第1回 株式会社パソナ 代表取締役グループ代表兼社長 南部靖之氏

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

第1回
株式会社パソナ
代表取締役グループ代表兼社長
南部靖之 Yasuyuki Nambu

1952年、兵庫県神戸市出身。71年、関西大学工学部在学中、仲間と共に情操教育を目的とした私塾、「大阪YBS」を開く。就職はせず、大学卒業の1カ月前に、人材派遣会社テンポラリーセンター(現・パソナ)を設立。以来、雇用創出をミッションに、いくつもの新しいワークスタイルのあり方を世の中に提案・定着させている。2001年12月に、ヘラクレスに株式上場。03年10月には、人材派遣会社として初の東証一部上場を果たす。

ライフスタイル

クルマ

「ミニクーパーに乗っています」
僕自身、クルマにはまったく興味なかったのですが、今、ミニクーパーに乗っています。もちろん社用の際は、運転手さんに運転をお願いしますが、プライベートではこのミニクーパーを自分で運転してるんです。細い道もへっちゃら、狭い駐車場にも停めやすく、この快適さを知ってしまうと、もう大型車には乗れないですね。

休日

「大型クルーザーでよく海に出ます」
神戸復興に乗り出したとき、たくさんの人が働けるよう、観光クルーズ事業を立ち上げました。休みが取れると神戸へ戻って、仲間たちとその大型クルーザーでよく海に出ます。あと絵画や陶芸も好きです。昨年は母の誕生日に、自分で焼いた大きなお皿に書をしたためてプレゼントしました。できあがりまでに、20枚は割っちゃいましたけど(笑)。

大切にしているもの

「思いを同じくする仲間でしょうね」
僕は物欲がほとんどないので、どんなものと言われると難しいのですが……。やはり、思いを同じくする仲間でしょうね。それは、家族、社員、仕事仲間など本当にたくさん。おいしいもの食べるのも、仕事するのも、テニスするのも、旅行に出かけるのも、僕はいつも仲間と一緒。何歳になっても、仲間にかこまれて笑っていたいですね。

好きな食べ物

「上海蟹がいいですね」
中華料理が大好きなんですよ。特に秋のシーズンの上海蟹がいいですね。ちなみに、中華料理屋では、僕が自分で焼いたお皿をつかってもらうこともあります。備前焼きとか、合いますからね。

「1日に2時間くらいは書道をたしなんでいます」
1日に2時間くらいは書道をたしなんでいます。パソナの社員が結婚するときには、自筆の書でお祝いメッセージを贈ります。長さ1メートルくらいの巻物形式にして。全員の結婚式に行くのは難しいので、せめて気持ちを込めた手紙をプレゼントしているのです。

雇用創出を事業ドメインに、日本をよりよい社会に!これが、創業時から一貫して変わらない僕の志です

 04年11月、パソナが移転した東京・大手町の本社ビル。その地下2階に突如出現した、都市型地下農場「PASONA O2(パソナオーツー)」が各界から注目をあびている。農業分野の雇用創出を見すえた、南部靖之氏の新たな取り組みだ。これまでも、阪神大震災後の神戸復興プロジェクトを立ち上げるなど、社会的な必要性を優先するさまざまな事業に挑戦し続けてきた南部氏。そんな南部氏に、起業を志した経緯、大切にしている事業のミッション、そしてプライベートの楽しみ方まで大いに語っていただいた。

起業という道を選択することになったきっかけ―
大学生時代、私塾で聞いた生徒の母親たちの悩み

 僕は父親の勧めもあって、小学校6年生の時から通照院というお寺に書生として通い始めました。そして住職に、学校教育では学ぶことができない、人間としての正しい生き方、価値の多様性という考え方を教わったのです。ここでの経験が、その後の僕の人生選択に大きく影響していますね。大学に入ってから、僕が住職から学んだことを、より多くの子どもたちに教えたいと私塾を開きました。最終的には400人くらいの生徒が集りましたよ。

 ある日、生徒たちの母親と立ち話。寿退社をして、家庭に入り、子どもの手がかからなくなったので働きたいという。当時は終身雇用が当たり前の世の中。そんな彼女たちを再雇用してくれる会社も当然ない。だから仕方なく賃金の安いパートをしている。でも、彼女たちは、さまざまなスキルをもった本来は優秀な働き手なのです。

 その話を聞いたのは、ちょうど就職活動をしていた頃のこと。終身雇用の仕組みや、繁忙期・閑散期が存在する世の中の企業に矛盾を感じていた僕はこう考えました。「ならば、僕が主婦の再雇用を応援しよう!」。そして、就職をせずに人材派遣会社を立ち上げ、起業することを決めたのです。それが今から30年前の1976年。もちろん、人材派遣という概念も言葉も日本に存在していなかった時代のことです。

事業継続のために大切にしていること.1―
「艱難辛苦、汝を玉にす」が今も僕の心の支え

 もちろん最初から順風満帆だったわけではありません。しかし、当時はオイルショックの直後。企業の多くがオイルショックの影響で、人員削減を余儀なくされていました。そして僕が立ち上げた人材派遣事業は徐々に企業から歓迎されるようになり、会社も急成長。でも事業が安定してくると、なんとなく僕の出番がないように思え、1987年にいきなり家族と共にアメリカへ移住(笑)。その後、阪神大震災を機に生まれ育った神戸を復興をするため帰国……。僕は誰かから必要とされることに生きがいを感じる。そして、仲間や世の中のために役立てると思えることに一番のパワーが発揮できるんです。

 ちなみに阪神大震災後の復興プロジェクトでは、当時人材派遣会社のパソナが、デパート、レストラン、クルージングなどの事業を始めました。これらはすべて労働集約型のビジネスモデル。働く人を派遣するよりも、働く場所を創出する方が大切だと考えたからです。

 270名もの社員がこのプロジェクトにかかわって、パソナの売上高は、翌年には大きく減少しました。でも、僕は売り上げや利益も大切だけど、世の中のためになることをしたいから起業したのです。だから、神戸が復興するまでは踏ん張りました。その後は社員たちも本業に戻って、2001年には株式上場も果たし、より強い会社になって社会に貢献できる会社になることを目指しています。企業が継続して成長するためには、伸び続けるだけではいけない。たまには自ら縮めてみる体験も必要です。ゴムだって、伸ばし続けたら切れてしまうでしょう。だから、若いうちの苦労は買ってでもしろというのは本当ですよ。起業を決めた時に父親から応援と共に贈られた2つの言葉、「土薄き石地かな」「艱難辛苦、汝を玉にす」が今も僕の心の支えとなっています。

事業継続のために大切にしていること.2
―「ベストセラー」よりも「ロングセラー」を目指そう

  売り上げや利益を上げることを目標にするのもいいのですが、1兆円の売り上げを誇る企業だっていきなり滅びることがあります。なぜか? それはきっと、そ もそもオーナー経営者がこの会社をなぜつくったのか、創業当初の目的を忘れてしまったからなのだと思います。もちろん世の中の変化によって、事業の方向性 や形態が変わることはあるでしょう。しかし、起業時の精神を変えてはいけません。

 パソナは、人材派遣から始まって、アウトソーシング、アウトプレースメント、独立支援、就農支援など、さまざまなスタイルで働く人たちを応援し続けていま す。支援の形式やスタイルは変わっても、雇用創出で社会に貢献するという創業時の志・精神はいっさい変わっていません。売り上げや利益を求めるのは一瞬の 「ベストセラー」。しかし、世の中から長く必要とされるのは「ロングセラー」。起業の意義はやはり、継続して社会に貢献していくことにあるはずです。

 だからこそ、「Try not to become a man of success but rather to become a man of value」という言葉のとおり、会社だって、一瞬の成功より、価値ある生き方を選ぶことが大切なのだと思います。

時間の使い方
―自分の24時間を4つに分けて行動しています

  人間に与えられた時間は誰しも1日24時間。僕は6時間ごとに4つのパターンで1日をすごすことにしています。まずは、十分な睡眠。2つ目がインプット。 これは、言ってみれば営業活動です。自分が考えた新規事業などをどんどん外に出て説明するわけです。3つ目がアウトプット。社員と話をしたり、取材を受け たり、講演会や大学の授業で教えたり。そして4つ目はDo Tank。Think Tankの反対です。パーティを開催してさまざまな分野の人たちと交流する、ジムで汗を流す、絵を描く、書道をする、数年前からはタップダンスも始めまし た。経営から少し離れた自分個人のための時間ですね。この時間の使い方が、僕の活力をつくるためには最適なんですよ。

 あと、僕は1年を11カ月に設定して、1カ月は完全にビジネスから離れた生活をしています。今年はアフリカやマルタ島方面でクルージングを楽しむ予定です。

 六中観の「壺中、天有り」のごとく、常に自分の身を別世界において、感性を磨くのです。経営にやっきになって、利益や株価にばかり目がいくようになると、 大切な会社のビジョンや哲学を見失う恐れがあります。昨今よく取り上げられる社会問題で、賞味期限切れや、産地を偽った食品を販売するという事件がありま すね。きっとこれも、経営者が会社本来の目的を忘れ、売り上げや利益に走ったから。もっと大きな観点で物事を見ていれば、そんな小さなことをしようとは思 わないはず。本来、経営者は、大きなビジョンを考えるべき存在なのですから。だからこそ、代表である私に与えられた時間は、パソナグループの5年後、10 年後のビジョンを描くために割かれるべきなのです。

事業アイデアの発想法
耳学問をやめ、どんどん人に会うことです

  売り上げや利益を上げることを目標にするのもいいのですが、1兆円の売り上げを誇る企業だっていきなり滅びることがあります。なぜか? それはきっと、そ もそもオーナー経営者がこの会社をなぜつくったのか、創業当初の目的を忘れてしまったからなのだと思います。もちろん世の中の変化によって、事業の方向性 や形態が変わることはあるでしょう。しかし、起業時の精神を変えてはいけません。

 パソナは、人材派遣から始まって、アウトソーシング、アウトプレースメント、独立支援、就農支援など、さまざまなスタイルで働く人たちを応援し続けていま す。支援の形式やスタイルは変わっても、雇用創出で社会に貢献するという創業時の志・精神はいっさい変わっていません。売り上げや利益を求めるのは一瞬の 「ベストセラー」。しかし、世の中から長く必要とされるのは「ロングセラー」。起業の意義はやはり、継続して社会に貢献していくことにあるはずです。

 だからこそ、「Try not to become a man of success but rather to become a man of value」という言葉のとおり、会社だって、一瞬の成功より、価値ある生き方を選ぶことが大切なのだと思います。

これから起業を目指す人たちへのメッセージ
「正々の旗。堂々の陣」をしっかり持とう

 2020年には、雇用という概念は消え去り、これまでの会社と人との関係が大きな変革期を迎えるでしょう。インターネットインフラの発展もあり、会社が あって人が集るのではなく、人があって仕事が集るという方向に進んでいく。個人がいつでも自由に好きな仕事を選べ、会社ではなく個人のライフスタイルに合 わせた働き方ができる世の中になるのです。そうなった時、どのような選択をするのか。いずれにせよ、起業するなら、社会に貢献するという使命感を持って起 業してほしい。

 「正々の旗。堂々の陣」。これは私の好きな言葉なのですが、大義名分の御旗があれば、志同じくする仲間が集い、強い陣容が組めるという意味です。起業に成 功して嫉妬ややっかみにあっても、一時衰退して社会批判にさらされることがあっても、これさえあれば、いくらしんどくても頑張れます。もちろん売り上げや 利益も大切なのですが、社会から必要とされる会社を目指す会社を目指しましょうということです。

 そしてリーダーに必要なのは活力です。社員に対して影響力があるなと思える経営者は、いつも元気でニコニコしています。私も常に活力を発揮し続けるため に、タップダンスをして足腰を鍛えています。80歳になって、大切な愛すべき仲間たちとワッハッハって笑ってすごしたいですからね(笑)。もうひとつ、挑 戦し続けることで活力は生まれてきます。ぜひ、高い志を持って起業に挑戦してください。

<了>

取材・文:菊池徳行(アメイジングニッポン)
撮影:今井聡志

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