定年退職者でワークシェアリング / 企業組合ビル・サービス・エンジニア・グループ

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

企業組合ビル・サービス・エンジニア・グループ代表理事 福井定一さん

70歳でも現役!定年退職者でワークシェア

まだまだ現役で働きたくても、定年という壁にさえぎられ、やむ終えず職場を去る人は多い。福井さんも現役時代には、営業として毎月の数字に追われ、がむしゃらに仕事をしてきた。
定年前に会社を辞め、次に入社したビル設備管理会社では、高齢者の技術者たちが主力となって働いている場面に出会った。
その後、高齢者の技術者が、定年後も働ける場所を提供するため企業組合(注1)を運営。
ワークシェアリングで無理のない仕事環境を実現した福井さんをご紹介。 

 

【その夢が生まれた瞬間とは】

福井さんは、日本コロムビアで、電機事業部、レコード事業部に所属し、営業一筋の道を歩んできた。
しかし、57歳で役職定年を迎え、これを機に退職の道を選ぶ。

「会社に残り、定年退職となる60歳までの3年間を過ごすこともできましたが、
自分の仕事もなく、毎日ぶらぶらと過ごすより、まだまだ一線で働きたいと退職を決めたのです」

34年間勤めた会社を去ってから福井さんが選んだのは、今までの仕事とはまったく異なるビル管理業界。
知人に誘われて入った会社だったが、業務内容は想像以上に興味深かったという。
ここで管理職として、会社のマネジメント全般を担当した。

「初めて足を踏み入れる分野で、最初は勉強の毎日でした。
ビル全体の管理といっても、空調、ボイラー、電気設備など、それぞれに決まった専門業者がある。
そのうえ、この機器を扱うには、資格何級以上じゃないとダメなど、それらを覚えるだけでもひと苦労でした(笑)」

ビル設備管理とひと言でいっても、その守備範囲はかなり広範だ。
電気ひとつをとっても、運転、保守、点検業務があり、
設備機器としては、電気、空調、ボイ ラーのほかにも、
給排水、フィルター清掃、ポンプ類、水槽、消防設備など多岐にわたる。
そして、これらの機器を扱うには、電気主任技術者、ボイラー技士、 消防設備士など、
それぞれに異なる資格が必要なのだ。
福井さんは、それらの専門業者を統括し、各種許認可の申請業務などを担当した。

「ビル 設備の各種機器を扱う業者の人たちは、年配の人たちが主力になっていることに気づいたんです。
この業界は、年齢に関係なく働くことができるんだなと感じま した。
しかし、現場の技術者たちの定年は65歳。
技術を持った貴重な人材を、そこで失うのは非常にもったいないと思っていたのです」

【起業の一歩はどうやって?】

3年間はあっという間に過ぎ、福井さんはビル管理会社で定年を迎えた。
しかし、ビル管理会社のマネジメント業務は仕事も楽しく、「まだまだやれる」という気持ちが残っていた。

「この仕事で、何か新しい道を開くことができるかもしれない」

そんな時、昔の同僚から声をかけられた。

「彼は、前の会社でボイラー技士をやっていたのですが、定年した仲間たちと仕事を始めたがうまくいかず悩んでいました。技術は知り尽くしていても、組織の仕組みや営業体制づくりなど、うまく機能させることができなかったのです」

福 井さんは、すぐに一緒に仕事をすることに決め、業務を開始した。
まずは、クライアントにダイレクトメールなどで営業をかけ、仕事を確保。
社会保険に加入し たり、税理士に依頼して資金のやり取りを明確にして、企業組合の基盤を固めた。
その頃、発起人から理事長になってほしいとの依頼を受け、福井さんが代表理 事になることが決まった。

「ビル設備管理をはじめ、各種管理の人材派遣を行うことにしました。
請負業務のため、法人組織でないと受注できな いことも多いので、企業組合を選んだのです。
定年退職者同士でワークシェアリングすることを目指していたので、企業組合なら対等な立場でいられる。
みんな で働いてみんなで儲けをわかちあえる喜びを見出せると思ったんです」

福井さんたちの組織する企業組合ビル・サービス・エンジニア・グループ のモットーは、
「スローな生活を享受すること」。

1つの仕事は2~3人で担当。
チームを組んでいるので、体調を崩して仕事ができない場合や休暇の時は、
ほ かの人たちに埋め合わせしてもらい、がむしゃらに働くことはしない。
給料はもちろん半分になるが、働く時間が減った分、残りは余暇にあてることもできるの だ。
その考えに賛同し、組合員になりたいと応募する技術者が殺到した。

【稼ぎよりも仕事をする喜びを求めて、技術者が集まってくる】

経験に裏打ちされた技術力は、クライアントからの信頼も厚い。
現在では、ホテルや病院をはじめ、都内で40棟ほどのビル管理の仕事をしており、
毎日約90名の組合員たちが働いている。

「組 合員のほぼすべてが技術者で、私だけが営業担当。
毎日企業を回って営業に励んでいます。ビル管理会社でも管理者を自社で保有せず、
アウトソーシングする時 流が高まっていますが、うちの強みは自社で技術者を確保しているから、
その分、安く技術力を提供できる点です。
アウトソーシングやワークシェアリングと いった労働形態を理解してくれる、
クライアントと仕事をしていけばいいんです」

会社員時代には、理不尽なことにも歯を食いしばって働いてきた分、今はゆっくりと楽しみながら仕事がしたい。
そんな人たちが集まって働いている。
組合員たちは、稼ぎよりも仕事をする喜びを求めて集まってくる人たちが多いのだろう。

「うちの定年は70歳。
クライアントから指名があれば定年延長もできます。
働きたいと希望する高齢者の人たちに、ひとつでも多くの仕事を提供するために、
私もまだまだ頑張っていきたいですね」

(注1) 「企業組合」:4名以上の個人が組合員となって、それぞれが資本や労働力を持ち寄ってつくる組織。
組合員は事業運営に対して、平等の権利が与えられるので民主的な運営が行える。
企業組合は普通法人として扱われ営利の追及も可能。

【組合概要】
企業組合ビル・サービス・エンジニア・グループ
設立 :  1993年 9月
業務内容 :  ビル設備管理、マンション管理等の人材派遣
連絡先 :  TEL:03-3258-0854

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