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最先端のITを搭載した授乳室で、
赤ちゃん連れのお出かけをより楽しく!
展開している事業の内容・特徴
「授乳ケープを使っておっぱいをあげていたのに、隣の人から注意された」。「他の赤ちゃんにつられて泣き出して、授乳どころではなくなってしまった」――などなど、乳幼児を抱えて外出するママには、さまざまな問題がつきまとう。
そんな子育て世代の「困った」を解決するため、ITを活用し、ママやパパのチャイルドケアを支援する会社がある。それが今回紹介する、Trim株式会社だ。現在の同社の主力事業は、完全個室型ナーシングルーム(授乳室)「mamaro(ママロ)」の普及と、スマートフォンアプリ「Baby map」の提供である。
「mamaro」の外寸は、幅180㎝、高さ200㎝、奥行き90㎝、室内は1畳ほどの広さだ。商業施設内の貴重なスペースを削ることなく設置できるよう、コンパクトに設計されている。完全個室のため、安心して赤ちゃんに授乳したり、離乳食をあげたり、寝かしつけたりすることが可能。さらに、子育て情報やお出かけ情報など、さまざまなコンテンツが表示されるモニターも備え付けられている。
内鍵で施錠ができ、使用中は外側上部の「mamaro」のロゴが点灯。躯体には木材を使い、内装もシックハウス対策を施している。照明は発熱の少ないLEDで、利用者が頭などを打っても痛くないよう、カバーにシリコン素材を使うなど、随所に細かな配慮がなされているのだ。ボックスタイプの「mamaro」の下部にはキャスターが組み込まれているため、可搬性が高く、商業施設の小さなデッドスペースはもちろん、催事場などに期間限定で設置することができる。
さらに、内部の3つのセンサーが、セキュリティを堅固にしている。「たとえば、『Grid-EYEセンサー』は、室内にいる人の体の表層温を計り、成人のみが室内に入るなどの不正利用がないかといったことが検知できる上、利用状況のデータも取得できます」と代表取締役の長谷川裕介氏。このセンサーは、赤ちゃんに発熱がないか、といったデータの計測にも応用可能だ。このように、ITを駆使した「mamaro」を、同社は「スマートナーシングルーム」と位置付けている。
2017年7月1日、神奈川県横浜市金沢区の京浜急行電鉄株式会社グループ、「京急サニーマート」内に「mamaro」第一号が設置された。以来1カ月間で、利用回数は822回に上った。1日約30回もの利用があったことになる。授乳施設の需要がいかに多いかを物語っている数字といえるだろう。
同社は、2018年1月までには累計20台、同年7月までには累計100台程度、「mamaro」を設置する計画だ。もちろん神奈川県以外への展開も含めてだ。「エリアが異なれば、ユーザー特性も変わり、地域によって必要な情報や提供するサービス内容も変えていく必要があるでしょう。当社はそれらのデータを収集・分析し、今後のサービス拡充に活用するつもりです」
もう1つの事業、「Baby map」は、全国の授乳施設・おむつ交換台、もちろん「mamaro」の位置情報も検索できる無料アプリだ。近い将来、スマートフォンから空き状況の確認や予約機能も付加する予定だという。
自分の母親にできなかった親孝行を、
世の中のお母さんたちに届けたい
ビジネスアイディア発想のきっかけ
代表の長谷川氏は、大学卒業後に就職した広告代理店を経て、医療系ベンチャー企業に転職。執行役員として、新規事業の責任者を任されていた。同社で、「べビ★マ」(現Baby map)を事業化したものの、会社は上場を目前に、医療領域に経営資源を集中させるという方針転換を行い、同事業のストップが決まってしまった。
しかし、すでに立ち上がっていた「べビ★マ」アプリ内で、ママたちが、自分が利用した授乳室の情報を他のお母さんのために投稿するという好循環が生まれていた。「お母さんから、見知らぬお母さんへ、自分の経験が受け継がれ、そうして小さな命が育まれていく――」。これを知った長谷川氏は、「この事業をなくすわけにはいかない」と考え、会社と交渉し、MBOのかたちで2015年11月に独立した。
「私は母を早くに亡くしており、親孝行をしっかりすることができませんでした。その代り、育児で困っているお母さんたちを助けることで、亡き母への恩返しができないものかと考えていたのです」
同社の調べでは、実に97.3%のお母さんが、外出先で、授乳施設などを探せなくて困った経験を持っているという。国内に設置されている授乳室は約2万カ所、赤ちゃん100人に1人分程度の割合だ。夏の炎天下や冬の寒さの中で授乳室を探しまわるのは大変だし、授乳ケープをかぶせての授乳も赤ちゃんに我慢を強いることになる。授乳には平均20分程度かかる。外出先で、困っているママたちは本当に多いのだ。
最近、商業施設に授乳室を設置する動きはあるものの、一方で課題もある。長谷川氏は次のように指摘する。「あったとしても施設内に1カ所程度。その多くはカーテンで仕切られたスタイルで、プライバシーの確保が難しい。また、そもそも女性専用のため、男性がベビーケアできないという問題もあります。外国人への対応もまだまだです」
従来の授乳室を設置する場合、壁や内装工事などを含め、800万~1800万円程度の費用がかかるという。そのことも商業施設にとっては大きな負担となる。しかし、設置にかかる工事費が不要の「mamaro」であれば、従来の授乳室に比べ、かなり安価に導入することができるだろう。
「mamaro」をプラットフォームとして、
日本をチャイルドケア先進国に!
将来の展望
「資金調達を検討していますが、それをIPOで賄うのか、それとも、ICO(Initial Coin Offering=新規仮想通貨公開)といった手法を使うのか、いくつかの選択肢があります。それらの中から自社に最適な手法を選びたい」と長谷川氏は将来を見据える。
同社のビジネスモデルは、大きく2つ。1つは、「mamaro」のリース販売。もう1つはレンタル方式だ。しかし、収益構造の柱は、「mamaro」の販売売上よりも、むしろ広告収入にあると長谷川氏は明かす。前者の場合、同社と「mamaro」を買い取った企業とで室内のモニターに配信される広告収入を50%ずつシェア。後者の場合、100%の広告収入が同社に入る仕組みだ。
「『mamaro』の利用者は、ほとんどが女性です。しかも利用時間は約20分と長い。広告主にとっては、ターゲットを絞りやすく、授乳室のモニターを通して、長時間CMを流すことができるというメリットがあります。子育て世帯、とりわけ乳幼児を持つママたちは購買機会が多いので、子供用品、住宅、保険、車などを扱う企業からのニーズが大きいと考えています」
モニターの利用方法は他にもある。「商業施設内のショップや商品情報を表示し、ショッピングへの誘導や、購入品のレジでの受け取りなど、付加価値の高いサービスの提供が可能です。同時に、地域の子育て情報、医療の遠隔相談、育児相談など、さまざまな使い方も想定しています。『mamaro』は、総合的なキッズケア・プラットフォームとして機能するでしょう」
「mamaro」の利用日時や利用者数などはモニタリングされ、データとして蓄積される。集客力を高め、テナントの売上からの賃料収入を増加させたい百貨店などの商業施設が、これらのデータを活用することも可能だ。同社は、商業施設の既存の授乳室の空き状況を検索・予約するシステムや、モニターを通して各種コンテンツを配信するといったソフトウェア販売も加速させるという。
「『mamaro』が普及し、お母さんたちが外出しやすい環境が整備されれば、子育て世代や子共を対象としたマーケットはもっと拡大するでしょう。市場が大きくなれば、当社が提供する子育てSNS『Make Local』で行う、地元コミュニティの情報配信事業の展開にも弾みがつきます。たとえば、要らなくなったベビーカーの譲渡といったコミュニティの情報提供や、『mamaro』を介して、さまざまなつながりができれば、地域社会がもっと楽しく、豊かになるのではないでしょうか」。街のあちこちに「mamaro」が置かれている光景を目にするのは、そう遠いことではなさそうだ。
Trim株式会 | |
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代表者:長谷川 裕介 氏 | 設立:2015年11月 |
URL:http://www.trim-inc.com/ | スタッフ数:4名(2017年9月1日現在) |
事業内容: 事業内容: ITを活用した育児関連サービス事業 |
当記事の内容は 2017/10/5 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。