甘えのない高い経営意識で障がい者とともにレストラン運営 / Restaurant & Bar Palette

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

「障がい者だからと甘えることなく高い経営者意識が必要」と語る南山さん。東京・恵比寿で障がい者たちと、気軽に立ち寄れるレストランを運営する。障がい者とともに働くとは?その取り組みをリポートする。

 

 

 恵比寿駅のすぐ裏路地にあるスリランカ料理レストラン「Restaurant & Bar Palette」

ランチタイムに満席となった24席の店内で1人でホール業務をテキパキこなすのは、知的障がい者の男性スタッフ。

「ここは、『障がい者が働いている特別なレストラン』ではないんですよ。
『気軽に立ち寄ってスリランカ料理が楽しめるレストラン』で、たまたまそこには障がい者が働いているだけのごく普通のレストランなんです」
こう語るのは、支配人・南山達郎さん。

  Paletteは、株式会社ぱれっと という会社組織で運営している。

元々は、「知的障がい者があたりまえに働き、暮らし、楽しむ生活」を支援するNPO法人ぱれっと(前身は、「ぱれっとを支え る会」、2002年にNPO法人化)が、補助金に頼らない会社組織で障がい者と一般の人が共に働く場をつくるために設立した。

 南山さんがPaletteの支配人となったきっかけは16年前まで遡る。

「24歳の時、学生時代にボランティア活動に参加していたぱれっとから、会社を起こしてレストランを始めるから運営をやってみないか、と誘われたんです。でも、入って3日後には正直、後悔しましたよ(笑)」

  南山さんがぱれっとに入ると、「障がい者も働くスリランカ料理のレストラン」を経営する会社の登記が済んでいる、というだけの状態。
店の場所もスタッフも何も決まっておらず、一から南山さんが準備しなければならなかった。
「社員は飲食業ド素人の僕一人。でも、やることは山ほどあって体がいくつあっても足りないと思いました。それでも開業できたのは、ぱれっとが支援している障がい者のお母さんたちやボランティアさんたちでつくったプロジェクトチームの全面的な協力があったからですね」

 

障がい者だからと特別扱いはしない。
普通のサービスができるよう特訓

有限会社ヴィ王子
 

 開業当初は、障がい者のスタッフを3人雇用した。1人は、元々ぱれっとに関わりのあった人で、残りの2人は養護学 校に求人を出して採用。

学校には、仕事内容を説明して、その仕事ができそうな人を数名選出してもらい、学校に1日様子を見に行ったり面接を行って採用に 至ったという。

「開業から1年間は、彼らには洗い場や掃除など裏方の仕事をしてもらいました。いきなり接客の仕事をするのは彼らにとってもストレスになってしまうと思ったんで、まずは働くことに慣れてもらう、という狙いもありました」

 開業1年が経ったとき、南山さんが障がい者のスタッフに仕事の希望を聞くと、皆が接客をしたいと答えた。
そこで、南山さんはホールスタッフとして働けるように3カ月間、彼らに接客の仕事を教えた。

「ランチとディナータイムの合間や営業終了後に、僕が客になって接客の練習。
障がい者だからと特別扱いはせず、一般のレストランでは当然要求されるサービス を提供できるように特訓しました。ただし、アプローチの仕方には障がい者に合わせた工夫をしましたね。
例えば、うまく『ありがとうございました』という言葉 が言えなければ、ありがとうの言葉以上に感謝の気持ちを伝える笑顔を見せるように指導したんです。
大切なのは、お客さんにとって気持ちのいいサービスを提供することですから」

  この間、南山さん自身も、ケースカンファレンスに参加したり、心理カウンセラーに対応のアドバイスを受けるなど、障がい者のスタッフを育成するための勉強を怠らなかった。

 高級感のあるスリランカ料理専門店「ぱれっと」として開業し、2年間は順調に売り上げを伸ばしていたが、バブル経済崩壊にともない3年目から売り上げがみるみる落ちてしまう。

そして5年目には、ついに店を閉めるか、店の規模を縮小して再出発するか、という選択を迫られることになる。

「5年間でスタッフはずいぶん成長していました。
お客さんに『ありがとう』とストレートに言われることに、彼らはとても喜びを感じていました。
自分が提供 したサービスを評価してもらうことに、仕事の達成感を得ているんです。
せっかく彼らがつくり上げた働く場をなくすことはできないと思い、店を移転する道を 選びました」

 

障がい者を中心に考えるのではなく、
社会ニーズを見極めたビジネスを

有限会社ヴィ王子
 

 コンセプトを「気軽に立ち寄れてお酒も飲めるレストラン」に変え、移転して店の規模を縮小し、店名も「香辛酒房ぱれっと」と改名した。
家賃や人件費、料理の原価など費用を大幅に削っての再出発だった。

  経営状況は決して楽になったわけではない。

しかし、Restaurant & Bar Paletteの再改名を経て、6年経った現在、南山さんと障がい者スタッフ2名、そしてスリランカ人コック1名の4名で運営。店舗は、成功を収めている。

「今でも経営が黒字になっているわけではないので、本当は成功しているとはいえないかもしれません。
常に売り上げを上げるための工夫と努力を怠れません ね。
僕らもお客さんも、障がい者が働く店として特別な店と思ってしまったら、店の質が落ちてもいい、という甘えが出てしまいます。
それでは、障がい者にとって 『あたりまえの生活』を送る職場とはならないので、お客さんに必要とされるサービスを提供するように心がけています」

 南山さんは、福祉起業を考えるにあたって重要なのは、ビジネスプランの立て方だという。

「障がい者を中心にしてビジネスを考えるのではなく、社会に必要とされているビジネスを考えるべきなんです。
普通のビジネスなら、それが当然ですが、障がい者 を雇用することを考えると、彼らができることからビジネスを考えてしまいがちです。
障がい者が働いているからお客さんは受け入れてくれる、と決して思わず に、一般社会で通用する高い経営意識を持つことが大切だと思います」

南山達郎さんプロフィール

Restaurant & Bar Palette(レストラン&バー パレット)
支配人 南山達郎さん
1964年生まれ。大学生時代、ボランティアで、障がい者の自立支援を行う団体「ぱれっと」の活動に参加。大学卒業後は、授産施設で営業の仕事に2年間従事。 1990年4月、レストランの立ち上げを計画していたぱれっとに入り、レストラン経営の責任者となる。1991年、「スリランカレストランぱれっと」開 業。1996年、店を移転し、「香辛酒房ぱれっと」に改名。2003年、再度店名を「Restaurant & Bar Palette」に改名し、現在に至る

起業、経営ノウハウが詰まったツールのすべてが、
ここにあります。

無料で始める