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事件の概要(2)
個人間の取り引きで、先方から手形を使って支払期日を延期するような提案があったという話でした。結局貸し主はこの提案に乗り手形を受け取りまし た。
手形取り引きは、会社の信用をバックに行われるということを前回話させていただいたのですが、このように取引要件が厳格であるため、先にお話した 取り引きはこの段階で法人の取り引きとして認識されてしまったようです。
「ようです」という表現は、もちろんそれを裏付ける事象が発生したからなのですが、実際の社内での会計がどのように処理されているかは不明なまま です。その事象とはこの後に出てきます。
相手方が経営する会社がいよいよ第1回目の手形不渡りを出したのです。受け取った手形は当然に現金化することはできません。いよいよ資金がなく なっていることの表れです。不渡りは2回目になると銀行取引が停止となりますので、1回の不渡りでもすでに資金が不足していることがわかります。
実際この会社は、すぐに民事再生法の手続きに入りました。手続きの詳細や意味はまたの機会にしますが、「再生手続開始通知書」が貸し主のところに 届いたことからこの手続に入ったことが判明しました。
実は、先の話を裏付ける事象というのがこれです。
契約相手が代わったのか?
話の最初を思い起こしていただきたいのですが、この取り引きは個人の間で行われていました。前記の「再生手続開始通知書」が貸主のところに届いた ということはすでに本件の貸し主が、法人の債権者として認識されているということです。あくまでも個人間の取り引きというのであればこの通知書は発送され ることがないのです。
法人の債権者として認識されるにいたったポイントは手形を受け取ったときしかありません。法人の債権者であるということは、この会社が倒産してし まえば当然のごとく手形は紙くずになってしまいます。
これは手形の取り引き要件が厳格であるがゆえ、起こってしまった現象です。
もちろん、お金の貸し主は憤慨していました。主張は、会社への貸金ではないのだという一点です。しかし、形式的にこの主張を認めることは難しいの です。
これらをひっくり返そうと思えば、訴訟による手段しかありません。法人格の否認や会社の傲慢経営により損害をこうむったとする損害賠償請求などが これにあたります。しかしながら立証や作業の手間などを考慮すると、どうしていいのかわからないというのが当時の現状だったのです。
ポイントは
安易に手形を受け取ったことが、この問題を複雑にしました。
しかし、自分が同じ状態に立たされたとき、冷静にこういったことを判断し、この手形を受け取らないなどといった行為が可能だったかというとそうで はありません。おそらく受け取ったことでしょう。手形を受け取ったほうが貸金回収の可能性は高まると思うのが普通でしょう。お金が返ってくるのであればど ちらでもいいよと思うのが人情だと思います。非常に考えるところの多い事案です。