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紙面はそのままでデジタル情報をプラス。
応用範囲は語学学習から真贋判定まで
展開している事業の内容・特徴
数年前から、QRコードが印刷された商品パッケージやDM、ポスターなどを身近なところでも目にするようになった。その進化版ともいえるのが、株式会社グリッドマークの創始者である吉田健治氏が発明した「Grid Onput ®」という技術だ。
現在の主要な顧客は学習塾などの教育機関だ。QRコードのように紙面上に印刷された「ドットコード」を専用の音声ペンで読み取ると、ペンに内蔵された音声ファイルが再生される仕組みで、たとえば、こんなふうに使われる。
バナナのイラストが印刷された英語教材。そのバナナを音声ペンでタッチすると「banana」と、英単語の音声が流れる。ドットコードは2mm角の中に32個の点を配置することでコードを定義する。バーコードやQRコードなどとは違い、1つのコードが2mmという極小であることに加え、イラストや写真の上に重ねて印刷することができることから、非常に見えづらいのが特長だ。
「コードが見えないからデザインをじゃましません。しかも、特殊な印刷が必要ないという点が評価されています」と吉田氏。赤外線の反射・吸収でコードを読み取るため、図版をカラー(ノンカーボンインク)、ドットコードを黒(カーボンブラック)にするだけで、特別なインクを使うこともなく、一つの刷版で印刷することも可能なのだという。
コードをドットにしたのは小さくて見えにくいほか、パターン認識と計算処理がしやすいため。バーコードやQRコードのように「読み取らせる」という感覚はなく、小さな子どもでも、バナナの絵にさわれば簡単に「banana」と、ペンにしゃべらせることができる。
そのほか、ペンをUSBでパソコンに接続すれば、さらに機能が増やせる。ドットコードと既存のWebサイトを紐づけておけば、ペンでドットコードをタッチすると特定のサイトに移動する。設定さえすれば、即座に動画を再生したり、ショッピングサイトで商品を注文することも可能だ。また、コピー機で複製したドットコードでは反応しないため、模造品対策にも活用できる。QRコード同様、トレーサビリティにも応用でき、すでに食品や医薬品のメーカーも採用している。
同社が提供するのは、主にドットコードのジェネレーターと専用のペン。顧客ごとにペンの製造からデータとの紐づけまで、用途に応じた最適な仕組みをつくりあげて納品するという。現在、採用企業は100社以上にのぼり、音声ペンの市場は1500億規模にまで成長している。
発明者の意地で新会社を起業した。
まずはグリッドマークの上場が目標
ビジネスアイディア発想のきっかけ
幅広い分野で活用される「Grid Onput ®」だが、そもそも、どのような経緯で誕生したのか。発想のきっかけは子ども向けのおもちゃにあった。
「この技術と同じようにペンでタッチすると音が出るという商品を、とあるおもちゃメーカーと共同開発していました。ところが、ソフトをつくり、試作品まで完成させたにも関わらず、途中から参画した大手電機メーカーのほうで商品化をすることになりました。こちらは梯子を外された格好です。悔しくて、もっとスゴいものをつくって見返してやろうと、新たな発明に取り組みました」
当初、玩具メーカーと開発していたのは、専用のボードを使わないと音が出ないものだったが、ボードが不要で、紙に印刷されたパターンを認識するだけで音が出る仕組みにしようと考えた。ペンでコードを読み取って音を出すという発想は、ここから生まれたというわけだ。コードは当初、パターンを模様にしたものもあったが、開発を進めるうちに今のドットの組み合わせに落ち着いた。最初の顧客になったのは別の玩具メーカー。あるゲーム機に使われ、無念を晴らすことができた。
吉田氏は、IT関連およびデジタルコンテンツの人材養成スクール・大学・大学院を運営する教育機関デジタルハリウッドのほか、いくつもの企業を立ち上げてきたアントレプレナーである。グリッドマーク社を設立するまでは、大学などの教授職と経営者を兼務するパラレルワーカーでもあった。
「大学で講義をしながら開発をするのは難しいと考えて、この技術を完成させるために教職を自ら辞めました。そして、グリッドマークを設立して以降、約10年間は開発に専念。会社の上場を本気で目指し、国内外で370の特許を押さえながらビジネスを展開してきました」
現在は、ひととおりの開発を終え、顧客の要望に応じたカスタマイズを中心に事業を行っている。目下の課題は専用ペンのスリム化だという。光学ユニットを構造から改良に取り組み、従来製品の半分ほどのサイズにすることを目指しているそうだ。
専用ペンとドットコードでできることは、まだまだここに書ききれないほどある。取材の最中、次々と目の前で繰り広げられるデモンストレーションには驚かされるばかりで、まるで“ドラえもん”の道具を見ているかのようだった。
印刷物からスマホやタブレットでの活用へ。
より便利な“コード”を目指し、新会社を設立
将来の展望
ドットコードの事業展開に注力しながらも、吉田氏の頭の中には、かたちにしたいアイデアがまだまだたくさん詰まっている。そこで昨年、電気通信大学の教授らと共に新会社、株式会社インターメディア研究所を立ち上げた。同社で事業化に取り組むのは「静電容量コード」である。
スマホやタブレットの画面には、静電容量タッチパネルが使われている。印刷物の代わりに、今度はこうしたタッチパネルにも対応した、新たな“コード”を普及させようとしているのだ。
「Grid Onput ®」は幅広い用途で使われているが、静電容量コードもさまざまなシーンでの活用が想定されている。たとえば、同社の開発した電子スタンプ「G-Stamp」は、ポイントサービスやスタンプラリーなどの販促やイベントキャンペーン、稟議書への押印などのビジネスシーンに応用ができる。従来、紙にスタンプを押していたところを、静電容量パネルに電子スタンプを押す技術を使えば、紙のポイントデータをデジタルに入力し直す手間が省ける。
加えて、静電容量を利用したカードも開発中だ。カードにはコンテンツと連動させるタイプと個人を認証するタイプを用意。カードをスマホやタブレットにかざすと、静電容量コードが伝わり、特定の電子コンテンツに誘導する。認証用のPINコードを設ければ、カードを持っている人だけが見られる特設サイトや、ゲームをつくることもできる。個人認証も同じようにカードを画面上にかざすと、カード保有者と認識され、その端末で簡単にクレジット決済などができるようになるという。
「認証の際にインターネットを介することがないので、不正利用トラブルの心配は不要です。診察券や免許証、ポイントカードなど、今、財布のなかにあるカードはすべて、このカードに集約できると思います」
実現すれば便利なのは理解できるが、現状、この技術がなくても特に誰も困るわけではない。不躾ながら、何がこうした技術開発の原動力になっているのか、吉田氏に尋ねてみると、回答は非常にシンプルだった。
「だって、今よりも絶対に便利になるじゃないですか。それだけの話ですよ。技術を使う人々が感じるであろう利便性を高めるために技術を追求していく。それが僕の仕事です」
吉田氏の起業動機はこの一言に集約されていた。技術者は、世の中をより便利にするために、目指す技術を開発する――。優れた技術は人々の欲求を喚起し、市場を生み出し、生活を一変させる力がある。吉田氏の挑戦の原動力には、その大きな力が秘められているようだ。
グリッドマーク株式会社 | |
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代表者:吉田健治 | 設立:2004年4月 |
URL:http://www.gridmark.co.jp/ | スタッフ数:12名 |
事業内容:「Grid Onput ®」技術を活用した製品の開発・製造販売、ソリューションの提供、ライセンスビジネス |
株式会社インターメディア研究所 | |
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代表者:吉田健治 | 設立:2016年2月 |
URL:http://www.im-lab.com/ | スタッフ数:4名 |
事業内容:静電容量コード技術を用いた製品の開発・製造販売、ソリューションの提供、ライセンスビジネス |
当記事の内容は 2017/06/20 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。