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誰に、何を、どう売るかを、徹底的に練り上げる
解説
【モデルケース】
「リストラも定年退職もない仕事がしたい」。そんな思いを抱き続けてきた茶話 田研二さん(49歳・仮名)は、出張で訪れた上海で中国茶に魅せられ、中国茶専門店の開業を決心した。現地の問屋も好条件での卸しを約束。数カ月後、退職 金を元手につくったショップが都心の一等地で産声を上げた。扱う茶葉は100種類超という充実ぶり。だが、来店者数が伸びない。店舗前通行量も価格も問題 ない。何が悪いのか? また、どうすれば業績を好転させられるのだろうか?
【座学編で学んだこ と】
茶話田さんは、起業するうえでもっとも大切な「事業の基本構想」を練っていなかった。つまり、「誰に、何を、どう売るか」の設定が甘 い。これが不振の最大要因だ。したがって今後の対策も、1.ターゲットを考え直す。2.商品ラインナップを考え直す。3.販売・提供方法を考え直す。以上 3点からの取り組みが必要になる。
ターゲットについていえば、カフェやエスニック料理店などへの卸売りもある。また、店舗商圏内だけに顧客 を求めるのではなく、全国の中国茶ファンを狙う発想も必要だ。そもそも、ターゲットが絞れなければ出店エリアも特定はできない。ただ単に通行量の多い場所 という観点で選んだ「一等地」は、決してその事業にとっての一等地とはいえない。
また、中国茶という大雑把な商品のとらえ方も考え直すべ き。想定した顧客が喜ぶもの。それが商品だ。もう少しくわしく言えば、相手によって売れそうな品種を、その相手が望む分量、価格、ネーミング、パッケージな どに仕上げてこそ商品である。また、茶葉だけでなく、茶器や茶菓をセットで販売することも検討課題である。
さらに売り方を考え直すこと。 「店舗で来店者を待つ」のもひとつの売り方だが、やはりこのジャンルであれば、ネットショップを設けたい。そこでプロ用に卸売りを行っていることも告知で きる。一方、店舗は「商品を並べて待つ」だけの場所ではない。イベントが開催できる空間だ。試飲会や勉強会、懇話会など、いろいろな企画を立ててターゲッ トにアプローチすることも不可欠である。
事業アイデアを煮詰めるということは、「誰に、何を、どう売るか」を考え抜くこと。さらに、それぞ れの答えを一本の線でつないだ時、それが無理なく、魅力的で、かつ新しさを感じさせる組み合わせになるまで改良を繰り返すこと。この仕組みの出来ばえこそ が、事業の成否を決する基礎になる。
【実践編で学んだこと】
より具体的な茶話田さんの事業改革案を 考えてみた。
まずは「誰に売るか」。「茶」以上に「中国」のほうに力を入れることで、今や決して少なくない、中国ファンや中国マニアに訴求 していく発想がある。「中国茶」は「中国」と「茶」から成り立つ言葉。このようにひとつの概念を分解し、取り出した要素一つ一つに絡む市場や顧客を探るこ とで、新たな市場に手を掛けることも可能なのだ。
「何を売るか」。基本は「モノではなく、生活を売る」視点。つまり「お茶のある生活」。な らば茶器や茶筒、点心などの付属品・関連商品はもちろん、作法や蘊蓄などの情報、さらには中国茶が醸し出すムードなどをセットにして提供できることが望ま しい。
「どう売るか?」。店舗販売を前提とした場合、生命線になるのが出店地や立地。大切なのは、その業種、その業態、その規模にとって、 その場所が一等地かどうか。茶話田さんのケースでいけば、その場所は「中国茶が買いたい」と思うような場所か、または、そう思うような人がいそうな場所 か。そういう検証が必要になる。その結果、やはり「一等地」ではないのなら、ネット通販や業務用卸売などに活路を見いだしていくことになる。
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「何屋」ではなく、「誰屋」で事業を語 れ!
ケースでは、茶話田さんの店を「中国茶専門店」と紹介している。この例に限らず、多くの場合が事業内容を、扱う商品やサービスで伝え ることが多い。曰く、「鮮魚店」「薬品問屋」「半導体メーカー」……。対外的にはこういう言い方をしても構わないが、本音はそうではいけない。何を売って いるのか以前に、誰に売っているのかが重要なのだ。「中国茶専門店」ではなく、「中国茶ファン専門店」である。中国茶を売るのではなく、中国茶が好きな人 に対して何かを売る。そして、その人たちが望む売り方をするのである。
実際すでに「誰に」を切り口にしたフレーズも増えてきている。「大き いサイズの人のための~」「ペット連れOKの~」など。ターゲットを明確に設定し、それをアピールすることで広がるチャンスもある。また、こんな人もい る。「私は『2007年屋』です」。この人は2007年に大量に生まれる定年退職者をターゲットにして、その人たちが必要なモノやコトを、あれこれ提供す るするビジネスを始めている。一時払いの生命保険、世界一周旅行、趣味の講座の案内などだ。商品はバラバラだが、ターゲットにとってはワンストップでニー ズを満たしてくれる重宝な存在である。
マーケットの主導権を握るのが売り手だった時代なら、売っているものを看板に掲げ、「さあ買いに来 い」と構えていることも可能だった。しかし、今、主導権を握っているのは明らかに買い手である。どんな買い手を狙うのか。その狙った相手の望みをとことん 叶えることがビジネスを伸ばす鉄則である。