「実際に起業をして5年くらいは泣かず飛ばずでした。
売り上げは 3,000万円、 8,000万円、そして 1億を超え、翌年 3億7,000万円と順調に伸びていましたが、利益は 1,000万円弱。役員報酬もサラリーマンくらい。
5年やって儲からないとほんとに疲れちゃう。
人脈とかノウハウとか、目に見えないものは蓄積されているという実感はありましたが、
結局いくら理想を語ってみたところでお金がなければ実現しない理想もある。
これは 5年間やってみて痛感しました。」
そう語るのは、 e-マーケティングカンパニーとして成長を続け、2004年にJASDAQに株式を公開したオプトの鉢嶺氏。
学生時代から将来は起業することを心に決め、 3年間でやめるつもりで大手不動産会社に入社した。
しかし、起業の一歩を踏み出すには不安がつきまとったという。
「ある本によると30年以上継続する会社は 1%、1年以内に潰れてしまう会社が半分というような数字を目の当たりにすると『潰すことが前提で会社を始めるのか』ということに不安がありました。
潰れちゃったら大企業に行っている大学の友人たちにカッコ悪いなとか、身ぐるみはがされたらどうしよう、とか」
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エジプト旅行が起業のきっかけ?
しかし、当時行ったエジプト旅行が、彼の価値観を変えたという。
「それはナイル川のほとりを遊覧船で遺跡を見ながら回るというツアーだったのですが、船が岸につくと現地の人が寄ってきて、甲板に向かってモノを投げ入れる。 それを広げてみると手作りのTシャツやテーブルクロスが入っている。
それで観光客は気に入ったものがあるとビニールに入れてお金を投げ返すわけですが、それを受け取った人はお金を太陽にかざしてお祈りをしている。
それを見たときにハッとしました。」
現在の豊かな環境は自分の力ではなく、国が繁栄しているお陰であると感じた鉢嶺氏は、
「先代たちが苦労してつくりあげたものに乗っかっているだけで、新しいチャレンジをしなかったら、自分たちの子孫の世代がまずい」
という使命感のようなものを感じたという。
「その当時はバブルでいい大学入っていい企業に入って、一丁上がり、これで一生安泰というような風潮がありました。
でも、大企業からスピンアウトすること自体に意味がある。
安定した場所にあぐらをかくのではなくて、『こんな風にチャレンジしているヤツだっているんだ。このこと自体に価値がある』という風に考えられるようになりました」。
25歳で起業を決意。具体的な起業アイデアは無し
25歳の時に、10年先を考えて起業を決意したという鉢嶺さんだが、その当時は、まだ何をしたいのか具体的には見えていなかったという。
「友人たちに声をかけ、月2回勉強会を開催しました。勉強会では、一人ずつビジネスプランを持ち寄って話し合ったんです。その中から、ファクスを使ったダイレクトマーケティングを行う会社を興そうと決まりました」
最初は一人で会社を興すが、資本金は300万円。顧客もなく、収入の見込みがなかったため、起業後1年は無給を想定していたという。
「この読みは当たり、会社設立後1年2ヶ月間は無給でした!(笑)でも、最初からうまくいくとは思っていなかったので、収入がないことを前提に節約するよう心 がけました。例えば、近場の営業は自転車を利用したり、1階に応接スペースのついた家賃8万円のワンルームを事務所にして、無料で接客スペースを確保した りと工夫しました」
しかしたとえ無給でも、かつてないほど充実した日々を送ることができたと、鉢峰さんは当時を振り返る。コスト意識を強くもったことで、初年度売上げは150万円だったにもかかわらず、赤字は150万円以内で抑えることができた。
一方、想定外だったのは、「実践してみて初めて経営の中身がわかった」と話す鉢嶺さん。 たった1人でスタートしたため、最初は営業、事務、経理、システムづくりまですべて自分で行うことはもちろん、特に社員が入社してからは、マネジメント、人事、モチベーション管理、資金調達、資本政策と、初めて遭遇する経 営場面ばかりで、戸惑うことも多かったようだ。
「大学時代には経営ゼミに入って会計学校にも通いましたが、問題意識がないからまったく身につかな かったんですね。起業後は、解決しないと前に進みませんから、集中して問題に取り掛かり、本を読み漁って、多くの先輩起業家にアドバイスを求めました。その結果、自分の経営スタイルが身についたのです」
もうひとつ想定外だったのは、創業後、取引開始の際に、相手企業が前職の会社に調査のためのヒアリングを行うケースが非常に多かったこと。前職でしっかり仕事をして、きちんと辞めたことは、後になって良かったと思えたという。
資金繰りについて勉強しておけば会社はつぶれない。
そんな鉢嶺さんが、起業の際に注意するべき点をアドバイスしてくれた。
「『資金繰り』については、しっかり勉強した方がいいですね。これがきちんとできていれば会社はつぶれることはありません。 知識として知ることと、管理業務手法を学ぶことが必要ですね。起業の際には、高い目標を持つことも大切です。単に、車やお金が欲しいといった次元の低い目標では、人の心を動かすことはできません。より大きな目標を具体的に設定することが、実現への近道ではないでしょうか」
想定内だったこと
●無給
資本金が300万円しかなく、収入の見込みも立っていなかったので、起業後1年は無給を覚悟していましたが、想定の範囲内で見事大当たり! 1年2ヶ月は無給でした(笑)
想定外だったこと
●経営手法
社員が入ってからは特に、マネジメント、人事、モチベーション管理、資金調達、資本政策など、大学時代に経営を専攻したにもかかわらず、まったくわかっていませんでした。すべて机上の空論で問題意識がなかったので、身についていなかったのです。
●調査
会社が創業後間もない時に、新規で取引を始める相手企業が、私が勤務していた前職企業に調査のためのヒアリングを行うケースが多かったのは意外でした。
熱意だけでは超えられない壁がある
何のノウハウもない状態で「徒手空拳で」起業したという鉢嶺氏。
しかし、「熱意があればなんとかなる」というものではないのが現実である。
「夢や熱意はないとダメ。でも、会社を成長させるスキルは別」
と言い切る。
鉢嶺氏は能力を補い合うパートナーを得て会社を成長させてきた。
やりたいことを実現するための金銭や人材をどのように獲得するのか。
夢を膨らませると同時に、現実的な手当ても考えておきたい。