- 目次 -
牛乳パックで作った「夏休みの宿題」を商品化?
1988年5月5日の「子どもの日」、宮崎県都城市に前代未聞の子供企業「ハルカファミリー」が産声を上げた。社長(ここでは敢えて、そう呼ばせていただきたい ※1)は、丸野遥香ちゃん。当時10歳の女の子が、どうしてまた社長に就任することになったのか? 興味の尽きない話である。
「4年生の夏休みに、パトリック(遥香ちゃんの愛犬)と散歩に行ったら、パトリックが道端にウンチしちゃったんです」と、ここまではフツーにある話。ところが、それに驚いた遥香ちゃんは・・・・・・。
「誰かに見られたら困ると思って、慌ててウンチを素手で拾って、走って帰ったんです」
いやはや、大人だったらあり得ない話だが、この事件こそ、遥香ちゃんのその後の生活を大きく変えることになる。
それまで自宅のペット専用トイレで用を足すところしか見たことがなかったという彼女は、これをヒントに牛乳パックで「犬のウンチ拾いスコップ」を作成。夏休みの宿題として発明工夫展「都城科学技術プラザ」に出品すると、見事、「町長賞」に輝いたのである。
「そうしたら、お父さんの友だちから『面白いから商品にして、売ってみれば?』って言われて。お父さんと一緒に開発プロジェクトを発足したんです」
優秀な「部下」を頼りに、商品企画は「シャチョー」が推進
プロジェクトのリーダーは、もちろん遥香ちゃんである。遥香ちゃんの父親であり、デザイン事務所を営む勇さんは、優秀な「部下」として彼女の企画をもとに商品の試作に取りかかることにした。
最初は戸惑いを隠せない様子の勇さんだったが、遥香ちゃんの意思決定に任せてプロジェクトを進めるうち、いくつかのことに気がついたという。
「何よりも決断が早いんです。それに、アイデアだけでなく、デザインセンスも抜群。売れる商品作りを目指していく中で、子どもの『直感力が冴えている』ということが、どれだけ大切なのかを知りました」
こ うして、スコップのスタイルデザインや色、パッケージングなど、それぞれに遥香ちゃんの考えが反映された「犬のフン持ち帰りグッズ Haruka's Paperscoop」が完成したのは、1997年も終わりに近づいた頃。ところが、初出荷されるやいなや、もの凄い反響を呼んだのである。
それから間もなく、丸野家で「事業にしよう」という話が持ち上がり、「じゃあ、私がシャチョーをやる」と遥香ちゃんが手を上げた。これが「ハルカファミリー」の誕生である。
シャチョーっていろんな人に会えるし、幸せな仕事!
「環境をキレイにするというのが、うちのテーマなんですけど、商品をどう売っていくか、というのはいまだに課題。デザインを変えようか、使いやすいように改良しようかと、頻繁に社内会議を開きますね」
とシャチョー稼業も板につき、その風格さえうかがえる遥香さん。
「よ く、『事業をやるのは難しい?』って聞かれるんですけど、ぜんぜん!!楽しいですよ。みんなも、会社でも事業でも起こしちゃえばいい!って思いますね。親 も頭ごなしに反対しないで、一緒に会社やればいい。いろんな人に会えるし、幸せな仕事ですよぉ。私は10年後も20年後もシャチョーでいたい。その頃はさ すがに『子供シャチョー』なんて言われなくなると思うけど、その分、魅力的な女性になってたらいいな、なんてね」
遥香シャチョーの優秀な部下・勇さんは、同社のサイト上に「子ども会社フォーラム」を立ち上げ、子を持つ親としてこんなメッセージを記している。
「子供はとにかく、デタラメが好きです。親から見ると、カタチになっていないものはデタラメに見えるものですが、デタラメも何度もやっているうちにカタチが作 られます。先にカタチがあるのを模倣するには技術が入りますが、デタラメは技術自体も創造します。若い頃はデタラメをやったなぁでは少々悲しいですよ。創造力というのは 年相応に枯れないらしいですから、まずは子供と一緒にデタラメを楽しみましょう」
※1 現在の日本では、事実上、会社の代表取締役に就任できるのは15歳以上。
※2 現在ハルカファミリーの決算は、丸野勇氏が経営するデザイン事務所・コスミックで申請。
【丸野 遙香さん プロフィール】
宮崎県生まれ。幼少時代の夢は、探検家になって世界中を冒険すること。小学校4年生の夏休みの宿題でつくった作品を商品化し、98年5月、小学校5年 生で起業。新作はトイレットペーパーを使ったティッシュケース「スリムなロールケース」。趣味は、音楽鑑賞(最近はJAZZ。特にルイ・アームストロング とノラ・ジョーンズがお気に入り)。好きな言葉は、「なせば、成る!」