寿司店のように目の前で供するデザート。
オーナーシェフ1人が切り盛りする人気店

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 本多 小百合  編集:菊池 徳行(ハイキックス)

お客さまの様子を見て最高の状態で提供!
皿盛りのデザート「アシェットデセール」
展開している事業の内容・特徴

20160531-1東京・世田谷区の閑静な住宅街に佇む一軒の洋菓子店。扉を開けると、ショーケースではなく、6席のカウンターが出迎えてくれる。このお店「デセールルコントワール」は店内でいただくデザート、“アシェットデセール”の専門店だ。

アシェットデセールとは、コース料理の最後に供される皿盛りのデザートのこと。同店では、オーナーシェフがこれをカウンター席に座った客の目の前でつくり、出来立てを味わってもらうという一風変わったスタイルをとっている。

オーナーシェフの吉崎大助氏は、パティスリーやホテルで研鑽を積み、日本最大の洋菓子コンテストで金賞を受賞した腕前の持ち主。その吉崎氏が1枚の皿の上に、数種類の色鮮やかなデザートを使って美しい世界をつくりだしていく。席からそのデザートができるまでの一部始終を目の当たりにし、完成品にスプーンを入れる瞬間の感動は格別だ。

しかし、「厨房が見渡せるカウンター席にしたのは、制作過程をパフォーマンスとして見せるだけが狙いではないのです」と吉崎シェフは言う。温かいものは温かく、冷たいものは冷たく、デザートを出すのにも理想的なタイミングがある。客の様子を自分の目で見て一番よい状態で出したいというのが、カウンター式にした最大の理由だ。

デザートづくりと接客を同時に進めるため、「よくやれますね」と同業者も驚くが、これこそが吉崎氏のやりたかったことなのだ。「実は小学生の頃は寿司屋になりたかったけど、似たようなことをしていますね」と笑う。時には即興でアレンジを加え、客を喜ばせる。

独立直前に働いていたのはホテル。ホテルでは個人の色が出せないのが普通で、特段、吉崎氏のファンはいなかった。まさにゼロからのスタートだったが、アシェットデセールを目の前でつくるというユニークなコンセプトはすぐに話題となる。開業翌年にはテレビや雑誌の取材が舞い込み、1年中が繁忙期に。大雪の日でも満席になるという人気ぶりだ。ちなみに過去、客がゼロだったのは3年目に1日のみだそう。

有名口コミサイトでも同店の評価は高く、デザート人気ランキングの常連に。このブレイクに乗じてか、似たようなスタイルのアシェットデセールの店が次々に増え、今ではこのスタイルの草分け的存在として知られる存在となっている。

広告宣伝費は、なんと7年合計でゼロ円!
究極の一皿にすべてのエネルギーを注ぐ
ビジネスアイディア発想のきっかけ

20160531-3吉崎シェフがこの世界に足を踏み入れたのは21歳の時。町のケーキ屋さんで働いていた当時から、35歳になったら自分のお店を持つと心に決めていたという。アシェットデセールに出合ったのは、その後に勤務したホテルだった。シェフパティシェとして活躍していたが、しだいにある歯痒さを覚えるようになる。

「料理もデザートも完成するとデシャップ台に置き、ランナー(配膳係)がお客さまの席へ運びます。タイミングを見てランナーに指示をするのはサービススタッフ。上手く連携できればよいのですが、いい状態で仕上げた時に限って、お客さまがトイレなどで離席することも。『だったらそれに合わせて準備したのに』と、もどかしく思うことが何度もありました。最高のタイミングでデザートを提供できるよう、いつかカウンターに立って自分でアシェットデセールを提供したいと思うようになりました」

その思いを実現させるべく、ホテルを退職したのは2010年の1月。そこから慌ただしく開業準備に着手して、春にはお店をオープンさせた。店の存在を知ってもらうまでの半年は苦労したというが、程なくして軌道に乗った。そして現在に至るまで、一度も広告宣伝費を使ったことがないという。

国内では珍しいスタイルだったこともあってか、徐々にメディアの取材が入るように。しかし、テレビや雑誌で紹介されても客足が伸びるのは一瞬だった。そう考えると、費用を使って広告を出しても集客効果は限定的。「ならば、広告宣伝よりもデザートに集中しよう」。それが経営者としての吉崎氏の決断だった。

とはいえ、事業を継続させるための利益を無視するわけにはいかない。当初から提供している持ち帰り菓子は日持ちのする焼き菓子のみで、ロス率の高い生ケーキは扱わない。そのほか、贈答用の焼き菓子、オーダーケーキにも常連客がついている。現在、イートインとテイクアウトの売り上げシェアは2対1ほどだそうだ。「売り上げを上げるために何ができるか。その工夫も楽しみのひとつです」と話す。

本へのレシピ提供や有名製菓学校講師も。
プラスになることなら何にでも挑戦したい
将来の展望

20160531-2開業してから今まで、この店のスタッフは吉崎氏一人だ。仕入れ、仕込み、皿洗い、掃除に経理まで何でも自分でこなす。「理想のデザートを届けるためにやりたいことは山ほどありますが、仕事で忙しくしている時ほど次のアイデアがわくのです」。

これまでもさまざまな取り組みに挑戦してきた。数年前に始めたデザートコース(6500円〜※)は今も人気で、今年のゴールデンウィークは9日間で計110人もの客がピスタチオのコースを味わった。前菜からスープ、メインへと続くフルコースのように、幾種ものデザートが楽しめるデザートコースは、常連客に愛される一押しメニューである。

過去、何度も予約をドタキャンされた苦い経験があり、新規客のコース予約は断っているが、それでもかなり先まで予約が入っている。新規客には、まず品数の少ないデザートセット(3480円~:小菓子2皿、メインのデザート、お茶とお茶菓子)を案内し、お互いに様子がわかってきたタイミングでデザートコースを薦めるという。お客さまとの距離を縮めたくて始めたアシェットデセールの専門店。何百人といる常連客の顔はほとんど覚えているそうだ。

有名レストランや専門店が名を連ねるデザートレシピ集にレシピを提供したり、製菓の専門学校で講師を務めたりと、声がかかれば店の外でもどんどん新しいことにチャレンジする吉崎氏。オープンな人柄の吉崎氏は「お互いにプラスになることなら断らない」ことを信条にしているといい、話があればデザートの監修などもやってみたいと話す。

今年から、頒布会をスタートした。年間契約で毎月1回、特別なデザートが楽しめる。お店での受け取りだけでなく、自宅への発送も受け付けているという。当取材も、この頒布会向けの仕込みの合間に応じてくれた。甘い香りの漂う店内で、ついお土産を買って帰りたくなった話はさておき。今後の展望を伺うと、「いろいろ考えていますが、現時点で具体化していることはないのです」と言う。とはいえ、やりたいと思ったことを確実に実現してきた吉崎氏。何かひらめいた時にはきっと、デザートファンが驚くような面白いサービスを始めてくれるに違いない。

※デザートコースは内容により都度、金額が異なります。

デセール ル コントワール
代表者:吉崎 大助氏 設立:2010年4月
URL:http://lecomptoir.jp/ スタッフ数:1名(繁忙期は臨時スタッフ若干名)
事業内容:菓子全般、イートイン(デザート)とテイクアウト(贈答品、オーダーケーキなど)

当記事の内容は 2016/05/31 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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