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親も子もホッとできるWebコミュニティ。
園舎を持たないバーチャル型保育園
展開している事業の内容・特徴
ここ数年、政治家や文化人、ブロガーなどが主宰するオンラインサロンが増えている。オンラインサロンとは、共通の興味関心を持つ人々がインターネット上に設けられたサロンに集い、主宰者からの情報発信を閲覧したり、参加者同士が議論できる有料会員制サービスの総称だ。2015年の暮れ、人気のオンラインサロンが集まるプラットフォーム「Synapse(シナプス)」上に、保育園(?)が誕生した。
ネット上に立ち上げられた、世にも珍しい保育園の名は「ほうかご保育園」。小笠原舞氏、小竹めぐみ氏の2人の保育士起業家が主宰する、親子を対象としたサロンである。会費は月1500円。まい先生・めぐ先生からの園だよりを受け取れたり、子育てに関する悩みをオンライン上で相談できたり、会員親子同士でおすすめスポットや絵本などの情報交換も頻繁になされている。
また、月に一度、登園日があり、普段はオンライン上でつながる親子が集まるリアルな場を提供。「0歳からのアート」「0歳からの科学」など、毎回違ったテーマが設定され、そのテーマにあったゲスト講師を呼んだり、科学館に行ったりしながら、親子一緒にさまざまな学びを楽しむのだ。
まだお話ができない年齢の子もいるそうだが、その場にいるだけでも充分。その子なりの方法で、楽しんでいるそうだ。鍵となるのは、子どもだけではなく、大人も新しい世界に触れることができること。その様子を子どもたちはよく見ている。
先生やほかの親子と出会える登園日は、オンラインサロンに対する信頼感にもつながっている。実際に通っている保育園では話しづらい子育ての悩みも、人となりを知ったサロン会員であれば安心して投稿、相談できたりする。オンラインサロンへの投稿に対する回答も、その親子に合ったアドバイスやヒントになることが多いそうだ。また、その悩みをとおり越した、先輩ママたちからのアドバイスも飛び交っている。
ネット上の保育園だから、相談などの投稿は、もちろん子どもが寝付いた夜でも構わない。自分のペースでかかわれる点も現代のママたちに評価されているポイントだ。ちなみに遠くは、静岡や仙台から参加している親子もいる。
「先生だから、ママだからではなく、一人の人間として会員同士がフラットな関係を築けるように心がけています。自分らしく居られる心地よさを求めて、入会してくれる親子が多いですね」
事業計画はいっさいつくらなかった。
子どもの世界と大人の社会の架け橋になりたい
ビジネスアイディア発想のきっかけ
「ほうかご保育園」を主宰する小笠原氏と小竹氏は、保育士として働きながら、それぞれ勤務している園の外でも活動していた。共通していたのは、卒園後もその子の個性そのままに育てる環境をつくりたいという思い。勤務時間外での活動に飽き足らず、共同で任意団体を立ち上げた。これまでにない保育や子育て支援のかたちに取り組むなかで、別々の道を歩んだこともあったが、2013年、2人は共同代表というかたちで合同会社こどもみらい探求社を設立した。
同社は、主たる事業として、保育士としての勤務経験や園外での活動から学んだコミュニティの運営ノウハウを生かした企業向けのコンサルティングやイベントの企画運営、ほか企業人、教育関係者向けの研修やプログラム開発などを行っている。
2人が始めたこのビジネス最大の特徴は、会社の規模拡大だとか、教育メソッドの普及だとかを狙わない取り組みであるということ。「あくまでも、自分たちがやりたいことを続けるため」の手段として起業したのだという。
「事業計画はつくりませんでした。子どもの成長も、コミュニティの発展も、短期間で強制的に進めようとすると無理がきます。子どもには一人ひとり個性があり、性格やペース、感じ方などがまったく違うからです。私たちは数字で見える結果より、目の前の人間の個性を大切にしたい。そう考えたら計画は必要なかったんです」
売り上げに困れば保育園でアルバイトをしながら続けようという話も出たが、結果的にはその必要はなく、2016年の6月で4期目を無事に迎えている。
同社では、街全体を園舎に見立てて親子が“生きることを楽しむチカラを身につける”「おやこ保育園」という自主事業にも取り組んでいる。園舎を持たない保育園という発想はそもそも、これが始まりだった。「おやこ保育園」は0~2歳の子どもとその親を対象とした全10回のプログラム。親同士で企画した同窓会も開かれるほど、仲間意識の高いコミュニティが育っている。
「もっとつながっていたいという卒園生からの声があったり、私たち自身も皆の様子が気になったりしていた時に偶然、オンラインサロンのアイデアをいただいたんです。よくある情報発信の場にしてもよかったのですが、どうせなら、私たちらしい世界観をつくり、おやこ保育園の発展版として、インターネットを活用した保育園を始めてみようと」
2つの保育園だけでは採算が合わないが、子どもの個性を生かすための場として2人の理想を100%反映している。また、「ほうかご保育園」と「おやこ保育園」の現場からのフィードバックは、売り上げの大きな企業案件に生かされることもあり、こどもみらい探求社にとって不可欠な活動となっているそうだ。
可能性は無限大。多様な人と手をつないで、
子どもにとってよい環境をつくっていく
将来の展望
待機児童問題をはじめとして、我が国の保育環境を取り巻く課題は山積している。しかし、まい先生・めぐ先生が運営するコミュニティには、そうした課題を解決しようと気負うところが見当たらない。一貫して「楽しそう」「仲間に入りたい」という、かかわる人たちのポジティブな気持ちでつながりながら発展してきた。
「なくなってしまったものを嘆いたり、ないものを夢見たりしているより、目の前にあるものを使って何ができるか実験してみようと、私たちは考えます。スマホやインターネットに関しては議論もありますが、今これだけ身近なものになったのだから仲よくしてしまえばいいと思うんです。ほうかご保育園もそういう意味では実験でしたが、手応えは感じています」
実験成功となればサービス拡大を考えそうなものだが、そこで積極的に大きくしようとしないところが、こどもみらい探求社らしいところだ。結果的に大きくなるならなればいいし、大きくならないなら、もっとふさわしいカタチに変わっていけばいいという。
「ほうかご保育園」は会費の対価として、サービスを提供するというスタンスでは運営されていない。もちろん、主宰者としてコミュニティが荒れないように不審な投稿がないかチェックしたり、会話が活発になるようなトピックを立てたりはする。しかし、2人ができるのは親子の“らしさ”をサポートするところまで。会員自身が能動的になって初めて学びや気付きがある。まい先生・めぐ先生は、あくまでも一緒にコミュニティをつくっていく仲間なのだ。
人間も人同士の関係性も生もので、どうなっていくのか予想はつかない。子どもも親も自分たちのペースを持つことができ、みんながいい顔をしていることが、まずは何よりの成功指標だととらえている。
「コミュニティの中で起こる化学反応が面白いんです。相談の投稿にも私たちはちょっと答えるだけ。先輩ママたちは自分から、自らの経験や知恵を教え合っています」
「いろんな業種の企業や、いろんな個性を持つ人たちと新たに出会っていきたい」と小笠原氏。「すでに以前ご縁があった方とも改めて出会い直し、手をつなげるといいなと思っています」と小竹氏。2人と皆がつくるコミュニティが、今後どんな化学反応を起こしていくのか――10年後の実験結果が楽しみだ。
合同会社こどもみらい探求社 | |
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代表者:小笠原 舞氏・小竹 めぐみ氏 | 設立:2013年6月 |
URL:http://kodomo-mirai-tankyu.com/ | スタッフ数:2名+無数のサポーター |
事業内容:・子育てコミュニティの育成 ・子どもに関するイベントの企画・運営 ・子ども・親子に関するコンテンツや商品の開発など |
当記事の内容は 2016/08/25 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。