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親子の“産学連携”から生まれた発明。
無機物だけでも植物が育つ土
事業や製品・サービスの紹介
園芸をしたい――。でも、虫は困る。では、虫がつかない土をつくるにはどうしたらいいか。株式会社ラテラ代表の荒磯慎也氏が考えたのは、すべて無機物でできた土の開発だ。同社が販売する無菌人工土壌「クリスタルグレイン」(1袋980円〜)は、ゼオライトという多孔質の鉱物に無機肥料を染み込ませたもの。
慎也氏の父である荒磯恒久氏は、生物物理の専門家である。彼の技術指導のもと1年半にわたる研究を重ね、自然の土が持つ、気相、液相、固相という3つの構造を持つ無菌人工土壌を実現させた。
こだわったのは土の粒径。ミミズがつくる団粒構造に近い粒の大きさで、植物の成長に必要な空気が根まで届く。保水力もあり、根をはるための支持体にもなれる。染み込ませる肥料の分量も重要で、自宅内にある3畳ほどの研究室で何株も植物を育て、最適量を探った。
追肥に使う無機肥料「クリスタルポーション」(1本490円)、パセリやバジルの種とセットにした栽培キット「クリスタルポット」(980円)も販売中だ。後者は月に200個は売れる人気商品で、主にインテリア用途として虫が苦手な人に売れている。多孔質のため乾くと色が変わり、水やりのタイミングがわかりやすい特徴もあり、これまで植物を枯らしていた人でも育てられたと好評だという。
園芸用途だけではなく植物工場への展開も。
「クリスタルファーム」で6700億円の市場へ
対象市場と優位性
植物を栽培する場合、日照時間が短く、太陽光が弱いと生育に支障をきたす。同社が拠点とする北海道は真冬になると、午後3時には日が沈む。こうなると、自然光だけでは栽培が難しい。そこで荒磯氏は、LED照明を使った栽培装置「クリスタルファーム」を開発した。自然の日照時間に近いサイクルで設計し、夜には照明が自動で切れ、翌朝にスイッチが入る仕様になっている。
「クリスタルファーム」の主なユーザーは、レストラン・カフェ等の飲食店や一般企業のオフィス。室内栽培という点では水耕栽培が競合技術となるが、同商品はインテリア性やコストの面で優れている。エアレーションが必要な水耕栽培と比べると、空気を送り込む必要がない分、装置がシンプルで場所をとらず、気になる稼動音もない。
また、水耕栽培では栽培できる品種が葉ものに限られるが、「クリスタルグレイン」はどんな品種にも対応可能。そんな強みをさらに生かすべく、同社が現在狙っているのは植物工場の市場だ。
近年、廃業に追い込まれる植物工場が増えているが、その原因のひとつは付加価値の高い商品が育てられないこと。根菜類をはじめ、多様な品種に対応可能な「クリスタルファーム」は6700億円規模の植物工場市場を大きく変えるポテンシャルを秘めている。
無菌人工土壌で目指すは、第二のオランダ。
食糧危機への新たな打ち手として飛躍を
事業にかける思い
植物を愛し、開発商品もなるべく自然の状態に近付けようと努める荒磯氏。そんな人物がなぜ、すべて無機物という自然界には存在しない土を開発するに至ったのか。
発想のきっかけは、大叔母が暮らす高齢者施設を訪れたことだった。大叔母は畑仕事を好んだが、施設では利用者が感染症を引き起こす恐れがあるため、室内での土いじりは許されない。そこでひらめいたのが、施設でも使える、虫のつかない土。「残念ながら完成品を渡す前に大叔母は旅立った。存命であれば使ってくれていたと思う」。今では、老人ホームや保育施設でも使われている。
室内での栽培目的で開発された無菌人工土壌だが、開発販売の過程でさらなる可能性も開けた。先述した「クリスタルファーム」だ。
「起業前、『田舎で働き隊』に参加し、農業の厳しさにふれた。今の農業の実態では、農業人口の減少は無理もないと思う。だが、このままでは食糧危機は避けられない。農業を進化させることが重要だ。無菌人工土壌を使った植物工場で、今の農業を変えていきたい」
頭にあるのは、国土が狭いにも関わらず農業生産で世界第2位を誇るオランダだ。「クリスタルファーム」なら、日本の農業を変え、生産性を飛躍的に向上させることも決して夢物語ではないだろう。
株式会社ラテラ | |
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代表者:荒磯 慎也 氏 | 設立:2015年7月 |
URL:http://crystal.farm/ | スタッフ数:2名 |
事業内容: 無菌人工土壌・無機肥料の製造販売、関連する研究開発 |
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これまでの資金調達額(出資額)と主な投資会社名: 自己資金(創業・第二創業補助金利用) |
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ILS2017 大手企業との商談数: 8社 |
当記事の内容は 2018/5/15 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。