作物栽培の生産性と品質を劇的に向上させ、
農業を蘇らせる“自動車制御”発のシステム

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 髙橋 光二  編集:菊池 徳行(ハイキックス)

誰でも確実かつ安価に、高品質の作物を
高収穫量で栽培できる!

事業や製品・サービスの紹介

photo1.jpg
株式会社プラントライフシステムズは、誰でも確実かつ安価に、糖度の高い高品質の野菜や果物を高収穫量で栽培できる「生体制御型野菜栽培支援システム」をつくり出した。現在、トマトの栽培に成功し、次にメロンや茶の栽培の研究開発に着手しているところだ。

本製品は、光学生体センサー、温度・湿度・照度・溶液濃度・Ph・二酸化炭素それぞれの値を測定する各種環境センサー一式を格納したユニット、ASP型のシステムおよびスマートフォンアプリで構成される。

すでに当該分野では、作物の生育状況を光学生体センサーで分析し、適正な施肥などをサポートする技術は確立している。しかし、既存のセンサーは人工衛星に搭載し、大面積の小麦畑の生育状況を把握するといった用途のもので、1個400万円ほどと高価であった。

そこで、光学生体センサーおよび各種環境センサーを用いて、トマトが十分に育つ状況それぞれの環境条件を分析。一定の生育状況に導くために必要な環境条件を示すアルゴリズムを開発した。これによって、高額な光学生体センサーがなくとも、一定の生育状況にもっていくために必要な施肥や水やり、温湿度を管理できるようにした。必要な環境条件はスマートフォン画面で確認できる。

AIやIoTシステムだけでは圧倒的な技術差別化ができないと考え、強アルカリ性培地で生育効果を大幅に高める研究成果も保持している。これを組み込むことで高品質かつ高収穫量も実現。作物栽培では弱酸性が適しているという常識も覆した。なお、この生体メカニズムの解明に関しては、東京大学農学部と共同研究を進めている。

低価格の栽培支援システムとして、
日本農業衰退の最大要因である低収益性を改善

対象市場と優位性

photo2.jpg
同社のサービスが主な対象としているのは日本の農業だ。平成29年における基幹的農業従事者の平均年齢は66.7歳、従事者数は150.7万人で、平成22年のそれぞれ65.8歳、205.1万人に比べ高齢化と人数減が進んでいる(農林水産省「農業労働力に関する統計」)。

衰退の一途にある最たる理由は、収益性の低さとされる。全業種平均が356万円のところ、農業従事者は239万円(国税庁「民間給与実態統計調査」平成28年)。この低い収益性を高めることが、同社が掲げる最大のミッションだ。

こうした農業支援システム市場には、さまざまな装置やシステムがリリースされている。しかし、それら“スマート農業システム”の多くが一定以上の規模を対象としており、初期コストも数千万円以上と高額。個人や小規模の農家がなかなか手を出せない現状がある。内閣の成長戦略の施策として、45歳未満の就農者に対して年150万円を最長5年間給付するといった補助金も“焼け石に水”だろう。

こうした現状に対して、同社は坪単価で年間8000円というリーズナブルな価格で提供する。かつ、従来の栽培法と比べ、高品質・高収量も実現させた(糖度は従来の高糖度トマトより+2~4度、収量は従来の133%、7年間の培地コストは従来の7割減)。これにより、栽培従事者の平均年商は2倍以上、所得では3倍以上を実現させている(同社試算による)。

車の状態を最適化する自動運転システムの応用で
作物の栽培条件を最適化するシステムができる!

事業にかける思い

photo3.jpg
もともと自動車用制御システム開発を主事業内容とする会社を経営していた松岡孝幸氏。あるとき顧問の会計士から、彼の顧客である農家のシステム化ニーズへの対応を要請された。

「システムのことなら松岡がいいだろうと紹介されたのですが、当初は“野帳”と呼ばれる農作業マニュアルをスマホで見られるようにしたいといった初歩的なオーダーでした」

それまで農業には無縁であった松岡氏は、一とおりの作業を実際に見学することにした。すると、農家との興味深いやり取りが続いたという。

「朝、田畑に入ると、農家の人が『このトマトは元気だ』と言うのです。『なぜわかるのですか?』と聞くと、『3年やればわかる』と。次に『このトマトは水を欲しがっている』と言うわけです。同じようなやり取りが続きましたが、つまりはすべてが属人的な経験の世界。この暗黙知を“見える化”することができれば、生産性を上げられるのではないか、と思ったのです」

松岡氏は、農業の実態を調べ、栽培の生産性を高めれば産業として蘇る可能性を確信。そして、得意とする車の自動運転システム等で使用されているMBD技術を応用して、その仕組みの開発をスタートさせた。

「自動運転システムは、前を走る車の挙動をセンシングして自分の車を最適に制御することが基本。理論的には、野菜や果物の状態をセンシングして生育に必要な環境を制御することと同じです」

そして、2014年に新会社プラントライフシステムズを設立。開発したシステムには、将来インフラの脆弱な新興国に展開することをも視野に、ビニールハウスと専用データセンター間の通信に使う回線インフラ容量や使用電力を最小限に止める技術も盛り込んだ。
したがって、ビッグデータ等にかかわる回線インフラ等に頼らない技術を確立している。

すでにさまざまな地方自治体が「生体制御型野菜栽培支援システム」の導入を表明。北海道長万部町では、内閣府地方自治体活性化の支援として、2017年度に10アールで開始、2018年度は90アールを追加する。また、2017年に民間の11事業者が導入を決めている。

補助金を利用しなくとも採算性を確保したため、現在の顧客は異業種の事業会社等が新規事業として導入するケースが半数以上ある。

「改めて採算性のある農業は可能性が高いと確信しています。2020年までにIPOを果たし、研究開発のスピードを上げて、あらゆる作物への対応と海外展開を図っていきます」と松岡氏。日本の農業衰退を食い止める、同社の動向に注目していきたい。

株式会社プラントライフシステムズ
代表者:松岡 孝幸 氏 設立:2014年10月
URL:http://www.plantlife.jp スタッフ数:19名
事業内容:
生体制御型野菜栽培支援システムの開発
これまでの資金調達額(出資額)と主な投資会社名:
オムロンベンチャーズ、TNPオンザロード投資事業有限組合、SMBCアグリファンド投資事業有限責任組合、TUS(東京理科大学)キャピタル事業有限責任組合 ※出資額は非公開
ILS2017 大手企業との商談数:
7社

当記事の内容は 2018/2/22 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

起業、経営ノウハウが詰まったツールのすべてが、
ここにあります。

無料で始める