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障がい者が気軽に立ち寄れる
カフェをつくりたい
「利益はまだまだですが、福祉の助成金に頼らない会社組織にして良かったと思います。自分たちの力で運営するために、質の高い商品とサービスを提供しようとスタッフ一人ひとりが高い意識で働いてくれるんです」
こう語るのは、カフェ&ベーカリーショップ「スワンベーカリー十条店」を運営する、有限会社ヴィ王子の取締役・小島靖子さん。
養護学校の教員を32年間勤め、障がい者の保護者や養護学校関係者と共に「王子養護学校の卒業生を応援する会 ヴィの会」の設立に関わった小島さんが、会員とともに「スワンベーカリー 十条店」を開業したのは、定年の60歳のとき。
「障がい者が気楽に立ち寄れてリラックスできるようなカフェをつくりたいとヴィの会で話し合いをしていくうちに、さらにそこで障がい者が働くことができる他のビジネスもしよう、と考えたのが、開業のきっかけなんです」
ヴィの会で計画を進めているうちに、ヤマト福祉財団が障がい者の就労の場をつくることを目的とした「スワンベーカリー」というフランチャイズチェーンを運営していることを知る。
「パン屋なら障がい者も関われる仕事が多いだろうし、カフェとパン屋っていい組み合わせだな、と思って開業することを決めたんです」
一人で一つを仕上げるのではなく
それぞれができる仕事を分担
「当初、開業資金については悩みました。スワンベーカーリーの本部からは、1軒の店を開くには、物件の内外装費まで入れて3000万円位かかると言われて。
でも、私たちにそんなお金はなかったので、とにかくできるだけ開業費用を節約するようにしたんです」
小島さんたちは、まず1000万円程かかる物件の改装費用を大家さんに負担してもらい、その分、相場より高めの家賃を払う、という契約にしてもらった。
さ らに、購入すると800万円かかる厨房機器は、60カ月のリースで月々12万円を支払うことで、開業費用を1000万円に抑えることに成功。
ヴィの会で集 めた寄付金1000万円を、小島さんを含めた取締役3名が会から借りて開業資金に充てることができた。
障がい者のスタッフは、ヴィの会とハローワークで募集をし、開業時は予定より4名多い10名を雇用した。
障がい者の中には1日8時間フルタイムで働ける人と、半日位しか働けない人がいたためだったという。
「障がい者にはそれぞれの状態があるので、4時間しか働けない人がいるなら、もう一人4時間働ける人を雇って、合わせて8時間働いてもらうということにしたんです。
仕事内容も、パン焼きが得意な人がいれば接客が好きな人もいる。
一人で全部をやるのではなくて、それぞれができることをして、みんなで一つを仕上 げる今でいうワークシェアリングがいいと気づいたんです」
開業にあたっては、まず社員がスワンベーカリー本部で3カ月間の研修を受けた。その後、店舗で2週間、障がい者のスタッフの研修を重ねた。
「スワンベーカリーの場合、一からパンを作るのではなくて、すでに1回目の発酵が終わっているパン生地を、提携しているアンデルセン(タカギベーカリー) から買います。
各店舗ではその生地を成形した上で再発酵して焼けばできあがるようになっているんです。
レシピもアンデルセンが全部用意しているので、パン の品質は一定レベルを保てるんです。
ただ、障がい者だからという甘えた考えを持ってつくったら当然、品質は落ちてしまうので、絶対に高品質のものをつくると いう高い意識を持っていることが前提となりますね」
障がい者が商品を販売し
お客さんに高い価値を提供
裏路地で人とおりが少ないという立地の悪さをカバーするため、小島さんたちは出張販売や宅配サービスにも力を入れ、現在では、出張販売が13カ所、宅配サービスは月に800件程ある。
両方とも障がい者のスタッフが出向いて販売をしているという。
「お客さんは、障がい者のスタッフから商品を買うことをとても喜んでくれています。そして、彼ら自身も今まで作業所などでお客の前に出ない仕事がほとんど だったので、自分たちが作ったものに対して、直接お客さんに渡して『ありがとう』と言われる仕事ができることに大きなやりがいを感じているんです。
時には、宅配に行って難しいお釣りの計算をお客さんに頼むこともあります。
でも、お客さんはそんなことは気にせず、快く計算してお釣りを戻してくれます。
そして、彼らの笑顔がみたいから宅配を頼んでいるんだと言ってくれるんです。
障がい者の存在は、お客さんに仕事効率以上の価値を提供しているんだと思います。
障がい者が働くビジネスを自分が利用することで社会貢献することができる、と積極的に利用してくれるお客さんもたくさんいますし。」
ヴィ王子は、2004年には霞ヶ関店、翌2005年には赤羽店を開業。
現在は、3店舗を障がい者スタッフ17名、パート・社員18名の総勢35名で運営している。
「出張販売や宅配は、障がい者が中心となって行っています。
ときには障がい者だけで販売しに行くこともありますが、調子が悪そうだと思ったら必ずパートさんに も一緒に行ってサポートしてもらうようにしてるんです。
障がい者が働く場では、周りの人間が障がい者の能力や状態をしっかり理解し、必要なサポートをしていく ことがとても大切だと思います。」
さらにスワンベーカリーの運営だけでなく、2004年からは、古本の買い取り仲介やメール便の配達ビジネスも始め、シルバー世代の人たちと障がい者が力を合わせて働く場もつくり始めた。
「パン屋に向いていないけどメール便配達はできる、という人には、そちらの仕事をしてもらっています。
障がい者それぞれの個性を生かす場はいろいろあるんです。
これからは、もっと地域に必要とされるビジネスを手がけて、障がい者と一般の人たちが一緒に働いて楽しく生活していけるようにしていきたいと思っています」
小島靖子さんプロフィール |
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1938 年、長野県生まれ。大学卒業後、定年までの35年間、教員を勤める。32年間は養護学校の教員として障がい者の教育に関わる。1999年2月、障がい者の保護 や養護学校関係者による「王子養護学校の卒業生を応援する会 ヴィの会」が設立され、会員となる。ヴィの会で、障がい者が働くカフェとパン屋をつくることと なり、1999年4月に定年を迎えた小島さんをはじめ、他2名の会員が取締役となりヴィ王子を設立し、「スワンベーカリー十条店」を開業。 |
会社概要
有限会社ヴィ王子/取締役 小島靖子さん
設立/1999年4月
資本金/300万円
売上高/750~800万円/月
URL/ http://www.swanbakery.jp/shop/jyujyo.html?shop=jyujyo