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研究者の知見とAIを活用した
最先端の画像解析ソフトウェア
展開している事業の内容・特徴
東京大学アントレプレナープラザ(東京・文京区)に拠点を構えるエルピクセル株式会社。AIを活用したライフサイエンス領域の画像解析ソフトウェア開発を行う大学発ベンチャーだ。同社が手がけるサービスは大きく分けて3つある。
1つ目は、医療画像診断支援ソフトウェア。同社は法人化前から約10年にわたり国立がん研究センターと共に同ソフトウェアの研究開発を行ってきた。CT、MRI、内視鏡などの多様な医療ビッグデータを解析し、ディープラーニングなどを用いて疾病の原因を検知するシステムだ。
AIを活用することにより、医師の負担を軽減するとともに診断の精度を上げ、疾病の早期発見につなげることができる。2017年3月には、経済産業省主催の「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト」にて優秀賞を受賞するなど、未来の医療を変革するシステムとして熱い期待が寄せられている。
2つ目は、ライフサイエンス領域の画像解析クラウドサービス。AIによるアシスト機能と機械学習を用いた画像自動分類機能により、画像解析の知識がなくとも簡単に高精度の解析ができる仕組みとなっている。細胞のカウントなどの単純作業をAIに代行させることにより、研究者の研究効率向上を目的としたサービスだ。
3つ目は、画像の不正加工検出ソフトウェア。ライフサイエンス領域の論文などの画像に不正がないか調べることができる。2015年からAdobe社との共催で60以上の大学研究機関においてライフサイエンス研究者に向けた画像処理教育セミナーを開催したり、人工知能や画像処理・画像解析が身に付く専門サイト「LP-tech」をリリースしたりするなど研究者が研究に没頭できる環境づくりも進めている。
「当社の特徴は、“ライフサイエンス×IT”という独自の価値を提供できる点にあります。最高性能の画像解析ソフトウェアを開発することはもとより、有効な画像の撮影方法やバイオ条件、標準化の仕方など、研究者視点でコンサルティングできる点が最大の強みです」(同社代表の島原佑基氏)
ライフサイエンスとITの融合で、
よりよい社会の構築を目指す!
ビジネスアイディア発想のきっかけ
同社代表の島原氏は、東京大学大学院修士(生命科学)修了後、IT企業勤務を経て、起業したという経歴の持ち主。学生時代には、マサチューセッツ工科大学主催の合成生物学の大会「iGEM」にて銅賞を受賞。2017年4月には、「Forbes 30 Under 30 Asia 2017」に選出されるなど、世界的に注目を集める若手起業家だ。
大学学部時代、遺伝子工学の研究に打ち込んでいたが、遺伝子の研究には膨大な時間がかかり、「すぐに社会に還元できるようなサービスを生み出すことは難しい」と考えた。そこで、研究室で培った生命科学の幅広い知識を生かせる別の分野は何かと考えた末、最終的に行きついたのが「画像解析」だったという。
大学院修了後、すぐに起業するという選択肢もあったという。しかし将来、海外展開を視野に入れていたこともあり、一度社会に出てビジネスのノウハウを学び、グローバルな経験を積みたいと考え、グリー株式会社に入社。経営企画や事業戦略を担当したが、希望していた海外事業の経験を積むことはできなかった。
そこで、モバイルオンラインゲーム事業を展開するKLab株式会社に転職することに。同社にて東南アジアなどでの海外事業開発の経験を積み重ねていった。こうして、ライフサイエンスとIT双方のバックグラウンドを生かして、大学の研究メンバーと共に立ち上げたのが、エルピクセルだ。
「21世紀はライフサイエンス×ITの時代であると考えています。近年、iPS細胞に代表される再生医療や遺伝子治療技術などの発展により、ライフサイエンスの重要性がますます増しています。この分野を切り拓き、革新的なサービスを生み出すことで、世界をよりよく変えていきたいとの思いで起業しました」
もっとも苦労したのは人材採用だったという。「私たちは大学発ベンチャーならではのクリエイティブな発想が生まれるような自由な環境をつくりたいと考えています。採用において、どうしてもスキル重視になりがちですが、やはり当社のカルチャーにフィットした人材であることを一番の基準にしています。互いに尊重し合いながら革新的なサービスを生み出す“尖った技術者集団”をつくっていきたいですね」
AIのさらなる普及を促進し、
医療の標準化を実現する。
将来の展望
設立から3年。起業当初は受託開発中心であったが、徐々に受託事業で得た利益を自社製品の開発に充てるという事業形態へシフトしつつあるという。2016年10月には、株式会社ジャフコが運営管理する投資事業組合、Mistletoe株式会社、東レエンジニアリング株式会社などから、総額7億円の出資を得た。
この資金を活用し、医療画像診断支援ソフトウェアをはじめとする自社製品の研究開発をより一層強化していく構えだ。また、昨年にはシンガポールにジョイントベンチャーを設立。今後は、海外を視野に入れた事業展開も進めていくという。
今後の課題は、「ユーザーや患者の意識を変えること」という島原氏。「AIを活用した医療画像解析はまだ発展途上の新しい技術で、医師による診断が100%であると考える患者が今は大多数です。しかし、1人の医師が膨大な画像データを見て正確な診断を行うには限界があります。医療現場が疲弊しているという現実と、AIの必要性を世間に広く伝えること。これが私たちの使命であると考えています」。
今後AIが普及することにより、医療はどう変わっていくのだろうか。「私たちが目指すのは、医療の標準化です。たとえば、優秀な医師と同等の技能を備えたAIを開発し普及することができれば、アフリカなどの途上国でも高度な医療が平等に受けることができるようになります。また、長寿化が進み、多くの人が100歳まで生きるといわれています。そうしたなか、AIにより人的ミスを防ぎ、疾病の早期発見の確立が上がればQOLの向上にもつながります。今後も研究開発を続けることで、世界中の人がより長く健康に生きることができる世の中をつくりたいです」。
AIを活用した画像解析のトップディベロッパーとして駆け抜けてきた同社。最後に今後のビジョンを伺った。「私たちは『研究の世界から革新とワクワクを!』というミッションを掲げています。これからも“ワクワク感”を大切にするという理念のもと、大学発ベンチャーの新たなロールモデルを確立したい。優秀な人材が自然と集まり、革新的なサービスが生まれるという、シリコンバレーのエコシステム。たとえば日本にもそんな好循環をつくることで、“ライフサイエンス×IT”の分野におけるGoogleやマイクロソフトのような会社を目指したいですね」
エルピクセル株式会社( LPixel Inc.) | |
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代表者:島原 佑基 氏 | 設立:2014年3月 |
URL:http://lpixel.net/ | スタッフ数:35名(非常勤を含む) |
事業内容:ライフサイエンス領域の画像解析ソフトウェアの研究・開発・販売 |
当記事の内容は 2017/06/06 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。