起業アイデア 第6回 学習テーマ【マーケティングの活用】

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

標的市場を定めてから、事業計画を立てる

解説

【標的とする市場が不明確】

故郷に帰り、あらためて郷土の味に感激した古里伊知郎さんは、出荷 低迷に苦しむ生産者たちの声を聞いて一念発起。地元特産品のネットショップをオープンさせた。セット割引価格を導入し、健康雑誌や料理雑誌へ広告も出し た。だが、驚くほどに注文が入らない。このままでは運営続行も危ぶまれる状況だ。一体、何がいけなかったのだろうか?

「地元の特産品を何 でもかんでも並べたために商品ラインナップに特徴や強みがない」。「ネットショップといっても、ユーザーに検索されるための仕掛けをしていない」。「セッ ト割引価格を導入しても、セットで購入する意味が提示されていない」。「広告を出した雑誌の読者と見込み客が一致するのか疑わしい」……。

ま だまだ、いくらでも指摘できるポイントはあるだろう。古里さんのショップは、「売れないべくして売れない」としかいいようのない状況である。この失態の根 本は、「誰に売るのか」があやふやな点である。つまり、標的市場が不明確ということだ。

【「誰 に」を基準に「何を」や「どう」を見直す】

農産物や水産物、あるいは加工品など、古里さんの郷土には無名だが素晴らしい食材がたくさんあ る。「これらをもっと売りたい」と考えること自体は理解できる。だが、それを「誰に売るか」を考えていない点、さらに、誰に売るのかを決めないまま、ネッ トショップという業態を選択してしまった点にも問題がある。

「何を、誰に、どう売るのか」は、まさに三位一体である。この中のひとつでも設 定が抜け落ちていれば、事業が成功することはまずあり得ない。もっとも、この 3つのどれから先に考えるかは、人それぞれである。古里さんのように「特産品を売りたい=何を売る」から考える人、「お年寄りの役に立ちたい=誰に売る」 から考える人、「コンサルティング営業をしたい=どう売る」から考える人。どれもあり得る。

だが、 3つのどれから考え始めても、最終的には「誰に」を基準にして、「何を」や「どう」を見直す必要がある。標的とする市場の買い手が本当に欲しているものは 何か、そしてそれを、どうやって提供するのが好ましいのか、そういう順序で戦略を立てるほうが、売れる道筋をつくりやすいからだ。このように、市場を理解 し、その市場の性格に合致するように事業計画を立てることをマーケティングという。

【市場を定 めなければ、マーケティングはできない】

ところで、「○△町の特産品」を買おうとする人とは、どういう人たちだろう。その町の出身者で現 在、他の地域に暮らしている人、あるいは、その町に観光や商用で訪れたことがあって、その時に食べた食材が忘れられない人、そんなところだろうか。だとし たら、これはあまりにも小さすぎる市場であり、採算が取れなくて当たり前である。

もっとも古里さんは、市場をそんなふうにはとらえていな かっただろう。極端な話、彼は「買ってくれる人なら誰でもいい」くらいに思っていたのではないだろうか。つまり、狙うべき市場を特定していないのである。 市場を定めなければ、マーケティングは実施できない。

【市場と相性のいい4Pを考える】

さ て、よりよいマーケティングを実現するための方法として有名なのが、マーケティング・ミックスである。これは、Product(商品)、Place(流通 経路や販売場所)、Price(価格)、Promotion(販売促進)という 4つの要素を、市場の性格に応じて考え、決定・実施していく方法だ。

仮 に古里さんが、市場を「全国の鍋物ファン市場」と定めていれば、Productは当然、バラバラの特産品ではなく、調味料も含めた「鍋に入れる具一式の セット」にしていたはずだ。材料に地元産品を使うことは言うまでもない。

また、そうすれば、Placeにネットショップを選択したことも活 きてくる。たとえば鍋物は夏場には不人気と思う人が多いだろう。だからスーパーの店頭からも鍋物セットは消えてしまう。だが、少数ではあっても 1年を通して鍋物を食べたい人はいる。鍋物専門ネットショップなら、むしろ夏場にはこういう人たちをゴソっと獲得することも可能だ。

さらに Priceも、鍋物セットなら付加価値があるので、比較的、融通をきかせて設定できる。少なくとも「複数種類の特産品を買った人には割引をする」というよ うな苦しいことはしなくて済む。むしろ、具に使う特定の産品をオプションとして単品販売すれば、多少高めの価格設定も可能になるだろう。

Promotion も、商品が鍋物なら、雑誌広告などの手法よりは、「鍋物」というキーワードでネット検索上位にくるよう「キーワード最適化」を図ったり、検索サイトにキー ワード広告を出したりなどという方向になってくるはずだ。

もちろん「鍋物ファン市場」は一例である。「珍しい漬物のファン市場」でもいい。 要は、標的市場を設定してマーケティングを実施していれば、古里さんの町の豊富な食材は、もっと多くの食卓に並んだはずだった、ということだ。

今週のキーワード<インターネット>

かつては、どんな市場があるのかを探ること自体、一苦労だった。だが現在はインターネットの普及により、誰が何を望んでいるのかを知るこ
とは決して難しくはなくなった。自分が進出すべき市場とは……。これを徹底的に考え抜くことが事業計画の根幹である。

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