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屋外を移動する認知症高齢者を画像マッチング。
帰宅困難を防ぐ見守りサービスを開発
事業や製品・サービスの紹介
ディープラーニングやビッグデータ分析による画像認識に特化したAIサービスを開発し、API(Application Programming Interface)として提供する株式会社アジラ。“みんなにやさしいAI”をテーマに、AIによる社会課題の解決を目指している。
現在、リリースしているのは「数字認識AI」および「エロ認識AI」。前者は、派遣会社の勤怠管理票に手で書かれた数字を読み取ってテキストデータに変換し、従来1週間ほどかけていた集計業務を10分程度で済ませるといった業務効率化に貢献している。後者は、いわゆる“エロ画像”を自動的に選別するもので、SNSなどの投稿監視に導入されている。
そして、目下実証実験を行っているのが、認知症の高齢者の屋外移動の見守りサービス(同社では、「帰宅困難防止」と呼ぶ)。家族などが対象者の画像をクラウド環境にアップしておくと、対象者が帰り道がわからないなどで困っている際、認知症サポーターなどがその人の画像を撮影し、アップすることで自動的にマッチング。位置情報とともに家族に通知が届くというものだ。
アクセラレータプログラムに参加し、共同開発者となった富士通と、アジラが本社を置く東京都町田市とともに実証実験を重ねており、2018年度中にはリリースされる予定だ。自治体などにシステムを提供するとともに、全国に約900万人いる認知症サポーターに向けてスマートフォンアプリを提供する。
認知症サポーターは講習を受けて認定されるが、実際に自分たちの活動がなかなか役に立てていないと感じている人も多いようだ。このサービスは、そんな認知症サポーターに歓迎されることだろう。
認識系AIに学習させる大量のデータを
自動生成する技術をいち早く開発!
対象市場と優位性
同社のサービス開発のコンセプトは、グーグルやアマゾン、マイクロソフトが手を出さないであろう領域であること。「数字認識AI」は、派遣会社の手書きによる勤怠管理票など日本ぐらいにしかなく、また「エロ認識AI」は、大手は手を出しにくいとの読みがある。目下のところ、「エロ認識AI」は唯一の存在だ。
「数字認識AI」の存在が知られて、現在、「文字認識AI」の開発要請が続々と寄せられているという副次効果がある。先行サービスがあるにはあるが、FAXなどの自由な書式の場合や、枠からはみ出した殴り書きの文字が認識できないなど現在のOCRでは認識精度が低いためだ。精度が低いのは、機械学習させる大量のデータの確保が、コストなどの面で困難なため。そこで同社は、自社がキーテクノロジーとしていち早くキャッチアップした「GAN:敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Network)」を用いた学習データの自動生成に優位性を見出し、後追いでの「文字認識AI」の開発を始めている。
「GAN」のような最新技術をはじめ、さまざまな技術を工夫して利用することで、「手書きっぽい」文字列を自動的に大量に生成させ、これら学習させることで、さまざまなパターンに対応できる手書きの文字認識A Iを指す。なお、同社が行った調査では、自動車、食品卸、BPOの3業界で120億円ほどの市場規模が見込めている。業界を広げれば1000億円程度には届くと読んでいる。
一方、高齢者見守り・緊急通報サービスの市場規模は、2014年の142億円から2025年は227億円に拡大すると予測されている(シード・プランニング調べ)。同社の見守りサービスは、既存のGPS端末装着型のように、付け忘れや外してしまうといった心配がないところが評価されている。なお、実証実験の模様はNHKの番組で紹介される予定で、認知度の広がりが期待されている。
ディープラーニングに着目し、
市場性が高い画像認識で勝負をかける
事業にかける思い
同社を創業した代表取締役の木村大介氏は、NTTグループで研究開発職に従事した後、ぐるなびに転じて事業部のシステム開発部門を統括する業務に就く。優秀なエンジニアを採用するミッションを担ったものの、IT企業というイメージが低かったせいか、求めるレベルの人材が採用できなかった。そこで、海外の人材に目を向けたところ、ベトナムのハノイで非常に優秀な人材を採用することができた。
「ハノイに渡った私は、国家のエリートであるベトナムの技術者たちの知的好奇心が、Webサービスの開発や運用だけでは満たされないと感じていました。そこで、ビッグデータ案件など高度技術案件を手掛けてみたところ、あっと驚くようなパフォーマンスを発揮してくれたので、これは本物だと確信し、一気に起業に踏み切りました。その後も継続してぐるなびから仕事をいただくことができたため、うまく軌道に乗せることができました。ぐるなびの皆さんには大変感謝しています。いつか大きな恩返しができれば、と考えています」
ハノイのエンジニア4名とアジラを設立し、ぐるなびからそれまで手がけていた業務を丸々発注してもらうかたちで順調にスタートを切る。しかし、1点だけ残念なことがあった。合流するはずの優秀な日本人エンジニアが“介護離職”を強いられてしまったのだ。
「大ショックでした。そこで、介護離職などしなくても済むようなプロダクトを開発するから、その時は戻って来てほしいと約束したのです」
その思いが、見守りサービスとして結実する。画像認識AIに打って出たのは、設立当時の2015年頃からディープラーニングが注目され、なかでも画像認識がもっとも市場性が高いとされていたことも木村氏の背中を押したポイントだ。
「ビッグデータ分析技術をベースにいち早くチャレンジすれば、この領域でトップを取れると思ったのです。これまで、いいペースで走れていると思います」。今後も、介護離職や人手不足対策に資するサービス開発を中心に、アジラはチャレンジし続ける。
株式会社アジラ | |
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代表者:木村 大介 氏 | 設立:2015年6月 |
URL:https://www.asilla.jp/ | スタッフ数:20名(ベトナム法人含む。うち契約社員および顧問6名) |
事業内容: ディープラーニングやビッグデータ分析による画像認識に特化したAIサービスの開発 |
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これまでの資金調達額(出資額)と主な投資会社名: 特になし |
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ILS2017 大手企業との商談数: 11社 |
当記事の内容は 2018/1/25 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。