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強い独立意識が、周囲の人々に応援を生み出す
解説
【簡単にあきらめられる独立なら、しないほうがいい】
素晴らしいセンスの持ち主と評判のデザイ ナー、絵口洋介さんは、先輩の「キミならフリーでやれるよ」という言葉に触発されて独立を決意。丹念に収支を予測した結果、十分に続けられる見通しも立っ た。だが、開業資金が足りない。そこで両親に借金を申し込むが、一蹴されてしまう。結局、彼は独立を断念。さて、その判断は正しかったのか?
結 果的には正しかった、と言うべきだろう。「独立は早すぎる。そんな金は貸せん」と父親。「自営業がどんなに大変か、お父さんを見て知ってるでしょ」と母 親。たったこれだけのセリフであきらめてしまう独立なら、しないほうがいい。
絵口さんには、デザイナーとしての高い技量や、冷静に収支を予 測する金銭感覚など、「独立できる」資質は備わっている。だが、肝心要の「独立したい」という思いが足りない。信念のない独立ほど危険なことはない。だか ら独立しなくて良かったのだ。
【親は子の判断を客観的には評価しない】
では、 あなたが絵口さんのような若者だとして、どうしても独立したいと強く思っていたとする。だが、開業資金がない。そんな時、あなたならどうする?
資 金の調達方法は、このプログラムの第 2クール・第 7回でくわしく紹介しているので、そちらを参照してほしい。つまり、親がダメでも手段はいくらでもあるということだ。だが若い人の多くは、やはり親に相談を 持ちかけることが多い。あなたなら、親をどうやって説得する?
結論から言うと、「親を説得する」という行為は非常に困難である。なぜなら、 親は子の判断を客観的に評価しようとはなかなかしないものだからだ。子を守るのが親の本能。親にとっては、どうしても独立に伴う危険性のほうがクローズ アップされてしまう。
【信念を伝えようとする心意気が大切】
時折、「親も説得 できないのに、世間を説得できると思うのか」というような論を耳にすることがあるが、これは注意して聞かないといけない言葉である。親は顧客でもなけれ ば、投資家でも共同経営者でもない。事業内容の良し悪しで協力するかしないかを決めるような存在ではないのだ。
ただし、「親を説得しようと する気概もないのに、世間に認められようなどという精神ではダメだ」と、上記の言葉を理解すれば、価値は大いにある。結果として説得できなくても、何とか 自分の信念を親に伝えようとする心意気が重要なのだ。若い人にとっての独立とは、勤務先からの独立という意味に加えて、親からの最終的独立という意味もあ る。
【支援の輪は、強い意思を持つ人にのみ広がる】
父親から「早すぎる」と言 われれば、「早すぎない」ことを主張すればいい。あるいは、「早いほうが得なのだ」と反論してもいい。「早いか遅いかが問題ではない」と切り返してもい い。それでも父親は首を縦には振らないかもしれない。それなら第 2ラウンドにかける。まだ、だめなら第 3ラウンドにかける。それでもダメなら、さらに……。
そこまで頑張れば、父親は、納得はしなくても折れてくれる可能性はある。あるいは、父 子の対立を見かねた母親が助け船を出してくれるかもしれない。一旦、「わかった」と口にすれば、今度は誰よりも頼りになるのが肉親である。
何 としても独立したいという強い思いがあれば、絵口さんも、もっと親に食い下がるか、あるいは、何らかの方法で資金不足を解決しようとしていたはずだ。親も 含めて支援の輪というものは、そういう強い意思を持った人に対してのみ広がっていくものである。
【配 偶者間のコミュニケーションは重要】
一方、世の中には甘い親もいる。我が子がお金を必要としている、というだけで、どういう事業をするつ もりなのかを尋ねもせず、資金を用立ててしまう人もいるものだ。もし、自分の親がそういうタイプなら、「ラッキー」で済ませてはいけない。必ず第三者に事 業計画を伝え、客観的な意見をもらってから独立準備に入るようにしてほしい。
ちなみに、30代、40代……と年齢が進めば、親の了承に代 わって、夫婦間での了承を求めるケースが多くなる。この場合も、根気よく相手と話し合うことが肝心。最悪、理解が得られずに見切り発車になっても、何も伝 えずに始めてしまうよりはいい。語らずとも通じ合える親子関係と違って、夫婦は、語り合うことで絆を深めていく間柄だからだ。
今 週のキーワード<理屈抜き>
いいアイデア、いいプラン、すぐれた経営能力。こうしたものが揃っていれば起業・独立はできるはずだし、その挑戦を応援しようという人も少
なからず現れるだろう。だが、そうした「理屈」とは別のところにいるのが家族だ。だからといって家族を軽視してはいけない。起業後、困難に
見舞われた時、「理屈抜き」で支えてくれるのは家族である。