融資の心得 : 事業経験が無い場合でも、融資は受けられるか

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

「こんなお店を持ちたい!」とか「こんな会社をつくりたい!」という創業は、自身の夢の具体化であり自己実現そのものです。
しかし、“創業”という方法で、自身の夢を具現化するまでの道のりは決して平坦なものではありません。

頭の中のアイデアをきっちりとプランにまとめ、そしてそのプランを実行に移し事業として軌道に乗せるためには、創業者としての「資質」が必要です。創業の成否は創業者という「人」自体に大きく依存しており、アイデアや商品・サービスそのものよりも、「誰がその事業をやっているのか」というパーソナリティに大きく作用されるものです。

例えば、中小企業庁が発行している「夢を実現する創業」という冊子に、創業者として必要な資質の6項目を取り上げていますので、一度、自分自身に問いかけてみましょう。

 ①情熱と信念
  自分の志のために、「何がなんでもやりとげる」という熱い情熱と強い信念を持ち続けること。
 ②優れた独創性
  その事業の商品又はサービスが、同業者にはない優れた独創性を持っていること。
 ③事業の経験
  その事業に関して、充分な経験を身につけること。
 ④幅広い人脈
  創業時に多くの人脈があり、創業後はさらにそれを拡大できること。
 ⑤情報処理能力
  事業に関する生きた情報を集め、それを活用できること。
 ⑥自己資金
  創業時も創業後も事業活動において、資金を充分に蓄え、ムダな支出を控えること。

さて、いかがでしたでしょうか?
この6項目は創業のベースとも言えます。創業融資の審査でも重要なファクターとなりますので、創業の際は、必ず確認するようにしましょう。

 

事業経験が無いよりも有った方が有利な理由

2010年度版の『新規開業白書(日本政策金融公庫総合研究所編)』では、新規開業した経営者の属性として、現在の業種に関連する仕事の経験(斯業経験)のある経営者の割合を分析しており、それによると88.4%が斯業経験ありで、斯業経験のある人の平均経験年数も15.2年となっております。

また、2011年度版の同白書では開業者の斯業経験が開業のプロセスや開業直後の業績に及ぼす影響などについて分析しておりますが、それによると次の3点が指摘されています。

 ①斯業経験を積むことによって開業直後から良好な業績を得やすい。
 ②「業界知識」「人脈」「技術力」「営業力」については、斯業経験が能力の獲得に密接に関わっており、開業直後の業
 績に影響を及ぼしやすい開業者の能力といえる。
 ③経営者としての能力を獲得するために重要なことは経験の有無や長さだけではなく、事業経営者になることを意識
 して仕事をすることといった斯業経験の積み方も重要である。

これらによると、創業に当たっては斯業経験を充分に持った上で、そこで培った知識や能力、人脈などがその後の業績に影響を及ぼしていることがうかがえます。

次に、2011年度版の『中小企業白書(中小企業庁編)』によると、創業した事業の成果が得られている要因として、次の項目(上位10項目)が示されています。

 1位 過去の経験や人脈…46.3%
 2位 販売先の確保…34.1%
 3位 質の高い人材の確保…33.9%
 4位 事業内容の選定…32.8%
 5位 事業に必要な専門知識・技能の習得…31.7%
 6位 資金調達…30.1%
 7位 仕入先の確保…27.5%
 8位 家族の理解・協力…27.5%
 9位 事業のもととなるアイデア…23.6%
 10位 一緒に起業したパートナーの存在…22.8%
 (注)複数回答であるため、合計は必ずしも100%にならない。

さらに、元勤務先や勤務時の取引先と良好な関係を築いていた創業者は、創業後の目標売上の達成割合が高いというデータもあります。
このように、創業に関する事業経験や人脈等の有無がその後の業績や成果と結びついていることがデータとして示されている以上、融資を受けるに当たり、経験の有無というのは必ずチェックされる項目となるのがわかります。

 

斯業経験のススメ

では、結論として「事業経験が無い場合でも、融資は受けられるか?」という質問に対しては、「事業経験が無い場合は、ある場合と比べて融資を受けることが難しい」というのが答えとなります。

これは創業融資というものが、過去の財務諸表などから表される実績をベースに審査できるものではない以上、「本当に事業を立ち上げて続けることのできる“人”なのか」、「お金を貸しても本当に返してくれる“人”なのか」という、創業者という「人」そのものに審査のウェイトを置かざるを得ないからです。

ちなみに、創業融資の審査の現場では、「事業経験の有無」とともに「自己資金の有無(多寡)」も重視されており、この2つが融資を受けられるかどうかの2大ポイントといっても過言ではないでしょう。

そして、自己資金はただ単にお金をそろえるだけではなく、その蓄積過程も重要です。
事業経験を積む過程において、将来の創業を意識して経験を積み重ねて人脈を確保するとともに、コツコツと貯金をして自己資金を貯めたとするならば、その蓄積過程を評価されて、融資を受けられる可能性が大きくアップすることは間違いありません。
要するに、事業成功の可能性は、創業時においては過去の準備過程からでしか客観的に判断できないため、「いかに準備を重ねてきたのか」という点が融資の審査では重要になるということです。
そこで、事業経験が無い場合には、一度立ち止まって「今、本当に創業に踏み切る時なのかどうか」を冷静に考えてみましょう。
事業の知識や人脈、そして自己資金が蓄積していない段階で融資を受けることは困難ですし、何より「機が熟した」とはいえません。

以前、飲食店の開業を希望されている方から創業融資に向けての事業計画書作成の相談を受けたことがあります。事業に対する情熱は人一倍お持ちでしたが、肝心の飲食店についての経験が全くありませんでした。
そこで「創業前に、まずは現場の経験を積んでください。」とアドバイスしたところ、その方は、半年間ほど掛け持ちで飲食店のアルバイトをし、自分なりにその経験をもとに各店を分析しました。その分析結果を盛り込んで創業計画書を書き直して融資申し込みをしたところ、無事に創業融資を受けることができたそうです。

誰でも最初から完璧に準備している人などはいません。
それよりも今、自分に何が足りないのかを冷静に分析して、決してあきらめずに一つ一つ足りない部分を補う努力が、融資はもとより創業を成功に導く秘訣なのです。

 

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