心豊かな手法で、介護ビジネスを成功に導く / (株)やさしい手

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

大学卒業直後、22歳でいきなり会社を設立

019 大学時代、香取は親族法を研究する田辺繁子教授に師事、特に女性の解放と自立について大きな影響を受けた。

卒業を迎えるにあたって就職を考えるも、40年近く前の話である…。 4大卒でも男性と対等な仕事どころかお茶くみから始めなければならない、そんな会社ばかりだった。

悶々として煮え切らない香取に、田辺教授が「あなた、何をやりたいのよ!」。そこで、思わず出た言葉が「家政婦紹介所」だったのである。

「私 の家には、幼い頃から家政婦さんが来ている環境だったので、身近な存在ではあったんですね。その家政婦さんは、私が女性の労働問題に関心を持っているのを 知っていたので、『女の人なら、紹介所にいっぱいいる』なんて、いつも聞いていましたし。ならばと思って、まずは職安で調べてみたら、資格がどうの、キャ リアがどうのと面倒なことをいろいろと言われまして。経験のない若い私には、紹介所をやるなんてとても無理だと思っていたんです」

そんな香取を後押ししたのも、田辺教授だった。会社組織にして、有資格者を入れて、香取自身は代表取締役になればいいとアドバイスしてくれた。そして香取は、卒業後、22歳にしていきなり「大橋サービス」という会社設立の道を選択したのである。

実家の周辺は世田谷区、目黒区、渋谷区など富裕層が多いエリアで、立ち上げ創業期から反響は大きかった。

「何をしたら一番いいか、とにかく真剣に考えました。お客さまからみて、言葉遣いやお行儀、家事の細かい知識や技術、こういうものをきちんと身につけた人材を確保することが肝要だと。その点では母の助力を得て、今でいうマニュアルをつくって教育研修には力を入れました」

質の高いサービスは評判を呼び、口コミなどで顧客は確実に増えていった。やがて業界トップ層に食い込み、「大橋サービス」は、300人のスタッフを抱えるまでになった。

「顧客満足度とヘルパー満足度は常に連動する」を基本に

そして93年、香取は、長年考え続けていた介護サービスへの参入に踏み切る。それが「やさしい手」。

最初は、家政婦を派遣していた家庭の高齢者を対象にサービスを提供していたが、95年からは、一部自治体の介護事業を請け負い、エリアを拡大していった。

「そ こでわかったのが、訪問介護サービスというのは、ご利用者をできるだけたくさん一事業所に集めて、拠点ごとに自立させなければ、ビジネスとして成り立たな いということでした。ですから新しい事業所を出す際には、基本的には採算の取れている事業所の隣接地域に出します。口コミで評判が行き渡ってますから。 「それと、住宅改修、福祉用具の専属の営業によるマーケティングをしているというのも、業界では珍しいことでしょうね」

一方、この事業にお いて、大変重要な問題になってくるのが顧客満足と同時にヘルパーの確保だ。香取は、採用を強化するとともに、どのようにして定着を図るか。ここに、ずっと 腐心してきた。ヘルパー同士の勉強や情報交換、ストレスや悩み相談の場として「アゼリア会」という集まりをつくっているのも、ひとつのかたちである。

「私 は、顧客満足度とヘルパー満足度というのは、常に連動してると思っています。もちろん、ご利用者からのクレームはきっちり受け止めて、みんなで検討して是 正措置を取っています。でも逆に、ご利用者がヘルパーさんに契約書にないことを求めようとした場合などは、事業所から担当者が出向き、きちんと説明をして 納得していただく。そういう意味で、ヘルパー教育と同じくらい、ご利用者満足というのも重要になってくるのです」

両者の満足度が一致して、“人”が輝いていくさまを見るのが本当に嬉しい、と香取は語る。

もうひとつ、香取が声を大にして言っているのは、介護報酬が安すぎるという問題。このことが、優秀なヘルパーやケアマネジャーの確保を難しくしていると指摘する。報酬はもちろん、ヘルパーの社会的地位をもっともっと高めていきたい、これが強き信条だ。

ノウハウを社会的な資源として広めるためのFC展開

「やさしい手」は、介護保険制度がスタートして以降、大手としてはもっとも早く単月黒字を達成。福祉機器の販売や住宅改修など、介護をトータルで支援する体制も整えてきた。さらに、他社ヘルパーに対する教育研修が収入源のひとつになっていることも、底力を感じさせる。

そんな同社がFC展開を開始したのは、96年からだ。

「か なり多くのノウハウを蓄積してきてますので、それを秘密にしておくのではなく、次々とマニュアル化した貴重な情報としてFCに提供しています。ただし、そ れぞれの地元で生まれ育って、そこで信頼を得てきた企業さんにお任せしたいので、そういう相手を選ぶのが難しいですね。人の生活や心にまで入り込む仕事で すから、奥の深い難しさがあります」

いたずらな拡大路線ではなく、理念を伝えていく。自社のノウハウを社会的な資源として捉え、共有できる 部分は大切にしていく。数々の問題を抱え、競争の激しいこの業界で「やさしい手」が健闘しているのは、こういう真摯な企業姿勢と、やはり地域密着型の口コ ミでの評判を一つ一つ積み重ねてきたからである。

顧客の家庭の中でサービスする難しさも、スタッフと利用者の心理も知り尽くした香取の言葉には、机上のビジネス理論にはないリアルな説得力がある。

「私は人が好き。でなければ、この仕事はできません」

【香取 眞恵子氏 プロフィール】

東京都に生まれる。専修大学法学部を卒業した直後に起業、家政婦紹介業「大橋サービス」を設立。
質の高いサービスは富裕層のニーズにマッチ、業界の トップクラスにまで発展させる。
93年に在宅介護サービスに進出、「やさしい手」を設立。
各営業所ごとに採算が取れる利用者数・信頼の確保、住宅改修、福 祉用具貸与・販売の専属営業担当者の配置、サービス提供責任者の「お客さまの生活をよりいいものに」への熱心な活動、ヘルパーの教育研修など、独自のノウ ハウを確立する。
介護保険制度施行後は、大手としてはもっとも早く単月黒字を達成した。
FC展開は96年からだが、量的拡大より質的充実を追求する方針で、業界内外の評価は高い。
97年に労働大臣表彰、01年に「第3回優秀企業家賞」受賞、03年に「第8回ちいき経済賞」受賞。

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