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事例の概要
相変わらず、金銭の未回収案件というのは、債務者に振り回されることから始まります。
登場人物は、ある特殊業界の映像製作会社が債務者、この債務者に貸し付けをした複数の一般人が債権者です。
この二者は、債務者が上場を目指しており、そのための運転資金の調達として一人頭100万円を借り入れ、上場の暁にはこの貸付金に対して株式を発 行するといういわゆるデット・エクイティスワップという方法による契約を締結していました。把握できている債権者だけで7人、700万円ありました。
上場の目処は3年としており、その計画は書面のうえでは、綿密に練られたものでありました。しかしながら、1年経ち、2年経ちしているうちにこの 会社の信用不安が債権者の間でささやかれ始めます。債権者は、一様に不安になり資金の回収を要求するものの、債務者がのらりくらり本題をはぐらかせ、つい には音信不通となるという典型的なパターンでした。
「出資」は、返済義務がありません。
お金を会社に「出資した」というのと「貸し付けた」というのでは、まったく取り扱いが異なります。契約書を取り交わすとき、この違いは明確にし ておきましょう。
どちらも形の上では、会社に資本を提供するということには変わりありません。
出資とは、出資者(株主といいます)が株式を購入し、文字とおり資本金を提供することを意味します。配当を得ることができる可能性がある反面、この 会社が倒産してしまうと原則的に出資したお金は戻らないと思っていただいて間違いありません。
出資金の返還を請求したとしても、会社は返還請求に応じる必要はありません。出資者は株式を他の者に譲渡するしかないのです。
貸付金も、会社が破産してしまえば戻ってこないことには違いがないのですが、こちらは原則的に債権者の要求に応じて、または契約の定めた事項や貸 借期間の満了により返済義務のあるお金です。
もしもあなたが、ある会社に対して金銭を提供し、書面による契約を交わしていない場合、相手の会社が「出資してもらったのだ」という主張を展開す ると、厄介な話になります。
重々注意しましょう。
契約の特殊性
本案件では、資金調達の契約に「上場準備が進み、上場が具体的になったある時点 で貸付金が出資金に振り替えられる」という手段を前面に打ち出した契約でした。
一見、債務者が、お金を借りる一方で、債権者に報いるために、上場した暁にはキャピタルゲインを得られるように配慮する、というものと思 われます。
しかし、裏を返せば、最初から上場する意思もなく、資金調達をスムーズに行うためにこのような旨みを見せ、資金を調達していたということであれ ば、やはり詐欺罪ということも考えられる余地があるのかもしれません。
もちろん、出資者を募集していたときの経営者の態度を勘案すると、最初から人を騙して出資者からお金を集めていたということではなさそうですが、 こればかりは本人でなければわかりません。
この続きは次回です。