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ベンチャーキャピタルに評価され増資達成
アネロファーマ・サイエンスは、腫瘍組織の嫌気性に着目したバイオ医薬品の開発会社だ。現在、開発に取り組んでいるのは、「嫌気性菌であるビフィズス菌が嫌気的環境である腫瘍に選択的に集積する性質を利用したターゲティング療法剤」。簡単にいえば、ビフィズス菌を抗がん剤の“運び屋”として利用するというもの。
しかし、どんな菌であれ、菌を血管などの体内に静脈注射するのは、常識ではタブーに近い。この大手製薬メーカーには手を出せないテーマにあえて挑むた め、アネロファーマ・サイエンスは最低資本金規制特例制度を利用して設立された。
創業メンバーの出資額バランスを保つため、特例制度を利用
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アネロファーマ・サイエンスが特例制度を利用したのは、創業メンバーの出資額のバランスを取るためだったという。「株価上昇やIPOを考えたとき、創業時の 出資額というのは大きな意味を持ってくるものです。つまりは、創業当時から、この事業に本当に貢献した人たちの株のシェアバランスを考える必要があるとい うこと。その結果が775万円でした。身内からの出資を増やして1000万円にすることもできましたが、それでは出資額の調和を保つことができないと判断 したのです」
どんな薬であっても、開発には億単位の資金が必要になる。すぐに増資をする見通しもあったが、それでもあえて775万円の資本金で設立したのは、将来を見 据えた資本政策だったということだ。「その点において、特例制度はとてもメリットのあるものでした。デメリットは、とくに思いつきません。手続きが煩雑 だったということくらいです(笑)」
事実、翌月には7500万円の転換社債を発行し、バイオ分野への投資を得意とするベンチャーキャピタルによって引き受けられている。翌2005年3月に は、転換社債が株式に転換され、資本金を4525万円に増資、確認会社を卒業した。さらに同年6月、10月に数社のベンチャーキャピタルを相手にした第三 者割当増資を行い、現在、資本金は1億2875万円に達している。
ベンチャーキャピタルに評価された事業テーマと組織構成
では、アネロファーマ・サイエンスが、複数のベンチャーキャピタルから評価された理由はどこにあるのだろうか。「ひとつは、当社の事業テーマがユニークなも のであるということ。薬物を病巣に送り届けるDDS(ドラッグデリバリーシステム)という考え方は世界的に流行っていますが、当社が注目しているビフィズ ス菌はまさに究極のDDSです。5ミリ台の癌腫瘍でも確実に届き、しかも、人に近いカニクイザルを用いた予備的毒性試験においても安全性が示唆されまし た。再発ガンを含めた幅広い種類のガンに適用できるうえに、副作用の少ない画期的な抗がん剤となる可能性を秘めているのです」
そしてもうひとつの理由が、会社としての組織構成にあるという。「アカデミックな研究者に加え、製薬企業で活躍してきた研究者をコアメンバーとして迎えて います。論文を書くために研究してきた者と、薬をつくるために研究してきた者が、共に仕事をすることによって、より高い相乗効果が生まれてきているので す」
ベンチャーキャピタルに言わせると、いかにアイデアが良くても、会社を構成するメンバーがチームとして機能しなくなり、破綻にいたる事例には事欠かないそ うだ。画期的なテーマを、無事に抗がん剤として世に送り出せるチームなのかどうか。この点においても、アネロファーマ・サイエンスは、出資に値すると判断 されたということである。
さらなる資金調達のためのIPOも視野に入れ、臨床試験へ
2006年4月。アメリカで行われたガン学会のシンポジウムで、アネロファーマ・サイエンスの研究結果が発表された。
「いかに早く製剤にこぎつけるかを目指しています。そのために臨床試験は海外で行うことも考えていますし、大手の製薬会社と組むこともあるかもしれませ ん。そして、このテーマが成功すれば、その技術をプラットフォームとする新たな医薬品の開発へと取り組んでいく予定です。また、抗がん剤を世に出すにあ たっては、さらなる資金調達が必要になるステージがくるはずです。そのためのIPOも考えています」