宿泊業における外国人採用について、知っておくべき制度のこと

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執筆者: 田村 徹

2018年の訪日外国人は31,191,856人(対前年比:8.7%増)となり、観光立国を目指す「ビジット・ジャパン・キャンペーン」が始まった2003年と比べて、約6倍の規模となりました。

特に、私が住んでいる京都市では、国際観光都市としての認知度が向上し、年間を通じて海外からの観光客が増加し続けています。

また、仕事の拠点を置いている大阪市では、2025年開催予定の「日本国際博覧会(略称:大阪・関西万博)」に向けた特需への期待によって、増え続けるインバウンド観光客の宿泊需要に応えるべく、ホテルや旅館などの宿泊施設の建設ラッシュが続いています。

今後2年間に開業予定のホテル客室数の増加率においても、京都市と大阪市は東京23区を上回っており、長らく低迷が続いていた関西経済の回復を牽引している状況です。

また、直近の5年間における〝延べ宿泊者数〟は、大都市圏では約2.2 倍、地方部では約2.8 倍の増加となっており、3大都市圏以外の地方でも、外国人旅行者が増大しています。

政府は、今後の訪日外国人数の目標を、2020年に4,000万人、2030年には6,000万人とし、観光を地方創生に繋げていく方針を掲げており、全国にわたって、宿泊需要の増大への対応が必要となってきています。

宿泊業における「特定技能制度」への期待

宿泊業の人手不足、人材不足

ホテル・旅館などの宿泊業では、生産性向上や国内人材確保のための取組として、業務効率化、IT化・機械化および女性・高齢者・若者の就業促進が進められてきましたが、依然として、人手不足、人材不足の状況が続いています。

宿泊業界では、転職によってキャリア形成を行う傾向が強く、離職率の高い業種の一つとなっています。

2017年度の宿泊分野に係る職業の有効求人倍率は、全国で6.15 倍となり、約3万人の人手不足が生じているものと推計されています。

さらに、今後の訪日外国人旅行者の増加等に伴い、2023年までに全国で10万人程度の人手不足が生じることが見込まれています。

在留資格「特定技能」

2018年12月、第197回国会において、「出入国管理および難民認定法および法務省設置法の一部を改正する法律」が成立し公布され、2019年4月1日には「特定技能制度」が始まり、これまでは原則として禁止されてきた所謂「単純労働」に従事できる在留資格「特定技能」が創設されました。

特定技能制度では、生産性向上や国内人材確保のための取組を行ってもなお、人材を確保することが困難な状況にある14業種(産業分野)について、一定の専門性・技能を有した「即戦力」となる外国人を受け入れていくための仕組みが構築されています。

宿泊業界においても、フロント、企画・広報、接客およびレストランサービス等のさまざまな業務に従事させることができる特定技能制度には、大きな期待が寄せられています。

在留資格「特定技能」には、「特定技能1号」と「特定技能2号」の2つが設けられていますが、「宿泊業」では、「特定技能1号」のみが設定されています。

特定技能1号で就労を希望する外国人は、次の2つの何れかの条件を満たしている必要があります。

㋐:従事しようとする職種・作業に関連性が認められる「技能実習2号(技能実習1号と合わせて在留期間は通算3年)」を良好に修了していること。

㋑:従事しようとする産業分野に相当程度の知識又は経験を必要とする技能を有していることを証明するための試験に合格していること。

現在、宿泊業における「技能実習制度」では、在留期間1年の「技能実習1号」での受け入れのみが可能となっており、㋐での受入れ対象者はいません。

㋑については、「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」または「日本語能力試験(JLPT)N4以上」および一般社団法人宿泊業技能試験センターが実施する「宿泊業技能測定試験」の両方に合格している必要があります。

「宿泊業技能測定試験」の実施状況

宿泊業技能測定試験は、日本国内に在留する外国人を対象とした国内試験と海外で実施される海外試験があります。

原則として、国内試験は日本語で、海外試験は試験実施国の公用語が用いられます。

日本の旅館・ホテルでの業務に従事するための技能レベルを確認するため、宿泊業で必要とされる技能や知識である「フロント業務」「広報・企画業務」「接客業務」「レストランサービス業務」「安全衛生その他基礎知識」の5つのカテゴリーより出題され、マークシート方式の筆記試験および口答による実技試験のそれぞれの正答率が65%以上で、筆記試験で65%以上を正答した者のみ実技試験の受験ができます。

国内試験は、第1回目が2019年4月14日、第2回目が2019年10月6日に実施されました。

第1回目の試験の結果は、391名が受験して280名が合格(合格率71.6%)でした。

合格者は、ベトナム、ネパール、中国などが上位を占めていました。

第3回目の試験は、2020年1月19日(日)に、札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・広島・福岡・那覇の8都市で実施されます。

新たな動向

2019年10月27日には、初めての海外試験がミャンマー(ヤンゴン市内)で実施され、238名が受験して85名が合格(合格率35.7%)という結果でした。

ミャンマーは、東南アジアにおける「最後のフロンティア」と称されており、全国民の9割近くが仏教徒で、その気質は、一般的には「勤勉」「素直」「正直」「素朴」と評されており、日本人との共通点が多いと言われている親日国です。

ホスピタリティを重視する宿泊業においては、ミャンマーに熱い視線が注がれています。

すでに、現地では、日本のホテル運営会社が設立した特定技能の試験対策に特化した専門学校や日本人講師を配置し特定技能コースを設置している日本語学校などが設立されており、日本での就労を希望する若者たちが学んでいます。

日本国内においても、特定技能制度に対応した動きが活発になってきています。

インバウンド観光で賑わう国際色豊かな街に変貌を遂げた大阪ミナミでは、2019年9月28日に、南海電鉄株式会社が南海電鉄・新今宮駅の北東に、日本初の就労インバウンドトレーニング施設「YOLO BASE」を開業し、TVや新聞でも大きく採り上げられました。

施設の運営はベンチャー企業が担っており、宿泊サービス、飲食サービス、イベント会場運営などのサービス提供を通じて就労インバウンドトレーニングを実施し、特定技能で求められる業務スキルの習得、知識・語学の習熟および実務経験の増進が図られています。

また、起業を考える外国人向けのコワーキングスペースも設置されており、日常的に日本のビジネスと外国人をマッチングする機会を創出する場の提供が行われています。

今後は、全国的に、これを模した又は類似したサービスが、多数出現していくものと思われます。

制度を熟知して、人手不足・人材不足を解消

在留資格「技術・人文知識・国際業務」

宿泊業において、日本の大学もしくは日本の専門学校を卒業した外国人または海外の大学を卒業した外国人を在留資格「技術・人文知識・国際業務」で採用する場合、従事させようとする業務が「日本の公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学その他の自然科学の分野もしくは法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する技術もしくは知識を要する業務」または「外国の文化に基盤を有する思考もしくは感受性を必要とする業務」に該当しなければなりません。

ただし、在留期間中の活動を全体として捉えて判断し、採用当初の時期に研修の一環として、これらに該当しない業務に従事することは許容されます。

この場合、研修の内容が、(日本人従業員を含む)入社後のキャリアパスの各段階における具体的な職務内容として定められている必要があります。

また、業務に従事する中で、一時的にこれらに該当しない業務を行わざるを得ない場面も想定できますが、それらの業務が主たる活動になっているような場合には、著しく法令等に違反することとなります。

2015年12月に、法務省出入国管理局(現・出入国在留管理庁)が、「ホテル・旅館等において外国人が就労する場合の在留資格の明確化について」の中で、外国人がホテルや旅館等の宿泊施設での就労を希望する場合について、在留資格の決定に係る運用の明確化および透明性の向上を図り、申請人の予見可能性を高めるため、〝在留資格の該当性に係る考え方および許可・不許可に係る具体的な事例〟を公表しています。

法務省告示の一部改正

2019年5月、日本の大学を卒業または大学院を修了し、学位を授与された留学生で、高い日本語能力を有する者の就職支援を目的として、法務省告示「出入国管理および難民認定法第七条第一項第二号の規定に基づき同法別表第一の五の表の下欄に掲げる活動を定める件」の一部が改正されました。

これにより、これらの外国人が日本語を用いた円滑な意思疎通を要する業務を含む幅広い業務に従事することを希望する場合には、在留資格「特定活動」による入国・在留が認められることとなりました。

具体的に認められる業務内容や提出資料等については、「留学生の就職支援に係る「特定活動」(本邦大学卒業者)についてのガイドライン」にまとめられています。

在留資格「技術・人文知識・国際業務」では、一般的なサービス業務が主たる活動となるものは認められませんが、この制度では、諸要件が満たされれば、これらの活動も可能となります。

翻訳業務を兼ねた外国語によるホームページの開設や更新作業を行ったり、外国人客への通訳(案内)、他の外国人従業員への指導を兼ねたベルスタッフやドアマンとして接客(併せて日本人に対する接客を行うことを含む)を行ったりすることが認められています。(客室の清掃にのみに従事することは認められていません。)

技能実習制度

現在、宿泊業における「技能実習制度」では、在留期間1年の「技能実習1号」での受け入れのみが可能となっていますが、在留期間が通算3年の「技能実習2号」の移行対象職種に宿泊業(接客・衛生管理作業)を追加する動きがあります。

これが実現すれば、通算3年の「技能実習2号」の終了後に、「特定技能1号」へ移行してさらに通算5年の就労を行うことも可能となり、安定的に人手や人材が確保し易くなります。

技能実習制度は、国際貢献のために開発途上国などの外国人を一定期間雇用して日本の技能を移転する制度ですが、受け入れ機関(企業等)と実習生は雇用関係にあり、日本人の労働者と同じく労働関連法令が適用されます。

しかしながら、低賃金・長時間労働や劣悪な労働環境を強いるなどの法令違反が相次いだことから、2017年11月に「外国人の技能実習の適正な実施および技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)」が施行され、外国人技能実習制度の適正な実施と技能実習生の保護を図ることを目的として、法務省と厚生労働省が所管する認可法人「外国人技能実習機構」が設立され、制度の適正な運用の確保が進められています。

まとめ

宿泊業において外国人人材を確保する方法としては、留学生等が「資格外活動」の許可を得て行う週28時間以内のアルバイト、海外の大学との提携により実施される「インターンシップ」、(2国間の協定に基づいて)青年が異なった文化の中で休暇を楽しみながら滞在資金を補うために就労することを認めている「ワーキング・ホリデー」などのさまざまな制度の活用があります。

増え続けるインバウンド観光客の宿泊需要を追い風とする宿泊業界においては、外国人在留管理制度を熟知して、法令等を遵守する体制を強化し、戦略的な「人づくり」によって人手不足の解消と人材確保に取組むことで、事業の健全な発展と成長が確実なものとなり得ます。

ぜひ、気軽にご相談ください。

執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 田村 徹氏
(ICT法務サポート行政書士事務所 代表)

大学卒業から23年間、総合印刷会社にて事業の立ち上げやトップマネージメントを経験した後に独立。経営コンサルタントに転身し10年し、キャリアの中で行政書士資格を取得し5年の経験。
豊富なマネジメント経験と専門家としての適格なアドバイスが好評で、多くの中小企業の経営力を向上させた実績が豊富。

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ドリームゲートアドバイザー 田村 徹氏

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