最近宅配レンタルDVDのCMをよく見かけるようになりました。
今日はその儲けのからくりを会計面から解き明かしてみます。
- 目次 -
今までのレンタルDVD店
レンタルDVDといえば、レンタル 店に足を運んで作品を選んで借りるというのが当たり前でしたが、利用者にとっても負担になる点がいくつかありました。返却の際に「今日まで返さなければい けないのに、急な用事が」とか、「パッケージの中身を家に忘れてきた」なんてことで多額の延滞料を請求されたという事は誰しも経験があると思います。
レンタルDVD店というビジネスモデルは、立地と在庫に左右される業態だといえます。利用者の利便性を考えれば駅の近くの便利な建物にレンタル店を構えな ければいけませんし、貸し出し中のロスを防ぐためには大量の在庫を持たなければいけません。場合によっては24時間営業にして利用者に使いやすくしたりす る必要もあります。そうなれば当然、家賃や仕入コスト、人件費や光熱費も高くなってしまい、そのコストをレンタル料に上乗せしなければ事業が成り立たなく なってしまうというモデルでした。
既存レンタル店の儲けのからくり
実は、既存 のレンタルDVD店の大きな収益源は「延滞料」にあります。顧客も借りるときまでは価格にシビアなのですが、いざ返しに行かなければいけないとなると、腰が重くなってしまったり、つい忘れ てしまったりと、よく考えると非常に高い延滞料を払っている確率が高いのです。しかも、よく見てみると回転の良い新作の延滞料とほとんど誰も見ない、旧作 の延滞料が全く同じです。旧作のシリーズものをまとめて延滞してくれたりすると、お店にとってはかなりおいしい収益源ということになります。
ま た、新作や、人気作が貸し出し中になっていれば、借りられるまで何度も来店してくれて、ついでに旧作も借りてくれるかもしれません。キャンペーンで何本か まとめて借りれば貸出期間を長くしたり、旧作だけ格安で貸し出したりする場合もありますが、これらも新作や人気作のついでに旧作の回転率を上げて儲けると いう方法の一つです。
宅配レンタルDVDのビジネスモデルと強み
その一方で、 インターネットで予約する宅配レンタルDVDは、送料がかかりますが、家賃や人件費、光熱費などのコストも安く済みます。DVDの仕入れコストについても 需要の予測と回転率を上げる努力でカバーすることができそうです。とはいえ、一番おいしいのは月額1974円(TSUTAYA DISCASの例)の会費が毎月確実に入ってくるということです。
送料の関係で2本そろわないと発送が行われないというシステムなので、 新作ばかり見る人はなかなか在庫が揃わず、月内のレンタルできる本数も減ってしまいます。とはいえ、全く利用できなかったとしても会費はしっかりとかかっ てきますので、その事がわかっている人は旧作を一定数含めて予約することになります。そこで企業側にとっては、そのオーダーを満たすために、旧作の在庫が 必要になります。店舗がないことによって場所的な制約から解放されますので、既存のレンタル店から旧作の中古を非常に安く買い集める事で、既存のレンタル DVD店ではとうてい実現できないようなかなり幅広い品揃えと高い利益率の実現が可能になります。既存のDVDレンタル店にとっても、投資の回収が終わっ て、滅多に借りられることのないDVDを複数枚並べても、場所の制約から限界がありますので、売却して数百円でも儲けが出た方がうれしいわけです。
宅配レンタルDVDの儲けのからくり
8,000円で仕入れたものを1泊2日410円で貸したと仮定した場合を例に挙げて考えて見ましょう。
新作であれば20回程レン タルしないと利益が出ないので、新作をできるだけ効率よく回転させ、同時に利益の回収が終わった旧作を含めて延滞料でガッポリいただくというのが既存のレ ンタルDVD店の儲けの構造でした。
その一方で、顧客の利便性を実現しながら、非常に安く仕入れた旧作を使って時間を消費させて、結果的に高 い利益率を稼ぐというのが宅配レンタルDVDの儲けの構造です。既存のレンタルDVD店が新作410円、旧作330円で借りられるとすると、新作 だけの場合5枚以上、旧作だけの場合6枚以上借りないと月額1974円の元が取れません。TSUTAYA DISCASの場合、月8本まで借りられますので、ほぼ毎週2本レンタルしないと枠が使い切れない計算です。たとえ延滞料なしで借り続けることができると はいえ、早く返却しないと次のDVDが借りられません。このあたりに、在庫の回転率を上げるしくみがうまく組み込まれているのです。
海外 ドラマなどのシリーズものを借りるにはコストの面や利便性の面からも宅配レンタルが向いていますが、新作のレンタルにはやはり回転率の良い既存のDVDレ ンタル店が向いています。TSUTAYAの場合、この両方を手がけているところに、したたかな戦略をみることができます。例えば既存店で新作を貸し出し、 古くなったものを宅配に回したり、ポイントカードで囲い込んだうえで店舗とインターネットの間で顧客を誘導しあったりと、両方やっているからこそできる新 しい可能性が見えてきます。宅配レンタルのTSUTAYA DISCASの会員数も平成21年3月末現在65万人(前年比22万人増)と急増中です。
どこで利益を上げていくかという点をきちんと分析すれば、既存の業態が何を狙って商売しているのかが見えてきます。