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貸付の経緯
あるコンサルティング会社社長を通して、ある会社が 上場を目指しており、事業遂行に際し資金援助を求めているということからはじまりました。
この社長は、普段から人望が厚く、自分自身をはじめ7名の人々が、本件の債務者である会社に対し即、貸し付けを実行しました。
結果的には、財務状況・事業の成長性の判断を見誤り、このコンサルティング会社社長の話を鵜呑みにしてしまったことが、この案件の悲劇を生みまし た。
実はこのような事例は多いのです。人を信じて出資なり貸し付けをしたのだから、自分が悪いのだと言われるのが通常ですね。与信管理は、適正に行わ なければなりません。
本件の場合、コンサルティング会社社長の判断をもって与信管理としたというのであれば、やはり文句は言えないでしょう。
督促の状況と債権の劣化
再三、電話での督促を行いましたが、支払計画を提示すると各債権者には告知しつつ、唯一の連絡手段であった携帯電話にも出なくなりました。
私も、この会社の本社があったという場所を訪問したのですが、その場所も、すでに別の会社が入っており、法人の本店登記はそのままであるにもかか わらず、営業所は移転してしまっていました。もちろん、この債務者たる会社の社長の自宅を訪問しましたが、もぬけの殻です。債権者からの督促がうっとうし く住居も移転させたようです。
このような状況で、事業がまともに行えているとは到底考えられません。また、社員に対する未払い給与も多額残っていることが判明し、この会社と経 営者が支払える能力はすでにないことまでわかりました。さらにこれら労働債権は、担保のついていない一般債権に優先しますので、財産があったとしても労働 者の給与の未払い部分を支払ってしまえば、いくらも残りません。おそらく、この未払いも支払うことが不可能でしょう。
これらを判断し、コストがかさむことと回収額がないことを理由に断念したのです。
詐欺?
当然、出資者はもともと上場する意思がないにもかかわらず資金集 めを行ったから、債務者を訴えるべきだなどといいます。その気持ちはよくわかります。
しかし、詐欺とは「虚偽の意思表示により、他人を錯誤に陥れることをいい(中略)自己の現在の意思状態に反しておれば、これにあたる」(大判大 6・12・24刑録二三-一六二一)とあり、債務者が最初から弁済の意思がなかった、または支払うことができないことがわかっていたというには、なかなか 難しい面があります。
また、本件のように支払う意思を見せながらお金がないというような場合は、詐欺には当たらないとされております。
反省点?
やはり原因は、与信管理の不徹底です。中間に入っている人が特に日ごろ信頼のある人間であればあるほど、この手の話は悲惨な結果を招くようです。
担保もすでに銀行の抵当がはられており、後の祭りでした。これも事前に登記簿謄本で調べられたはずです。
また、連帯保証人はこの経営者の母親がなるとのことでしたが、収入もなく蓄えもないのでどうしようもない状況です。
このように、いざ事故があったときに何もないようでは困るのです。事前調査を慎重に行いたいところですね。