読む人の都合を考えない書類を作成した姿 勢にある。労を取ってくれる相手への配慮を欠いて、自分の書きたいことを、書きたい順に、書きたいだけ書く、という人が、本当にビジネスを成功させられる だろうか。
実際、商談などの場面で、商品やサービスについての説明を請うと、とうとうと前提や背景をしゃべりまくり、肝心要のポイントにな かなか行き着かない営業担当者がいる。お店に入って、そういう販売員に出くわすこともある。「私が聞きたいのは、従来製品との違い、他社製品との違い、価 格、それだけだ!」と怒りたくなるような経験をした人もいるだろう。犬林さんの書類の書き方は、そんな人のしゃべりに似ている。
もっともレ ポート用紙にびっしり書くことがあるという犬林さんのポテンシャルは素晴らしい。子供の頃からペットショップ開業を夢見て、その資金作りのために保険外交 員として優秀な成績を挙げ続ける。にもかかわらず、「今後はペットの販売より、ペットのケアだ」と方向を変え、一からプランを練り直す……。その思いの強 さ、大きさは財産だ。
だが、思いを事業にするなら、関係する人々の立場に立ち、その人たちが理解できるような、あるいは理解しやすいような 形に、その思いを変えて伝える責任がある。事業は、その価値が理解されて始めて稼働するものだ。
【相 手が複数なら、計画書も複数あっていい】
実際、ペット共済事業を立ち上げる過程で犬林さんは、あらゆる人々に事業説明を行い、協力や支援 を依頼することになるだろう。その時こそ、必要不可欠なのが事業計画書だ。ここで、コンサルから受けた手痛い経験が役に立つ。形式や体裁以上に、読む相手 のことを考えて書類をつくる大切さを、彼女は身をもって学んだからだ。
また事業計画書は、 1種類である必要はない。むしろ複数のパターンを作成するほうが望ましい。見せる相手によって、見せる条件(書類だけを渡すのか、一緒に説明もできるのか の違いなど)によって、見せるタイミング(準備の進捗段階の違いなど)によって、記入する情報を足したり引いたりしていいのである。「より伝わりやすい」 ことを重視すれば、そういう判断になる。
【自らの甘さを排除するのも事業計画書作成の目的】
「人 に見せ、理解してもらい、期待するアクションを起こしてもらう」。これが事業計画書作成の第 1の目的だ。だが、それに負けず劣らず重要な第 2の目的もある。「自ら内容をチェックし、ブラッシュアップし、事業実施の際のシナリオにする」。つまり、自分自身のために作成するのである。
仮 に第 1の目的の必要がない場合でも、事業計画書は絶対に作成すべき。「完璧なプランだ」と、頭の中で思っていても、いざ書き出してみると、弱点や問題点、矛盾 点や不明点などがごっそりと出てくるものだ。そもそも、書けない項目があるかもしれない。書けないものを実施することは不可能。事業計画書を作成すること は、「まあ、何とかなるだろう」といった類の甘さを、自分の中から徹底的に排除することにもつながるのだ。
今週のキーワード<修正>
事業計画書は、一気呵成に仕上げる書類ではない。考えながら書き、書きながら考え、書いては人に見せ、人に見せては書き直し……という
ように、修正を繰り返して完成させるもの。言い換えれば、事業計画書は、目に見える「知恵の集積」でなければならない。