創業するときは、必ず資金調達をすることが肝心です。
自己資金が十分に準備できていたとしても外部から資金調達することに価値があります。資金調達をすることは、これから始める事業を外部から評価を受け、気付かなかった点の発見や再検討の必要性を教えてくれる良いチャンスです。自己資金は、もしもの時に虎の子として残しておけばいいのです。調達しておくことが、事業をステップアップさせる時に、さらに資金調達の門戸を開いてくれます。
今回は、私が日本政策金融公庫に在籍中、全国16支店で約63,000社の融資実務に従事した経験をもとに、創業するときに利用しやすい調達方法を重点に案内します。
- 目次 -
はじめに
資金調達の方法としては、借入によるものと投資(外部から出資)によるものとがあります。
借入の場合、当然に返済義務が発生しますが、返済の条件(金利、返済期間。保全方法)は、事業計画に大きな影響があります。
一方、投資による調達は、当面、返済の必要は無いのが一般的です。
重要な事項は、事業計画と資金計画とは密接に大きく関連しているということです。例えば大型の設備や研究開発型の事業での資金調達方法は、返済の負担からすると出資あるいは長期返済の借入金によるのが妥当です。
さらに調達方法だけでなく、出資者の思わくや貸出事業体の状況も勘案するべきです。出資者や融資する側には、創業企業の成長だけを願っているのではなく、それによる自己へのリターンも期待しているということです。
自分の事業内容とどの調達が良いのかをイメージしながら検討してください。
クラウドファンディング
クラウドファンディングは、インターネットを通じて不特定多数の人から資金を調達する方法です。主なものとして次の5つのパターンがあります。
- 寄付型・・・出資者へ見返りを期待しないもので、社会貢献活動や環境保全活動の目的に利用されます。
- 商品・サービス購入型・・・出資に対する見返りとして、企業が出資者に商品やサービス等を提供するものです。
- 貸付型・・・出資に対する見返りとして、金利を提供します。
- 事業投資型・・・出資に対する見返りとして、分配金を提供する。資金調達者の事業実績に応じて変動します。
- 株式型・・・非上場株式に対して出資者を募集する。出資者は企業の業績に応じた配当を受け取ります。
寄付型、商品・サービス購入型は、新商品、新サービスの提供を広く社会に訴える場合には、適切な調達方法といえます。ただし、あらかじめ調達の規模を明確にしておかないと商品、サービスの提供等の適切な対応ができなくなります。
貸付型、事業投資型、株式型は、「金商法」の対象となります。事業規模と資金計画、費用、手続き等を勘案して取り組むことが大切です。
クラウドファンディングの種類を考えるうえで、資金調達サイト(クラウドファンデング・プラットホーム)の運営をどう行っていくかが重要です。クラウドファンディングサイトの業者に一任して行う場合、調達方法によっては業者が必要な認可を取得していることも大切です。サイト立ち上げや運営を専門の業者に依頼する場合、それ相応の手数料や経費負担が発生します。
クラウドファンディング支援事業として補助金を給付している自治体が多くあります。(東京、千葉、大阪、福岡等々) また各地の商工会議所、商工会の中小企業支援窓口へ相談する方法もあります。
エンジェル投資家
エンジェル投資家とは、起業家に対して出資をおこなう個人投資家のことをいいます。
出資された企業側は、見返りに株式などを提供します。
エンジェル投資家の多くは、引退した起業家や実業家達です。こうしたなか、エンジェル投資家を見つけ出すことが難しいですが、マッチングサイトの活用やクラウドファンディングによる方法もあります。さらに、交流会やセミナーへの積極的な参加により見つけることも大切です。
出資の候補者が見つかった場合、投資家への事業内容を十分に説明し、出資まで導き出す必要があります。さらに、エンジェル投資家は経営へアドバイスしてくれるメリットがある反面、起業家の思いのままに事業展開をできないこともあります。
ベンチャーキャピタル
ベンチャーキャピタルは、ベンチャー企業などの未上場企業に対して出資をおこなう機関のことです。未上場時に出資をおこない、上場後に株式を売却もしくは事業を売却することで出資額の差額を得ることを目的としています。主なベンチャーキャピタルについてその設立背景から分類すると以下のとおりです。
①政府系ベンチャーキャピタル
東京中小企業投資育成、産業革新機構など政府や公共団体によって設立されたベンチャーキャピタルです。
②金融機関系ベンチャーキャピタル
銀行、証券会社、生命保険など金融機関が設立したベンチャーキャピタルです。
③コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)
事業会社(大手企業)が外部のベンチャービジネス(企業)に投資を行うベンチャーキャピタルです。
④独立系ベンチャーキャピタル
投資家が独立して立ち上げたベンチャーキャピタルです。起業経験のあるケースも見られ、企業との距離も近く、成長を見込んだ支援と出資を行うといった特徴があります。
ベンチャーキャピタルは、高額の出資案件が多く見られことから、ベンチャー企業の成長支援と投資目的のシナジー効果を期待していると言えます。一方で、ベンチャー企業においては、事業の将来性、技術力、市場価値等、高い水準で要求されます。
金融機関
外部から資金調達をする場合、一般的には、民間の金融機関からの調達を想定します。しかし、融資をする金融機関の側からいえば、創業者への融資は、なかなかハードルが高いことだと言えます。
金融機関の担当者が、創業者を従前より熟知しており、創業者が自己資金を潤沢に準備している場合には融資に結びつきやすいでしょう。
創業者の事業計画書をみて事業の妥当性や将来性を踏まえ、成業するかの判断には情報、経験が必要といえます。さらに、融資担当者のコスト、融資に際しての資金調達コストと融資利率からの収益性(利ザヤ)を考慮すればある程度の規模(高額案件)でなければ採算性はありません。
信用保証協会の保証付きの案件としても、不良債権となった場合、すべての金額を回収できると限らず、手間暇や融資コストからすれば、丁寧な対応の上で消極的に取扱うケースが多いようです。
地方銀行、信用金庫や信用組合では、商店街の活性化、地域復興、地元の伝統産業の振興等に貢献するような事業の場合は、積極的に相談・融資に応じるケースが多いです。
地元金融機関は、企業の収益性面だけでなく創業企業への融資による地域貢献も大きな課題です。こうしたことから、商店街の活性化や地場産業の復興に関連する創業には、積極的に取り組むケースもあります。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は、政府が全額出資した融資を専門とする政策的な会社です。
日本政策金融公庫には、国民生活事業、中小企業事業、農林水産事業の3部があり、国民生活事業と中小企業事業はほぼ同じ融資制度を取扱っています。大きな差は、取扱いの融資限度額が多いか少ないかです。ここでは、国民生活事業(以下公庫という)について案内します。
公庫融資の特色は、無担保、無保証人(ほぼ原則)、固定金利で長期の安定した資金の調達ができます。
民間金融機関ではリスク回避のため、融資に際して、信用保証協会の保証付きや担保さらに連帯保証人を求めてくるのが一般的です。
公庫は、政策的な取り組みで起業を推進し、中小企業の支援を目的としているからできることです。そうはいっても、高額の融資や長期返済の場合には担保が求められます。
公庫で資金調達をしておくことは、今後、他の金融機関で資金調達する時に公庫での借入実績を評価し融資実行されるケースが多いことから、公庫から借入することは『呼び水効果』とも言われています。
審査において、融資できるかどうかの判断と同時に、どの融資制度を適用すれば、その創業企業に有利(金利、返済期間、返済条件等)かを一緒に考えてくれます。(この制度でダメなら、別の制度で再度申込むことはありません。)
公庫には、新規開業資金、女性、若者/シニア起業家支援資金、地域活性化・雇用促進資金、地域活性化資金、ソーシャルビジネス支援資金等々たくさんの融資制度があります。
その中で、特色のある制度をホームページから2つ取りあげます。
①資本性ローン(挑戦支援資本特例制度)
ベンチャー企業・スタートアップ起業や新事業展開・海外展開・事業再生に取り組む方や財務体質やベンチャーキャピタル・民間金融機関などからの資金調達の強化のお手伝いをさせていただいております。
②再チャレンジ支援融資(再兆戦支援資金)
廃業歴等にある方で創業に再チャレンジされる方のお手伝いをさせていただいています。
巷で、創業資金の申込み条件として、「自己資金が1/3とか1/2が必要」「保証人が必ず必要」「創業時は1,000万円が上限」「6ヶ月以上の営業実績」等ささやかれています。その様な条件は一切ありません。このようなアドバイスをする方は、公庫の制度や実態をまったく知らない人たちです。相談者を選ぶのも経営能力の一つです。必ず公庫の案内を確認するなり、事前に相談をすることが大事です。
その他の資金調達方法
創業前、創業後を含めて、参考になる調達方法や検討先として下記のものがあります。
- 補助金・助成金・・国や地方公共団体などが施策に基づいて行う支援制度で、原則として返済不要です。事業計画の1/2とか1/3の資金を対象とし、事業の実施後に支払われます。申請による認可となります。申請先、申込時期、期間が限られています。支援機関に作成を依頼すると承認を受けやすいです。中小企業基盤整備機構のサイトが参考になります。
- 信用保証協会・・・各都道府県と大都市にあります。直接の融資はありませんが、創業の相談業務は充実しています。計画が妥当で成業が見込まれそうな場合、具体的な金融機関の紹介も受けることができます。
- ビジネスローン・・ノンバンクからの調達としてあります。限度額、返済条件が厳しいケースが多いです。
- ファクタリング・・未回収の売掛債権をファクタリング会社へ売却してすぐに現金化する方法です。これには、保証型と買取型があります。
- レンタル、リース・・資金調達ではありませんが設備資金を現金でする代替方法として有効です。
- ICO(仮想通貨)・・自らが仮想通貨を発行し資金調達をします。
まとめ
資金調達方法が先にあるのではないです。事業計画をする中で、資金計画が出てきます。事業計画にあった、資金調達方法を検討してください。一つ具体的にいえば、ネットで小額の商品を販売したいならば、資金調達としてクラウドファンディングには話題性や社会へのアピール性が高く、妥当だと思います。
融資(借入)の場合、融資側として、利ザヤ(調達利率との差)とリスク負担分(貸倒引当)を含んで金利を設定します。ですから、融資する側からすると、早く結論を出し融資実行を急ぐ場合、リスクが高く、金利は当然高くなります。調達先の状況もよく検討しておくことも大切です。
資金調達の方法を多く知っておくことは、事業展開していくうえで強みです。創業にあったて、どのような事業をどう展開していくのか検討する時の参考にしてください。
執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 多胡 藤夫(日本生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R))
V-Spirits経営戦略研究所株式会社 取締役
日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)において約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職し日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。
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