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トラブルの温床になるとともに資産価値も劣化。
“空き家”問題解決にワンストップで対応
展開している事業の内容・特徴
我が国では年々、空き家の増加が大きな社会問題となっている。総務省の調べによると、2013年ではその数約820万戸。2033年には約2150万戸にまで増えると予測されている。空き家を放置すると、建物自体の老朽化による部材落下などの危険や、ゴミの腐敗による悪臭や不衛生、景観を損なうなどの問題が生じる。
それらの問題を解決するため、2015年5月に「空き家対策特別措置法」が施行された。適正管理を行わない空き家所有者が改善を促されても従わないと、固定資産税が最大6倍、罰金50万円などの罰則が科される。一方、空き家の所有者としても、放置すると劣化が早まり、資産価値の減少につながるという側面もある。
今回紹介する「NPO法人 空家・空地管理センター」は、高齢となった所有者が老人ホームに入居し、家族も遠方に暮らしているといった事情で住まなくなった家を、月額100円(初期費用3800円が別途必要。100円管理サービスは1年契約)という低価格で管理代行を請け負うサービスを提供している。
100円管理サービスの基本内容は、「目視によるチェック」「管理会社を明記した看板の設置」「近隣住民などからのクレームの一時対応」「写真付き報告書の作成」だ。それ以外に「敷地内の草刈り」「郵便物の転送」「不法投棄などのゴミ処分」などさまざまなオプションを追加できる。さらに、月額4000円からの「しっかり管理」コースも用意。
「月額100円ではもちろん赤字です。この金額にしたのは、我々の主目的である放置空き家をなくすためのアドバルーン的な狙いがあります。ちなみに、実際の平均客単価は月2000円となっています」と代表理事の上田真一氏は言う。
最近は、空き家管理にまつわる申し込みだけではなく「空き家を相続したがどう対処すればいいか」といった相談が急増。上田氏は、司法書士や弁護士、不動産会社、リフォーム会社などとネットワークして、賃貸や売却、納税など幅広い種類の相続問題解決にもワンストップで対応している。
そういった協力事業者を会員組織化したことで、NPO法人としての収入である会費や寄付も増えてきたという。さらに上田氏は「空き家問題」に悩む人々に向けた講演活動にも積極的に取り組んでいる。「収入軸を多様化したことで、人件費や事務所代など諸費用は問題なく賄えています」と上田氏はNPO法人の運営状況を説明してくれた。
不動産業界の分析と行政からの要請……。
最後は、社会貢献への志が火をつけた
ビジネスアイディア発想のきっかけ
上田氏は、2010年にリクルート社(住宅事業部)を退職し、父親が埼玉県所沢市で経営する不動産会社に入社する。父親の故郷・宮古島に所有している同社の土地でリゾート施設運営を始める予定であったが、リーマン・ショック後の不動産業界は“冬の時代”を迎えていた。
「結果的に、金融機関からの必要資金の融資が下りず、リゾート計画は凍結となりました。このままではまずいと感じ、ビジネスチャンスを探るため、まずは自分が携わることを決めた不動産業界の分析をしてみることにしたのです」
上田氏は不動産業界を30分野ほどに細分化し、情勢を分析。すると、新築住宅の仲介のように衰退している分野もあれば、伸びしろの大きな分野もあることが見えてきた。住宅ローンが払えなくなった個人持ち家の任意売却、事業承継を考える中小企業オーナー向けの不動産関連アドバイス、そして空き家・空き地対策である。そして上田氏は、任意売却から着手。数年で年間数百件ほどを扱うなど、狙いどおり順調に進んだ。
2013年4月、所沢市は「空き家等の適正管理に関する条例」を制定する。
「そもそも、空き家管理は収益性が低く、誰もやりたがらないのです。でも私は以前から、空き家問題は士業などの専門家や建築業界とのネットワークがあり、住宅に関する専門知識も豊富な不動産業界が引き受けるべきだと考えていました。そこで、当NPO法人の設立を決断したのです」
当初は所沢市からスタートしたが、空き家問題は日本全国に広がっている。事業として成立させるためにも、問題意識を共有する不動産事業者などに協力を仰ぎながら全国展開を図った。
「空き家の所有者は平均80歳以上の高齢者がほとんど。当社にはなかなかアクセスしてもらえません。そこで今、役所や金融機関などに当社の存在とサービス内容をPRし、そこから空き家オーナーを紹介してもらうような取り組みも進めています」
法律運用の本格化で立ち上がる市場。
ユーザーの選択肢を広げシェア獲得へ
将来の展望
「空き家対策特別措置法」が施行されたものの、罰則規定は“抑止力”として存在しているだけで、まだ本格的に執行はされていない。「しかし、空き家対策特別措置法の罰則が、2018年度から本格的に執行される見込みです。そうなると一気に空き家管理の市場が立ち上がるとみており、その時までにできるだけ大きなシェアを取っておくべく手を打っています」と上田氏は強調する。
主な打ち手は、空き家所有者の選択肢を増やすこと。その第1弾として投入したのが「AKARI」と名付けたパッケージサービスである。不動産事業者などが3~7年の一定期間、当該空き家を、固定資産税および都市計画税と同額を所有者に支払うことで借り上げ、必要なリフォームなどを施して賃貸や民泊施設として運用する。契約期間終了後は、比較的いい状態の物件として所有者に戻されることになる。
「高齢で空き家整備などに老後資金を使いたくない、そんな手間もかけられないといった所有者に、税金のマイナスをゼロにしたうえで空き家をきれいに活用するというベネフィットが提供できます。こうした商品を今後もどんどん開発していきたい」
それでも放置空き家問題の解消には追い付かないとみて、上田氏は国に対して、さまざまな提言も行っている。「造成した宅地を自然に戻す“リ・ワイルド”の要請と、一人当たり宅地面積を増やすべく、空き家となった隣地を購入する際の不動産取得税の軽減や解体補助金の適用拡大を提言しています。そうした施策を通じて、当社のブランディングが図っていければ、と考えています」。
国、住民、環境が抱える問題を解消すべく、走り出した上田氏の勢いは、これからもどんどん加速していきそうだ。
NPO法人 空家・空地管理センター | |
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代表者:代表理事 上田 真一氏 | 設立:2013年7月 |
URL:http://www.akiya-akichi.or.jp/ | スタッフ数:8名 |
事業内容:・空家・空地の管理代行、相続における処分や活用の相談など |
当記事の内容は 2016/08/04 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。