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ビジネスプランといえば「差別性」!?
先日、ドリームゲート主催の「ビジネスプランコンテスト」がありました。7人のファイナリストがとても大きな会場でプレゼンをしていました。今回は約 220件もの応募があったそうです。私も以前、横浜のビジネスプランコンテストの一次審査員をやりましたが、世の中にはいろんなことを考えている人が実にたくさんいるのにわくわくしました。
ビジネスプランコンテストの審査もそうですが、投資家が投資を決める要素のひとつに、「差別性」があります。言うまでもなく、「他の企業や他のサービスとは何がどう違うのか」ということです。これはビジネスプランを説明しているときに、一度は「このプランの差別性は何ですか?」とほとんどの人が聞かれたことがあるのではないかというぐらい、ポピュラーな要素。でも意外と投資家を前のめりにするための回答が難しいのです。
意外と「前のめりにならない」ありがちな3つの差別性
以下の3つが、よく経営者が口にする「前のめりにはならない」差別性の例です。
(1)「特許を保有しています(あるいは特許出願中)」
「特許を持っていればその技術は押さえられる」のは確か。でも、世の中では類似の技術を使って類似の商品を開発することは日常茶飯事です。新技術が他社で開発されたらその特許は縛りになりません。特許を持っていること自体では投資家は前のめりにはならないのが一般的。もちろんあったほうがいいですが、「特許申請中!」と赤字で書かれていても「ふーん」という感じで終わってしまいます。
(2)「競合はいません」
今の世の中で競合がいないビジネスなんて信じられません。そのビジネスそのものの、競合はいなかったとしても周辺まで広げれば競合はいるはずです。そもそも、もし本当に競合がいないビジネスだとすると、そのビジネス自体の展開が難しいのかもと思ってしまいます。他社が興味関心のない分野か、やってみてうまくいかなくて撤退したかもしれない。そんな風に考えてしまいます。
(3)「ニッチな分野なのでシェアをすぐに獲得できます」
例えば200億円規模のマーケットで、シェアを50%とって売上100億円。どんなにがんばっても売上200億円。ニッチはベンチャー企業としては参入しやすい分野ですが、それだけでは差別性にはなりません。その後のビジョン(どこまでマーケットを広げるか)を明確に伝え、理解できなければ、売上 200億円が上限の会社には投資しません。
「市場認知シェア」と「手間のかかる作業」が差別性のカギ
以下の3つを押さえると、投資家は「前のめり」になります。
(1)大きなマーケットでの「市場的認知シェア」がすぐに取れそうな「匂い」がすること
アメリカの数学者であるクープマンが「シェアの目標値」を提唱しています。
73.9%: 独占的市場シェア
41.7%: 相対的安定シェア
トップの地位は安定しており、ほぼ逆転されることはないシェア
26.1%: 市場的影響シェア
1位では不安定なシェアだが、2位でこのシェアだと市場に影響を与えられる
10.9%: 市場的認知シェア
消費者にブランド等の存在を認知してもらえるシェア
6.8%: 市場的存在シェア
市場において存在を許されるシェア。ちなみにGEの撤退基準はこれ以下。
ベンチャー企業でいきなり独占的市場シェアをとることは現実的ではありません。むしろ、短期的にそのシェアを取れる場合はニッチ市場であって、投資家からすれば魅力はあまりありません。それよりも、大きな市場で短期的に10.9%のシェアを取れるほうが魅力的です。1000億市場でも109億円になるのですから。
シェアを取れそうな「匂い」を醸し出すためにもっとも効果的なのは、「小さくてもいいから売上見込みがほぼ確定していること。」売上見込みリストがあると説得力が増します。大きいマーケットほど、参入企業も多く、最初の一歩が踏み込めない。「これから売る」のと「すでに売れている(見込みがある)」のとでは雲泥の差があります。
(2)「必要だけど誰もやりたがらない」サービスであること
例えば「手間がかかる」「効率的でない」「標準化できない」というサービスは大手がやりたがらない。ベンチャー企業の多くはこれに目をつけて、サービスを提供しています。
日本駐車場開発という駐車場のサブリースをしている会社があります。ジャスダックに上場後史上最速で東証一部上場に上がった会社ですが、設立当初は、街中のパーキングの価格を一軒一軒足を使って調べることでマーケットバリューを把握し、適正な価格をユーザーに提供することで収益を伸ばしていきました。こうした地道なマーケティングは大手はやりません。確かに手間のかかる作業ですが、これで確立したデータベースやノウハウは他社に対しての圧倒的な差別化になります。
結局のところはマネジメントのクオリティが一番の差別性になるのです
これが3つめです。ここでいうクオリティとは、経営陣の事業に対する経験や考え方の柔軟性、ビジョン、バイタリティ、熱意、意欲、金銭感覚、嗅覚、ストレス耐性、器の大きさ等を言います。投資家が非常に厳しい質問を投げかけることがあります。それは、本当に疑問に思っている場合もありますが、厳しい質問をした際の経営陣の受け答え方や返答の内容を見る、いわゆる「圧迫面接」のようなものだとも言えます。
ビジネスはプランどおりには行くことなどほとんどありません。修正を何度も走りながら行って形にしていくものです。投資家や起業家ほど、「100%安心できる差別性は存在しない」ことはわかっています。差別性をとにかく気にするのはもっぱら実業をしたことのない経営コンサルタントです。もちろん始める前に差別性が何もなければそのビジネスで他社に勝つことはできません。本当に大切なのは、マネジメントが市場環境や競合の動きを敏感に察知してその都度差別性を修正、加工、創造していくことです。その姿勢をマネジメントがプレゼンの随所でアピールをして投資家が感じることができたとき、「前のめり」になります。