専業主婦だった期間が長く、今さら働きたくても勇気が出ない女性は多い。
一方で、主婦たちが時間をやり繰りして、飲食店やショップ、
サービス事業を 行うケースが増えているのも事実だ。
ここに紹介する二宮さんもそんな一人。
いきいきと働く主婦たちのグループを見て仲間たちと飲食店をオープンした。
その後、さらに保育サービス事業に乗り出す。
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【その夢が生まれた瞬間とは】
30年間専業主婦として、3人の子育てに携わった二宮さん。
子供たちが独立したため、夫が定年するまでの間、「社会と関わりを持ちたい」と生協の活動に参加した。
「ちょ うど生協の理事をしていた時に、神奈川の生活クラブ生協への視察旅行があったんです。
軽い気持ちで参加したのですが、そこの主婦たちの活動は、想像をはる かに超えるものでした。
ランチのみの軽食店や、リサイクルショップ、女性だけのレストラン経営など、
ワーカーズコレクティブ(注2)を結成し、無理なく、 楽しそうに働く人たちに目を奪われたのです」
使える時間を有効に利用して、みんなでショップや飲食店を運営している姿を見て、
「これなら自分でもできるかもしれない。やりたい!」という気持ちが芽生えたという。
「す ぐに有志を募ったら、10人の主婦が集まったんです。
外に出て働きたいと思っていた人がこんなにいたんですね。
自分たちにできるのは『主婦キャリア』を活 かすこと。
まずは、無理なく始められるランチの店をオープンすることにしました。
とにかく3年間は絶対に続けようと決め、飲食店『がやが舎(や)』をオー プンしたのです」
【次の一歩はどうやって?】
スタートから2年。
店にも慣れてきた頃、行政の「保育サービス講座」に参加する機会があった。
「その時、ボランティアでもいいから育児支援に携わって欲しいと言われたのです。
飲食店の運営で、主婦というキャリアが社会に通用することがわかりました。
ならば育児支援も事業化として取り組みたいと思いました。
賛同者も20名集まったんです」
話し合いの末、『がやが舎(や)』とは、別事業としてスタートすることに決めた。
保育サービスを行うには場所を借りなくてはならないため、ある程度まとまった資金が必要だった。
そこで、みんなで出資することに。
すると、
「残念ですが、中には軽い気持ちで参加していた人も多く、出資金が必要だったり、
仕事に就く時間が長くなることを知ると、少しずつ離れていく人が増えたんです。
結局6人で、任意グループの保育ルーム『ぴぃかぁぶぅ』をスタートしました」
子育て経験があるとはいえ、最初から長時間、大勢の子供たちを預かることには不安がある。
そのためスタッフは、4~6時間程度のローテーション体制で対応した。
6人の中で保育士の経験を持つのはたった1人。
起業が決まり、急いでもう1人が保育士の資格を取得した。
「私 は運営担当として役場や近隣の保育園、幼稚園を回って宣伝に努めたんです。
うちの保育ルームはお母さんが病気の時や、ちょっと出かけたい時に気軽に預けら れることがウリでした。
最初はなかなか子供が集まらず、やがて口コミで利用者が徐々に増えてひと安心。
アットホームな雰囲気が利用者たちに受けたようで す」
スタッフは、働く時間が短い分、余裕を持って保育にあたれる。
そのうえ、みんな育児経験をもつ大先輩なので、
お母さんたちが子育ての悩みなどを気軽に相談できることも好評だった。
「その頃、世間では、家庭内での密室育児が引き金となった、子供への虐待が問題となっていたんです。
認可保育園で育つ子供たち以外の一時預かりにも、行政の支 援補助金を要請したのですが、
法人でないとこれが受けられないとわかったんです。
社会的認知を受けるためにも、法人化は必須と考えました」
【補助金が出たことで利用者も増え、スタッフも増員】
彼女たちはあらためて話し合いをもち、無理なく続けられる企業組合での運営を決定した。
多額の出資金が要らずに法人化でき、参加しているみんなが平等で対等なことなど、
二宮さんたちが起業するのに最適な方法だったという。
こうして企業組合オフィス21を設立。
「一時預かりにも補助金が出たことで利用者も増え、スタッフも増員でき、朝6時からの保育も可能になりました。
スタッフの自宅で預かる24時間保育も開始して、他の保育園との差別化を図ったのです。」
利 用者も増え、2000年には第2ルーム「カムカムキッズ」をオープン。
しかし、事業高は伸びていたものの、2つの保育ルーム運営にはコストがかかりすぎて しまい、
増収減益となってしまう。
中小企業診断士からの指摘もあり、効率の良い採算ラインを維持するには
保育ルームを「カムカムキッズ」ひとつに絞ること にした。
もうひとつ、代表を務める二宮さんにとって重大なことが起こった。
この事業を始めてしばらくして、ご主人を病気で亡くしてしまったのだ。
「主人の定年までこの事業に携わって、その後は2人でゆっくり過ごしたかった。
それがかなえられなかったのは残念ですが、この仕事があったから立ち直ることができたのも事実です」
2003年7月に代表を交代した二宮さん。
しかし、彼女の夢はまだ終わったわけではない。
「現在再開発している地域で、また改めて保育事業を始めるつもりです。
バイタリティ溢れる子供たちが育っていくような、新しいタイプの保育所をつくりたいですね。
今度は、息子も一緒に参加してくれるので、今からとても楽しみです」
ずっと専業主婦だったひとりの女性が、仕事の楽しさに目覚めてしまったようだ。
(注1) 「企業組合」:4名以上の個人が組合員となって、それぞれが資本や労働力を持ち寄ってつくる組織。組合員は事業運営に対して、平等の権利が与えられるので民主的な運営が行える。企業組合は普通法人として扱われ営利の追及も可能。 |
(注2)ワーカーズコレクティブ:メンバー全員が出資・経営・労働の一人三役を担う協同組合方式の非営利事業 |
【組合概要】 | |
企業組合オフィス21 | |
所在地 : | 福岡県糟屋郡 |
設立 : | 1997年12月 |
業務内容 : | 保育所運営、ベビーシッターサービス等 |
TEL : | 092-936-4944 |