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理想のレストランへの第一歩を踏み出させてくれた最低資本金特例制度
Le Grand Blue(ル・グラン・ブルー)は、雫石牛、南部地鶏、大船渡直送の魚介類など、地元である岩手の食材にこだわったフレンチレストラン。このレストランの オーナーシェフが、有限会社大勢産業の伊勢さんだ。
2003年6月に最低資本金特例制度を利用して起業し、翌7月には増資を達成したというが、そこにはどんな経緯があったのだろうか。
起業への思い、これからの夢とともに聞いた。
資金面のハードルがなく、気軽に会社がつくれる
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「気取りのないフランス料理を盛岡の人たちに食べてもらいたい」
とホテルからの独立を決意した伊勢さん。
「ホテルのシェフとして働きはじめて5年ほど経ったころ、自分のつくりたい料理と、ホテル側に求められる料理が違うという壁にぶちあたったんです。
もともと料理の世界に足を踏み入れたときから、いつかは自分の店を持ちたいという思いがあったのも事実。
迷いながら、ホテルの同期や先輩とそんな話をしているうちに、じゃあ一緒にやろうかということになりました」
会社を設立しようと考えたのは、一緒に独立したシェフが、あるレストランの経営者から「会社組織にしたほうがいい」とアドバイスを受けたから。
それまでは好きな料理さえつくれればいいと思っていたそうだが、アドバイスには素直に「そういうものか」と納得。
そして、会社を設立するためにはどうしたらいいのかを 調べるために手にした本で、特例制度のことを知ったという。
「資本金というハードルがない気軽さから、一歩が踏み出しやすくなりました。シェフという仕事 からいえば、会社にしなくてもいいような部分もあるのですが、この制度のおかげで、会社でやってもいいなあと思うことができた。
資金はないけれど、責任や 信用力がほしいと思う人にとっては、とてもメリットのある制度ではないでしょうか」
そして2003年6月、ホテル時代の仲間と資金を出し合い、資本金20万円の有限会社大勢産業が誕生する。
資本金のほかに開業資金が必要との誤解が解けて、増資を達成
ところが、大勢産業が400万円に増資をするのは、設立の翌月。
「法務省の人にもびっくりされた」ほどのスピードで最低資本金を達成することになるのだが、そこには大きな誤解があった。
「お恥ずかしい話ですが、資本金のことをよく分かっていなかったんです」
シェフになる前に証券会社に勤めていた伊勢さんは、資本金を証券会社に差し入れる信用取引の担保金と同じように考えていたというのだ。
「資本金は、銀行に預けっぱなしにしておかなくてはいけないものだと思い込んでいました。
備品を買ったり、仕入れをしたりするための資金は、ほかに必要なのだと勘違いしていたんです」
会社設立後に融資の相談に訪れた銀行で、資本金も実際に使えるということを知り、
別に用意していた開業資金で増資を達成する。
これほど急いで、増資をしたのには理由もあった。
「資本金があまりに小さいと、融資を受けづらいという のが当時の現実でした。
特例制度が施行されたばかりで、確認会社がまだ盛岡にほとんどない状態だった
というのもあるのでしょうが、資本金の額で、銀行はその信用力を測るということを勉強しましたね」
“盛岡にこの店あり”といわれるようなレストランにしたい
開店当初は接客に追われた伊勢さんも、今では厨房に入り、思う存分に鍋をふるう忙しい毎日が続いている。
「これからの夢ですか?
会社を大きくして、2店舗、3店舗と増やしていこうとは思っていないんです。
それよりも、一皿一皿、質の良い料理をつくって、盛岡の 人たちに喜んでもらいたい。
売り上げを上げるためにもっとも大切なのは、店に来てくれるお客さまからの信用です。
だから、これはフランス料理じゃないとい われる料理でも、盛岡の人がおいしいといってくれるような洋食を提供していきたい。
そして、ル・グラン・ブルーを“盛岡にこの店あり”といわれるようなレ ストランにしたいですね」