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“ゴチ”になる学生、協力者、商店街、
そして店のためになる“四方よし”の仕組み
展開している事業の内容・特徴
北海道帯広市の中心部、アーケード商店街にある飲食店「結(ゆい)」。朝と昼はうどん・そば・ラーメンがメイン、夜は「おまかせ料理」でお酒も楽しめる。
「食材には、できるだけ自分が栽培した採れたての有機野菜を使っています」とオーナーの本間辰郎氏。「結」は隣接する2軒の店舗からなり、一方は厨房とカウンター10席、もう一方は8席の飲食スペースと、自ら育てた有機野菜などの販売コーナーがある。本間氏は、「結」の経営以外にも、周辺住民へのオーガニック家庭菜園づくりの指導なども手がけている。
「結」は、テレビ番組やWebニュースでも紹介された“ゴチメシ”を始めた店として有名だ。“ゴチメシ”とは、1人の来店客が“余計に”代金を支払うことで、お金のない学生などが“タダ”で食事が食べられるという“恩送り”のシステムである。“余計”分は100円から受け付けている。寄付をするのは来店客全体の1割ほどで、お釣りをそのまま寄付する人も多いという。
「SNSで、イタリアにはお金に余裕がある人が、コーヒー代を払えない貧しい市民のために1杯分のコーヒー代を先払い(寄付)しておくという『サスペンデッド(保留)コーヒー』という文化があることを知り、自分もやってみたいと思いました。寒い帯広にホームレスはいませんが、その代わり次の世代を担う学生に有機野菜を食べさせて健康になってもらおうと。話題になればマーケティング効果も期待できると考えたのです」
なお、学生以外の客が“ゴチ”を希望する場合は理由を聞き、「テレビで見て面白かったから自分にもご馳走してくれ」など、本間氏が納得できない理由の場合は断るという。店にとっては宣伝効果があり、協力する客は社会貢献でき、“ゴチ”になる若者は食事代を浮かせることができる。さらに、シャッターを下ろしたままの店が目立つ商店街に客足を呼びこむ、まさに“三方よし”どころか“四方よし”のシステムといえるだろう。
「オーガニックといえば本間」といわれる
ブランドづくりのアンテナショップ
ビジネスアイディア発想のきっかけ
東京で建設関連企業に勤めていた本間氏は、40歳の頃にセカンドキャリアを意識。50歳になったら故郷の帯広に帰って、両親の面倒を見ながら関心のある“健康”をテーマとした仕事生活を送ろうと決めた。しかし、50歳で帯広に戻っても勤め先などない。ならば、自分で有機農業を始めようと考え、それから10年間研究を続けた。「予防医学も学んだ」という本格派だ。
「帯広のある十勝地方は、広大な耕作面積を有し、アメリカ流の機械的な大規模農業が展開されている地域。有機農家などは数えるほどしかいません。しかし、だからこそチャンスがあると思いました」
老後の“居場所づくり”も意識して、本間氏はオーガニックライフで結びつくコミュニティづくりをしようと思い立つ。「東京の半分ぐらいの生活費で暮らしていけるので、作物の販売や有機農業の指導などで賄える」と考えた。まずは地元の有機農家と親しくなって活動のコアとなるネットワークをつくり、環境を重視する都会の子育て世代を招いて、“カントリーライフを楽しむコミュニティ”を構築する構想を描く。
「オーガニックで健康にいい暮らしを重視する人たちが集まって過ごせるビレッジをつくりたいと。そのためには、『十勝でオーガニックといえば本間』といわれるようなブランド化が必要です。そこで、アンテナショップ的な位置づけと当面の収入源を、飲食店『結』を始めることにしました」
2013年3月のオープン直後から“ゴチメシ”を始めた。当初は、「サスペンデッドコーヒー」を参考に和訳して「保留麺」という名称をつけたが、「若者や子どもにウケる呼び名に」と“ゴチメシ”に変更。「オープンして1年間は泣かず飛ばずの状態。街をたむろしている不良を強引に連れ込んでタダで食べさせたりもしました(笑)」。そのうちにこの取り組みがメディアに取り上げられるようになり、来店客が徐々に増えていったという。
最終目標は、都会人を招いてつくる
“カントリーライフを楽しむコミュニティ”
将来の展望
“カントリーライフを楽しむコミュニティ”づくりのため、本間氏は目下、帯広の不動産業者や建設業者に構想を伝えて賛同者を募っている。本間氏が注目するのが、増加している“空き家”だ。今、帯広市内でも“限界集落化”が進行しているという。「結」の来店客も、出張族や移住者が大半だ。
「そんな空き家を再生して、家庭菜園ができる広い庭付きの“自給自足ハウス”として売り出すのです。100坪の土地付きで3000万円程度。子育て世代のために、勉強だけではなく、美術やスポーツのスクールも招いたします。きれいな空気の中、おいしく健康的なものが食べられて、のびのび育てることができます」と本間氏は目を輝かせる。
東京でスポーツ関連のNPOを立ち上げている友人の協力も取り付けている。すでに、カメラマンやミュージシャンなどが移り住み始めているという。こうして実績を積み重ねることで、行政の支援を引き出すことも狙っている。
「帯広市は“環境モデル都市構想”を掲げていますが、行政だけでは推進しきれていない現状があります。市民が動き始めることで、行政も動きやすくなる。そのためにも、まずは信用づくりが大事だと思っています」
今、政府は「地方創生」を標榜し事業に取り組んでいるが、「その大半は“リトルトーキョー”づくり」と本間氏は喝破する。東京のようなお洒落な街をつくれば、都会に出た地元民はUターンしたくなるのか? 都会暮らしに疲れた人や、子育て環境を求める人は魅力に感じるのか? 本間氏の構想は、そんな問題意識に裏付けられている。
「金儲けは考えていません。高級外車を乗り回すより、軽トラに作業着のほうが気軽でいい(笑)。“ゴチメシ”の取り組みが起点となって、例えば30年先に、自分のイメージどおりに出来上がったコミュニティ見て、『ワハハ』と笑って死ねることが本望です」
結 | |
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代表者:本間 辰郎氏 | 設立:2013年3月 |
URL:http://yui-tokachi.com/ | スタッフ数:2名(常勤) |
事業内容:たち食い処「結」の経営、ごぼう珈琲・キャロット珈琲、その他有機無農薬野菜を原料にした商品の製造・販売ほか |
当記事の内容は 2016/06/02 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。