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エピソード3「熱海会談」
「今日、松下電器があるのも皆さんのおかげです」 69歳:創業46年目)
不況下で赤字経営に落ち込む松下電器系列の販売会社や代理店が続出。「実情を聞きたい」という幸之助が全国の販売会社・代理店の社長約200人を熱海の ホテルに招いて懇談会を開催した時のエピソード。
東京オリンピックが開催された年。高度成長で主力の家電製品はほぼ普及し、金融引き締めによって需要は停滞していた。販売会社の中には赤字はおろか、資本 金500万円なのに1億5000万円もの欠損を出しているところもあったが、そんな“信用ゼロ”の会社へも、引き続き製品を供給。いわゆる“押し込み販 売”が行われていた。
懇談会では松下電器に対する不満が続出した。
「親の代から松下製品を扱っているがさっぱりもうからない。それどころか損が出ている」「売り方や商品が悪いのではないか」。この難局を乗り切るためにも 真実を訴えてほしいという幸之助に、社長たちは次々に厳しい意見を口にした。さながら“糾弾大会”のようである。幸之助が「この中でもうかっているところ は」と手を上げさせたところ、約30人が挙手。残りの170人は赤字で苦しんでいることになる。事態は予想以上に深刻であったが、一方で幸之助には出席し ている社長の努力不足も感じられ、「苦労しているというが、血の小便が出るまで苦労したのでしょうか」と反論、各社の自主独立の志の弱さを指摘した。お互 いが真剣そのものとなって議論を続けるも平行線を辿った。
2日の予定を1日延長。3日目となってもまだ苦情はやまない。そこで、「ここままでは終われない、松下電器として結論を言わなければならない」と決意した 幸之助は、壇上から次のように語りかけた。
「お互いに言い分もありますが、2日間も十分言い合ったのだからもう理屈を言うのはよしましょう。よくよく考えれば、結局は松下電器が悪かった。この一言 に尽きると思います。皆さん方に対するお世話が不十分でした。30年前、皆さんのところに『今はまだ幕下ですが、将来はきっと横綱になってみせます。だか らどうかこの電球を売ってください』とお願いして回り、大いに売っていただきました。今日、松下電器があるのも皆さんのおかげです。私のほうは一言も文句 を言えた義理ではないのです。心を入れ替えて出直します」
幸之助の目から涙がこぼれた。その場にいた社長たちも泣いている。攻撃的であった会の雰囲気は一転し、協力と団結を誓い合う場となった。
その後、会長に就任していた幸之助は営業本部長代行として現場復帰し、陣頭指揮。適切な組織改革、流通・販売改革を行なって業績を回復させた。
私 たちならこうする!
(株)ネクシィーズ代表取締役社長 近藤太香巳氏 当時と今とでは時代背景が違いますが、僕の考え方とはちょっと異なりますね。僕は社員を守るにしても、代理店はあくまでもパートナーだと考えます。だか ら、能力のない(このエピソードでいえば『血の小便が出るまで苦労していない』)代理店には「ぶら下がるな」と言うでしょうね。また、販売チャネルはいろ いろあるし、売り方は時代時代で変わっていくもの。一つのチャネルに固執するのはマイナスだと思います。 |
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シナジーマーケティング(株)代表取締役社長 谷井等氏商品が悪ければ、素直に「悪かった」と表明して改善する。それだけだと思います。シナジーマーケティングでは、商品の開発から販売まで一貫して行っていま すが、代理店にも販売をお願いしています。売れないことを代理店のせいにしてもいいことはありません。他人に責任転嫁している限り、発展しないと思うから です。また、努力をしない代理店というのは、何を言っても結局は売れずに離れていくものです。商品が良くないのであれば、どこが良くないのかを徹底的に調 べて改善する。それがメーカーの唯一のやるべきことではないでしょうか。 |
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際コーポレーション株式会社 代表取締役 中島 武氏 「血の小便」とか言っておきながら、最後に非を認めるなんて「策士」だな(笑)。ただ、そのまま行ったら決裂して訴訟問題に発展するかもしれない。それを 避けたのは賢明だと思います。 |