はじめまして。わたしは、中小企業、スタートアップ企業の方々に対して、戦略策定や業務管理システム導入をお手伝いしているコンサルタントです。最近は、金融機関や投資家を対象にした事業計画書の作成支援を依頼されることが多くなりました。
最近では
- 起業半年にも関わらず、5,000万円の融資を受けた事例
- コロナによる影響を直接受ける業種にも関わらず、7,000万円の融資を受けた事例
のような実績があります。いずれも、経営者の方へのヒアリングを通して、ビジネスモデルを第3者に理解していただけるように配慮した事業計画書に仕上げたところ、事業の将来性を高く評価され融資が下りたと聞いております。
本記事では、わたしが事業計画書を作成する際、いつも押さえているポイントを中心に解説していきたいと思います。
- 目次 -
事業計画書の目的とは?
そもそも、事業計画書は何のために作るのでしょうか?
事業計画書には
- 資金調達のための提出文書
- 従業員の中期行動計画
- ステークホルダーに対する自社のビジネスモデル説明
など様々な目的があります。
わたしの作成する事業計画書では、いずれの事業計画書も大きく変わりません。ですが、分かりやすくするために、今回は「資金調達のための提出文書」としての事業計画書についてお伝えしていきたいと思います。
資金調達について考えてみる
資金調達には、
- 直接金融
- 間接金融
があります。
「直接金融」とは、資金の出し手と、資金を受け取る企業が直接結びつくお金の流れを指す言葉です。具体的には、株式や債券の売買により、投資家から直接行う資金調達を指します。
「間接金融」とは、銀行などの金融機関から借り入れを行う資金調達方法を指します。銀行には多数の預金者が預け入れしていますが、その預金を銀行から間接的に借り入れることになるため、間接金融と呼ばれています。
国内の中小企業における資金調達として一般的なのは、銀行から借り入れする間接金融です。ここで、直接金融と間接金融の性質を比較してみましょう。
直接金融は、投資家が企業に直接資金提供を行いますが、その見返りは配当金の支払いや、企業価値の向上によるキャピタルゲインとなります。しかし、企業が資金を投資家に「返済」することはありません。投資家は、その企業のビジネスプランの将来性、創業者の熱意を評価して資金提供しているのです。
一方、中小企業になじみ深い間接金融は、銀行による融資になるため、調達した資金は「返済」することが前提です。そのため、銀行による融資の審査は、返済能力の有無について重点的に審査されるのが一般的です。
しかし、起業後間もない企業が銀行から借り入れる場合はどうでしょうか?
過去の実績がないため、現時点で返済能力を証明するのはとても難しくなります。そのため、「通常のテンプレート的な事業計画書では融資を勝ち取るのが難しい」というのがわたしの持論です。それではどういう事業計画書を作ればいいのでしょうか?
ここでヒントとなるのが、直接金融の投資家の判断基準です。投資家は、その企業のビジネスプランの将来性、創業者の熱意を評価し、資金提供の意思決定を行います。そこに現時点での収益性の視点はありません。わたしの作成する事業計画書の特徴は、融資審査のための事業計画書に、直接金融の投資家向けに必須とされている情報を盛り込むことにあります。
投資家に向けた事業計画書
ここで、中小企業にとってなじみの薄い直接金融の事業計画書について説明しましょう。
投資家に向けた事業計画書は、とても自由度が高く決まった書式はありません。また、日々多数の投資案件が持ち込まれる投資家に、じっくりと内容を精査する時間はないため、まずは端的に自社の強みを伝えるプレゼン資料が求められます。(自社を詳しく説明した事業計画書を提出できるのは、投資家が興味を抱いた一握りの企業だけです。)
そのため、自社の事業について多角的に分析し、成長性が高いことを強烈にアピールする事業計画書が求められます。そして、その事業計画書を基に、自社の仮説に基づいたビジネスモデルの将来性を投資家にプレゼンして資金を勝ち取ります。
先に述べたように、銀行の融資審査のための事業計画書と、投資家に向けた事業計画書はその性質が大きく異なります。ですが、起業後間もなく返済能力が証明しづらい場合には、直接金融の投資家に向けた事業計画書のテイストを、融資向けにも盛り込むことが必要なのです。
事業計画書の書き方
以上を踏まえた事業計画書の書き方を簡単にまとめます。まず、政府系金融機関が定めている事業計画書の定型書式が存在します。その提出を求められた場合には、その書式で提出する必要があります。
日本政策金融公庫 書式ダウンロード
https://www.jfc.go.jp/n/service/dl_kokumin.html
ただ、補足資料として、自社の事業の強みをアピールした事業計画書を提出したほうがいいというのがわたしの考えです。
事業計画書の章立て例
以下にわたしがよく使う構成を挙げました。事業の特性は様々ですので、自社の事業に合わせて取捨選択しても問題ありません。
第1章 自社のビジネスを定義する
「自社のビジネスを一言で説明すると?」
を自分の言葉で考えてみます。○○業という形ではなく、どんな製品(サービス)を誰にどのようにして提供するのかをきちんと定義しましょう。
ペットが健康になる自然素材のペットフードの製造・販売
第2章 なぜそのビジネスを手がけたいと思ったのか
たくさんある選択肢の中で、御社はなぜそのビジネスを手がけたのでしょうか?
その背景となったストーリーを時系列を追いつつていねいに説明しましょう。実は、このパートこそが、経営者の事業に対する熱意を証明するものとなります。
社会に出てから、ずっとアパレル産業で働いてきた。そこで、自分ならこういうアパレルを仕掛けるのにという事業構想が固まり、起業にいたった。
第3章 課題の設定とソリューションとしての自社事業
第2章において、なぜこのビジネスを手がけたいと思ったのか整理していくと、「この課題に気づいたからこのビジネスを起業した」という経緯が明らかになるはずです。
・創業者がどんな課題を見つけたのか?
・課題の解決策(ソリューション)として、自社事業がどう位置づけられるのか?
を説明することで、第三者に自社ビジネスの必然性と将来性が伝わります。
課題「近郊には雰囲気のいいカフェが存在しない」
解決策(ソリューション)「気軽には入れるおしゃれなカフェ事業」
第4章 想定している市場規模
起業したからには、何らかの勝算があったはずです。その勝算を具体的なデータで表現してみましょう。言い換えると、自社が想定している市場とその市場規模を推計してみます。これは、審査する側にとって、実績がない企業の将来性を判断するためのとても重要なデータとなります。
人口統計、同業他社の売上高、市場規模データ
第5章 環境分析
第4章をより深掘りした、自社が置かれているビジネス環境の分析を行います。ここでは、詳しい説明は省きます。一般的な環境分析のフレームワークを用いて問題ありません。
PEST分析、競合分析(5 Forces)、SWOT分析
第6章 実行計画
ここでは、実務面の実行計画をまとめます。日々行っている業務がいかにして、第2章・第3章で示した経営者のビジョン実現につながるのかをイメージできるアクションプランが求められます。
組織図、販促、営業、業務などのアクションプラン
第7章 成長戦略
「今後、どのような成長戦略を描いているのか?」
「調達した資金でどのような成長シナリオが描けるのか?」
を成長戦略の形にまとめましょう。資金調達により事業がどう成長していくのかは、審査する側も高い関心を持っています。
設備投資による生産性の向上による利益率改善、多店舗展開による事業規模の拡大
第8章 5年分の収支計画
概念や戦略は、第7章までで伝わったはずです。最後に、そうした事業計画を裏付ける収支計画をまとめましょう。
実は、第1章~第7章は、この章の事前説明として位置づけられます。銀行の審査において、もっとも重視するのが収支計画といっても過言ではありません。ですが、起業して間もない企業が、いきなり収支計画を出してきても、その実現可能性を実績で判断することはできませんよね。
そのため、第1章~第7章の自社のビジネスモデルの説明、第8章の収支計画は、どちらも融資を勝ち取るために不可欠な要素なのです。
>>著者の菅生一郎氏に無料で事業計画書についてメール相談ができます
金融機関に対するプレゼンテーション
事業計画書が完成したら、金融機関に提出することになります。
あらためて、プレゼンテーションの場を設けてお呼びしたり、複数の金融機関を招いて説明会を開くこともあります。その場合、事業計画書の抜粋を用意したり、プレゼン用にまとめたスライドを使ってもいいでしょう。
まとめ
わたしの作成する事業計画書で大事にしているポイントは「自分が読んでおもしろいかどうか?」です。
これは、新規性がある事業、オリジナリティがある事業だけに留まりません。経営者の方が日々取り組まれている事業には、様々な工夫や、オリジナリティのある視点が存在します。だからこそ、熱意をもって事業に取り組めているはずです。そうした「外部には分かりにくい事実を可視化する」のがわたしの事業計画書の特徴です。
そうして作られたものは結果として、審査する側を惹きつける「読んでおもしろい」事業計画書になります。このように熱意のこもったオリジナリティーあふれる事業計画書を提出することにより、現時点で返済能力が証明できない企業でも融資を勝ち取ることができるのです。
こうした事業計画書の作成をお考えの方は、ご相談ください。一緒に自社でも気づかなかった強みや、ビジネスモデルの魅力をアピールできる事業計画書を作りあげて、御社のビジョンを実現させましょう。
執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 菅生 一郎【セールスシード株式会社】
【 事業計画書の専門家 】国内ソフトドリンクメーカーでマーケティング職を経験したITとマーケティングのプロ。近年はスタートアップ企業の経営指導、融資を勝ち取る事業計画書の作成で実績を積んでいます。