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私教育を取り巻く現状
今年の1月末に大阪市の橋下市長が教育バウチャーをモデル事業として実施することを発表しました。経済的理由で塾や習い事に通えない子供たちが対象で7月から同市西成区の中学生の約半数が対象になるというものです。こういった取り組みでまだ耳に新しいものに子供手当てがあります。これはバウチャーではなく現金ですので教育以外の用途にも使用できますが、塾業界の業績に大きく貢献しました。
塾業界の追い風
このような大阪市の取り組みは本格的に実施され全国に広がる可能性がありますし、また学習指導要領の改訂により、塾の存在意義はより大きなものとなってきています。
ただし、では塾であればどんな塾でも生徒が集まるのかといえば答えはNOです。
意識としては塾が大きく求められているとはいえ、人口の減少、特に学童人口の減少はれっきとした事実であり、淘汰の波にさらされていることは間違いありません。
ではどういった塾が生き残れるのでしょうか。筆者の考えを話していきたいと思います。
塾の進化と個別指導
昔は寺子屋から今はデジタルデバイスで授業が受けられるまで進化してきました。この教育業態の進化には2つの軸があります。
1つは“場と時間の制約からの解放”です。これは教育に限らずほとんどすべての進化というものは、この2つからの解放を目指すというベクトルを持っています。多くの塾が導入している映像授業などはこの最たるものです。見る時間を選びませんし、自宅やデジタルデバイスで視聴できるのなら場所も選びません。
もうひとつの進化の軸は“密着”です。こ単純に申しますと塾はより密着化してきています。指導形態の主流が集合塾から個別指導への移行にみられるように、より「個」に焦点があてられてきています。一つ目の軸は商品を軸とした進化とするならば2つ目は人間を軸にした進化といえます。
この考えをお話するとよく、こういったことをおっしゃる方がいます「一つ目の軸が商品軸というのはわかる。でも2つ目も商品形態が変化したものなのでこれも商品軸のひとつではないか」確かにそのとおり、単にビジネスモデルで見れば、より売れるビジネスパッケージに進化したという見方ができます。
しかし筆者はこの部分の捉え方こそが昨今競争が激化している個別指導塾で勝敗の明暗を分けているのだと確信しています。単純に「儲かるパッケージだから」「FCでやれるから」「流行っているから」といった理由で参入した多くの塾・個人は淘汰されています。
「集合よりも個別の方がより面倒をみてあげられるのでうれしい!」人間に焦点をあてて、そう思える人がこれから個別指導で勝ち残っていくのです。
今、教育現場に求められている人材
ここでのキーワードは「職人」です。「なんだ、じゃあ私ではできない、素人だし・・・」 といった声が聞こえてくるかもしれません。たしかにこれから教育に求められる人材は「職人」なのです。しかし筆者がいう職人とは旧来の意味での職人ではありません。
<螺旋状の進化>
ファッションの世界では流行は回帰するといわれています。昔流行したファッションが時代を経て再燃するといったことは常識として知られているところです。住宅でもそうです。
木造建築→コンクリート打ちっぱなしのソリッドな建築→今は町屋や古木を再利用した建築が注目されています。しかしこういった流れは単に昔と同じではなく、同じように見えて現代にマッチするように進化しています。ファッションでいう女性の花柄回帰にしても昔の花柄そのままではないでしょうし、町屋にしても同じです。一見同じなんだけれどもステージ・レベルが違っているのです。
教育における職人も同じです。これから求められるのはステージを一つ上げた職人です。今までのような技術ももちつつ、顧客志向・人間志向のマインドを持った人材が必要とされます。
言葉を変えるならば「本気の人」、そして「顧客適応」できる人しか必要とされない。
あわせて筆者はこれを「顧客適応できる本気人」と名づけています。これは教育に限らず、会社などの組織で活躍するためのキーワードでもあります。
教育の可能性
教育はキャリアの中に自分の今まで生きてきた人生を算入できる世界です。たとえ素人でも一念発起、塾をやろうと思った時、あなたのキャリアは0年ではなく、あなたが40歳なら40年の教育キャリアがあるということです。さまざまな受けてきた教育、歩んできた人生そのものも立派なキャリアなのです。
このコラムの読者は起業して自己実現したいと強く思っていると思います。そして教育の経験が少ない、またはまったく無いという方も多いでしょう。
しかし徹底的に人間に焦点を当てる・可能性を引き出すことをあきらめなければ決して市場が見放すことはありません。そんな優しい一面も教育業界にはあるのです。