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非常勤医師とオープン電子カルテシステムで、
夜間当直・診療体制を全国に拡大中
展開している事業の内容・特徴
首都圏に10カ所の在宅クリニックを展開する、医療法人社団悠翔会。そのメディカル・サービス(MS)法人、株式会社ヒューマンライフ・マネジメントは、一般的なMS法人が提供している医療以外の経営実務全般(人事・経理・財務・総務など)だけでなく、在宅療養支援診療所支援事業や夜間当直連携事業も手がけている。
在宅療養支援診療所とは、在宅療養を行う患者の自宅などに医師が訪問して診療に当たる医療機関で、当局に届け出た医療機関だけが運営できる。在宅療養支援診療所にはいくつかの要件があり、その中に「24時間365日患者からの連絡が受けられ、求めに応じていつでも往診が可能な体制を確保すること」といった項目がある。悠翔会では、大学病院に勤務する若手の医師を夜間専門の非常勤として確保し、10カ所の在宅クリニックで夜間往診体制を確立させている。
この運営体制においては、複数の医師が1人の患者に対応することになるため、カルテを共有する必要がある。その共有を徹底するべく、同社はオープン電子カルテシステム「HOMIS」を独自で構築。カルテだけでなく、前任医師からの引継ぎに必要な 進捗度合い・発見事項などの情報を担当医師へ伝言する“申し送り”も共有できるようにしたところがミソだ。
「例えば、往診先の家の両隣りが同じ姓の表札で、どの家かよくわからない、ということがよくあります。しかも、一人暮らしの患者の場合、医師を玄関まで出迎えるのが困難なので『ポストに隠した鍵で開けて入って』といった要請を受けるケースも。『HOMIS』は、そういった個別の事情も共有できるように工夫しています」と、同社代表取締役の佐々木美樹氏は説明する。さらに「HOMIS」は薬局とも連携、薬剤師とのやり取りも簡単に行えるようになっている。
これまで、在宅療養支援診療所を運営・維持するには大きなコストがかかり、「1000人以上の当該患者を確保しないと採算が合わない」といわれていた。ちなみに一般的な開業医の場合、患者数は200~300人程度だ。このギャップに着眼した同社は、夜間往診体制と「HOMIS」をプラットフォームとして外部にも開放し、医師1人が運営するクリニックでも無理なく在宅療養支援診療が始められるよう支援するビジネスをスタート。2017年4月現在、10軒以上のクリニックが同社のサービスを活用している。
「このままでは医師が過労死しかねない」。
在宅療養支援診療所運営の問題にメスを!
ビジネスアイディア発想のきっかけ
悠翔会の理事長兼代表医師を務める佐々木淳氏は、佐々木美樹氏の長男だ。2006年から在宅診療を始めると、2年ほどで医師や看護師が40名ほどの体制に急拡大し、運営に手が回らなくなったという。そこで、淳氏は上場している独立系ベンチャーキャピタルの専務を務めていた“経営のプロ”である美樹氏にSOSを送った。
「経理や組織運営のマネジメントに大きな課題がありました。それを全部きれいに整理して成長していける体制をとMS法人をつくったのですが、普通ではつまらないと感じたのです。そもそも在宅療養支援診療所の運営に大きな問題があることがわかったので、その支援事業を自社だけでなく外部にも提供しビジネスとして発展させていこうと考えました」(美樹氏)
在宅療養支援診療所は、深夜であっても、患者の容体悪化で本人や家族などから緊急連絡が入れば対応しなければならない。しかし、個人の開業医の場合は負荷が重過ぎ、「まともに対応していては、医師のほうが過労死しかねない」(淳氏)という現実があるのだ。
この実情が、在宅療養の広がりを阻害している壁でもある。同社を設立したのは、政府が、団塊の世代が75歳以上となる2025年をメドに、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしく最期まで過ごせるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を推進し始めた時期。「このシステムを全国に広げていくビジネスチャンスがあると感じた」と美樹氏は言う。
同社の強みは、経営と診療を切り離し、診療をホテルなどと同様の“サービス業”と捉えて品質管理を徹底している点だ。ユーザーである患者や家族に、担当医師に関するアンケート調査や、電話対応を録音するなどしてサービスレベルの向上に努めている。「ここまで徹底してやっている医療機関はあまりないと思います」と美樹氏は胸を張る。
シニア層全体を対象に、介護予防や
資産コンサルティングなどの新たなサービス
将来の展望
同社が在宅診療のその先に見据えているのが、どんどん拡大するシニア市場そのものだ。例えば、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)が2012年3月の889棟から、5年後の現在、6633棟と7.5倍に増えている(一般社団法人高齢者住宅推進機構調べ)。この“サービス”を行うため、見守りや生活相談が最低限義務付けられており、ここに在宅医療体制を付加すれば、入居者を集める際の強力な差別化ポイントとなるだろう。「こうした介護施設との提携を進めていきます」(美樹氏)。
また、高齢者の生活状況をケアするシステムを構築し、すでに実証実験をスタート。この引き受け会社として、2015年にコールセンターを擁する沖縄在宅医療情報システムという子会社を設立している。例えば、認知症のユーザーに持たせたGPSセンサーや、一人暮らしユーザーの住まいに取り付ける環境センサー、携帯心電計などをコールセンターで見守り、前出の「HOMIS」に接続することも視野に入れている。異変をキャッチすると、コールセンターのオペレーターが家族や最寄りの看護師などに連絡し、対処内容まで確認するというわけだ。
「こうした機器類を提供しているメーカーはたくさんありますが、サービスを完結させるまで一気通貫の仕組みがまだまだ整っていないのです。当社は、人を介入させることで処置確認まで行い、サービスを完結させます」(美樹氏)。さらに、シニア層全体を対象とする、介護予防や資産コンサルティングなどの新たなサービスの検討も進めているという。
「いわゆる“ピンピンコロリ”が、ほとんどの人が望む最期のあり方。そうなるための生活習慣アドバイスなどにも大きな余地があります。また、シニア層の金融資産が日本全体の3分の2を占め、本人が自分のお金を使うことなく亡くなっていく現実に鑑み、死ぬまでにどういったお金の使い方をすべきかといったコンサルテーションにも可能性を感じています」(美樹氏)。医療をベースとした同社だからこそ、誰もが信頼できるさまざまなシニア向けサービスを構築することができるのだと思う。
株式会社ヒューマンライフ・マネジメント | |
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代表者:代表取締役 佐々木美樹氏 | 設立:2002年10月 ※実質的な事業開始は2008年 |
URL:http://hl-management.jp | スタッフ数:85名 |
事業内容:在宅療養支援診療所支援事業、夜間当直連携事業、ヘルスケアサービス |
当記事の内容は 2017/05/25 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。