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エピソード1「社長就任」
「この会社を繁栄させていこうと思えば、みんなが誠心誠意やる以外ないではないか」 (41歳:創業5年目)
キヤノンの前身である「精機光学工業株式会社」の社長に就任した時のエピソード。当時、従業員数は100数十名、カメラ以外にも防毒マスク関連製品など軍 関係の仕事も多かったが、経営状態は楽ではなかった。カメラのレンズはまだ研究段階で、日本光学(現・ニコン)から供給を受けていた時代である。
御手洗は同社の設立発起人の一人として取締役に就任していたが、それまで本業は国際聖母病院の産婦人科部長であった。同社の最高責任者であった内田三郎が 戦時下のシンガポールに司政官として赴任することになり、社内から御手洗に強い社長就任要請があった。本業で多忙を極めていたが「このままでは社員が路頭 に迷う」との説得で社長就任を決意。
ところが、社長として会社の内情に接すると、いい加減なことをしている幹部がいるなど問題山積であることがわかる。医師である御手洗は技術も経理もわから ない、経営者としてはズブの素人。しかし、社長を引き受けた以上は問題を次々に片付けていかなければならない。就任後、御手洗は社員の前で次のように宣言 した。
「自分は諸君がご存じのとおり医師の出身だ。もしぼくをだまそうとすれば、それは諸君にとって赤ん坊の手をねじるようなもので、いとも簡単にできる。ぼく は君たちを信用する以外にない。経理の担当者が帳面をごまかそうと思えばできる。工場長が1万円の機械を1万5000円で買ったことにしても、ぼくはその 機械が1万円なのか1万5000円なのかもわからない。しかし、そんなことをやっていけば会社が潰れることは火を見るより明らかだ。そしてその責任は社長 の私にある。私ともども、この会社を繁栄させていこうと思えば、みんなが誠心誠意やる以外ないではないか」
こうした御手洗の姿勢、考えは、「実力主義」「健康第一主義」「新家族主義」という従業員の満足や幸福を重視する経営理念に昇華。キヤノンの今日までの発 展の原動力となった。
私 たちならこうする!
(株)ネクシィーズ代表取締役社長 近藤太香巳氏 僕も人にだまされた経験があります。その時、「だからといって、これから人を信用しなかったら、相手からも信用されなくなる。世の中にはいい人のほうがた くさんいる。だまされた自分も悪いんだ」と思うようにしました。 |
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シナジーマーケティング(株)代表取締役社長 谷井等氏 今の時代、20~30代の人が「良い」と考える会社のあり方と、50~60代の人のそれとでは違うでしょう。僕は、社員を大切に考え、お互いにできるだけ フラットな関係であるべきだと思っています。正しい意見ならば、肩書きや年次に関係なく通ることが大切で、そうであって初めて、社員に対して高いモラルが 期待できると思うからです。 |
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際コーポレーション株式会社 代表取締役 中島 武氏この御手洗さんの発言は、自分の欠点を先にさらけ出してしまう逆転の発想ですよね。ポーンと社員に「頼む」と言えることも経営者には必要かもしれない。意 地張って「俺一人でやる」なんて言っても、できなけりゃ始まらないわけだから。僕も苦しくなったら社員によく「頼む」と言います。それでも、みんなから尊 重されていればいいんじゃないでしょうか。 |