伝統技術に現代ニーズを結びつける / (株)キャデット

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

018日本を代表するマクロ経済学の泰斗、岩井克人氏は、
「日本再生には起業家の出現が必要。
しっかりしたマーケティングと技術を身につけた
大企業のビジネスマンの起業がもっとも力強い」。
と常々説いている。

一方、実際に事業を興して成功 を収めた技術ベンチャーの社長たちはよくこう言う。

「大企業で身につけた最先端の知識を、日本が得意とする緻密な職人技術に
結びつけたら鬼に金棒のベン チャービジネスが誕生する」。

いうなれば、大企業の頭脳と職人芸の集積地、大田区工場街が合体すれば、
それこそ、理想的なベンチャー企業ができあがるんじゃないだろうか、ということだ。

「そんな机上の論理が通用するか!」というなかれ。実際に「勝利の方程式」を実践し、輝かしい成果を上げている起業家が存在するのだ。日本の技術の粋を集めた大田区羽田で、鋳造会社「キャデット」を経営する橋本一朗さんがその人。

橋 本さんが生み出した商品の数々は、まさに「伝統技術を生かした現代アート」といえるものばかり。アルミニウム合金ハウジングによる世界初の金属製コン ピュータマウスは、売り出すや注文が殺到。その斬新な発想と美しいフォルムは、目の肥えたコンピュータオタクを唸らせた。そのほかにも、最先端のデザイン を職人が手作りで具現化したメタルソファーやテーブルなどのファニチャーシリーズ。さらには東京日比谷公園のデザインフェンス、大田区つばさ公園のデザイ ンパネルをカスタムメイドで制作するなど、都市景観に腐心する自治体のハートもがっちりつかんでいる。

橋本さんは大企業出身。大学で機械工学科を専攻した後、大手機械メーカーに入社。社内留学でアメリカの先端技術を学び、国内では設計、企画というメインストリームを歩いてきた。まさにバリバリの大企業社員だったのだ。

「そ れが親戚の鋳造会社を手伝うことになって、数年後に独立しました。独立するに当たって考えたのは、古くからある伝統産業である鋳造業をなんとか新しい分野 に広げて、事業の軸足をもうひとつ作り上げたいということ。従来とおりの発想では、メーカーの海外進出によるコストダウンに振り回されて、青息吐息になるの は目に見えてますから。実際についていけない鋳造業者はどんどん減っています。だからこそ、古い伝統技術を新しい分野に広げて、当社にしかないオリジナル な商品を作り上げる。そこに活路を見出そうと考えたんです」

「伝統技術と現代ニーズを結びつける」という橋本さんの発想は、大ヒット作のメタルマウスではこんな具合に生かされる。

「マ ウスですから重量を軽くしなければなりません。上ぶたの金属部分の厚さをなんとしても 1ミリに抑えるために、大変な苦労をしました。精密な木型を作り、職人が長年の技術と勘で丁寧にキャスティング(鋳造)・研磨して仕上げる。最先端のニー ズを職人芸が見事に具現化したことが成功の要因だと思っています」

いまや商品はブロンズによる銅像・梵鐘やレリーフ、さらにはモータースポーツや半導体製造装置の鋳造、金属製品にまで及んでいる。2002年にはニューヨークにオフィスを構え、日本の伝統技術と世界の先端ニーズを結びつけることにも挑戦中だ。

 

【橋本 一朗氏プロフィール】

東京都生まれ。大学の機械工学科を卒業後、大手機械メーカーに就職。設計、企画畑を長年歩き、アメリカ留学を経験する。 メーカー退社後、大田区で親戚が経営する鋳造会社に転職。そこで数年間鋳造技術を学び、91年に(株)キャデットを設立。発想の転換で、自社の持つ伝統的 技術を見事な戦略商品に変えたベンチャー企業として、各種セミナーやマスコミでも知られる。メタルマウスで名を馳せた橋本さん自身もパソコン好きで、自宅 と会社で 7台のマシンを操る。

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