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時効を援用させるな
少々テクニカルなお話になりますが、今回のお話に出てくる債務者は会社の経営者でした。
そのお客様がツケを利用してから、1年を経過しており、債権者も私も時効という壁に直面しておりました。前回お話したとおり、時効とは債務が時効 であることを債務者が宣言しなくてはなりません(時効の援用)。よって時効の援用をさせる前に、何らかの方法でこの債務者に請求している債権は、まだ生き ているということを認めさせれば、この債権は正当に請求できるのです。
口で言うのは簡単ですが頭を使いました。本当に申し訳ないのですが、実際にこのときに採った方法をここで紹介するわけにはいきませんが、「私が 負っている債務は現在も有効です」という旨の書面に署名と押印をさせることに成功しました。できることであれば、キチンと債務者に事情を話し、このような 書面にサインさせるというのが正攻法です。もちろん何らかの交換条件を提示することもできるでしょう。
債務者を確定させ債権の保全を図る
請求している債権について、この経営 者は支払う意思を見せました。ここからは、今まで散々述べてきたとおりに順序よく債権を保全していきます。
法人の登記簿謄本を確認し、法人が実在することを確認します。もちろんこの法人の代表者が面前の経営者であることも確認しました。次に問題となる 債権が早期の時効を迎える性質のものであることから、時効の期限がより長期のものにするような方法がないものかを模索するのが人情でしょう。せっかく支払 いをするという確約をもらっても、また支払いを先延ばしにされ、時効を迎えたということではどうしようもありませんね。そこで、法人を債務者、この経営者 と法人の役員を連帯保証人とする「金銭消費貸借契約」を締結しました。
金銭消費貸借契約と保証内容
いわゆる普通のお金の貸し借りのことを法律用語では「金銭消費貸借契約」と言います。これは民法に規定されております。こういう言い方をするのだ なと知っておいてください。
なぜ、わざわざ契約を金銭消費貸借契約にしたのかといいますと、商人の間でのお金の貸し借りについての時効は法律により5年と定められておりま す。この間に回収が完遂できればよいのです。また、会社の保証については役員個人が連帯保証についており、会社が万が一支払いを拒むようなことがあっても これらの者に債務履行を求めることができます。
債権額にもよりますが、本当は代表者のほかには社外の別の人間をつけるほうがベターです。会社の破産と同時に会社の社長も同時に、自己破産する ケースが多く、そうなるとどこからも回収できなくなります。もちろんその段階では、会社の役員も自己破産ないしは行方不明となることが考えられます。
今回は、この会社の業績と会社の方向性など今後も社業に専念し拡大を図るという意向でしたので、債権額を考えても十分に回収できるものと判断しま した。なお、この会社は、本件の債務を完済しております。
契約の形態とアフターフォロー
今回も、学ぶべきことがあります。まずは時効という問題。支払いが滞ったときにぼやぼやしていると気づいたときには手遅れということになることが 多いです。債務者の行方不明もありうることです。次には支払いに応じてくれるというとき、相手の財務状況の掌握、連帯保証のこと、そして回収にいたる法的 根拠の調整を適切に講じる必要があります。
今回の案件が回収できたのは本当にたまたまです。簡略化しているところもありますが、実際にはこれほどうまく行くことはないでしょう。滞留債権に なってしまってからでは遅いのです。くれぐれも気をつけましょう。