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あなたは教育者?経営者?
学習塾経営においては、「教育者」視点と「経営者」視点という2つの視点のバランスが非常に重要です。今までずっと教育に携わってきた方、今までは縁がなかった方でも、「教育」に関して少しでも興味をお持ちの方であれば、他業種で積まれた経験を活かすことができ、ビジネスとしての更なる飛躍はもちろん、「教育」という社会貢献を果たすことが可能です。今回は私が実際に教育の現場で体験した事例を紹介させていただき、少しでもこのすばらしい仕事の魅力を感じていただきたいと思います。
その生徒は突然母親に連れられて教室にやってきました。
学校で実施されたテストの結果が悪かったので、母親がこのままでは大変だと危機感を感じ、学校帰りの子どもを塾に引っ張ってきたという感じでした。
まず始めに学校での学習状況の確認を行いました。特に算数が苦手で、4年生以降は各単元のテストで50点以上をとったことがないとのことでした。教室に来訪された際の学年は小学校6年生でしたが、質問を繰り返していくと、割合はもちろん小数の計算の仕方、四則混合計算の計算の仕方など、どんどん課題が浮き彫りになります。そんな中で私はおそるおそる聞いてみました。
「…掛け算の九九は言えますか?」
母親も「まさかそれはないだろう」という顔をしながら、本人に確認していくと…
7×1=7……7×6=43? 7×7=48?と7の段に入るとスピードも遅くなり、誤った回答が目立つようになりました。
「算数の基礎から学習しましょう。宿題の量なども増えますのでお子様にとっても大変ですが、小学生のうちに身につけておかないといけないことに絞り、中学校に入学した時に少しでも今の遅れを取り戻しましょう。」という私の提案を受け入れていただくのに、時間はかかりませんでした。
ところが、学習計画の骨子が確定し、具体的に授業の回数や月謝の金額を確定しようということになり月額を算出したところ、母親の想定していた金額と差異があり、このカリキュラムでの受講は難しいということになりました。現状の学習状況では、どうしても時間が必要であり、塾側としてもこの生徒の成績アップのためにはカリキュラム変更をしての受講は容易にお受けできない状況です。
皆様ならこんな教育相談を受けたら、どう対応されますか?
1.有料サービス以外の部分で自習のフォローなどを無料で行うことで顧客満足を高める。
2.予定とおりのカリキュラムでないと想定できるパフォーマンスが出せないので、カリキュラムを変更されるならば、入塾そのものを再検討していただく。
仮に上記の二択を選ぶとなると、皆様はどちらを選ばれるでしょうか。
1を選択されるならば…
全体に与える影響よりも個人の成績アップを優先した「教育者」視点が強い選択となったのではないでしょうか。
この選択のメリットとしては、保護者の要望を優先することで、この生徒のご家庭での評価が上がること。また今後の結果の出し方によって、面倒見がよく、保護者の要望を受けいれてくれる塾というクチコミにつながる可能性があるということが想定されます。しかし一方では安い料金で引き受けてくれる塾という評判になると客単価が全体的に下がり、経営を圧迫する可能性があります。
2を選択されるならば…
全体最適を優先することで、敷居は高くなるものの全体的なサービスの品質が向上し、教室の持つ付加価値を高めることができます。この場合は「経営者」視点が強いと言えるのではないでしょうか。
教育ビジネスでは、他のビジネスと同様にさまざまな判断を要する場面が多々あります。
また、その選択の結果は常に正しいわけではありませんし、正解が一つとも限りません。
1を選ばれた際に2のような視点も持っていただき、リスク管理をしていただく。
また2を選ばれた場合も同様に1の視点で考えたらどうなるかという想定を持つことが重要になります。
このようにこの仕事は成功のために自分で選択できるという楽しみもあります。
私はこの局面で1を選択しました。
結果、この生徒が中学に上がる頃には、四則演算が正確に速くできるようになりました。
中学校に入ってからも各定期テストにおいて5科目で300点くらいを取れるようになりました。
300点は一般的に見れば、決して高い点数ではありませんが、生徒本人にとっては非常に大きな成果であり、塾に来ていただくことで掴んで頂いた結果だったのです。
この生徒と保護者からは在籍期間4年間で約10名の友人紹介をしていただきました。
その後、高校に入っても努力を重ね、関西の中堅私大に合格することができました。
先日、この生徒からメールをいただきました。そのメールには、大手商社に就職がきまったことといっしょに次のような文が添えられていました。
「先生のおかげで人生が変わりました。ありがとうございました。」