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20%超と高まる空室率問題。収益用不動産をリノベーションし、人気物件に生まれ変わらせるサービスが成長のポイント。
展開している事業の内容・特徴
日本には1億円以上の純金融資産を持つ富裕層が101万世帯(※1)いるといわれている。しかし、これは金融資産に限った話で、富裕層の持つ資産の8割は不動産、2割が金融資産という統計もあり、実態は人口の5〜6%が富裕層に類すると考えられる。しかし不動産資産もアパートやマンション、商業ビルなどで収益を生むように運用していかなければ、固定資産税や各種維持費でマイナスになる。しかし、人口減社会に入った昨今では賃貸不動産の高い空室率が問題となっている。各種統計では東京でも20%超、山梨や栃木では30%を超える(※2)。不動産で収益を生み出すのは大変な時代になりつつある。
※1) 株式会社野村総合研究所 2014年11月18日 News Releaseよりhttps://www.nri.com/~/media/PDF/jp/news/2014/141118.pdf
※2)都市未来総合研究所 不動産マーケットレポート2015/6 よりhttp://www.tmri.co.jp/report_market/pdf/market_report1506.pdf
そうしたなか、アパートやマンションなど収益用不動産の管理や売買で急成長しているベンチャーがある。埼玉県大宮市に拠点を置く、武蔵コーポレーション株式会社だ。設立は2005年12月で、10期連続の増収増益。2015年の売り上げは36億円、経常利益2億6400万円。社員数は80名を超えている。
同社のビジネスは2つの柱からなる。1つは収益用不動産を売りたい人と買いたい人をつなぐマッチングサービス。もう1つは物件の管理・経営のサポート。
特に同社の管理している物件は入居率が96%と高く、物件オーナーから人気だ。管理戸数は2016年3月時点で埼玉県を中心に7000戸超。これは埼玉県内で5番目という位置で、同社代表の大谷 義武 (おおや よしたけ)氏によれば、2年以内にはNo.1になる見通しだという。同社では「満室家賃保証管理プラン」を打ち出しており、空室が発生しても家賃収入を保証している。これは高い入居率を維持できるノウハウにより実現している。
もう一方の収益用不動産の売買ビジネスだが、まず同社では収益用不動産を自社で買い取り、リノベーションして魅力的な物件に再生させる。そのうえで賃貸物件として運用をはじめ、そのまま売り出す。この売買差益が武蔵コーポレーション社の収益となる。買い手としては、すでに入居者がいる状態なので、買ってすぐに家賃収入が見込めるのが大きなメリットだ。面倒な管理業務もそのまま同社に委託すれば良い。
同社に登録している購入希望者は約10000名にも達しており、なかには投資ファンドなども含まれるため、ファンド向けにデューデリジェンスも行っている。
同社のサービスが伸びている背景・理由はいくつかある。大きな理由のひとつは、バブル期に大量に作られた物件の老朽化だ。バブル期には年間80万戸が供給されており、早30年をすぎた現在、そうした物件は改修やリノベーションが必要な時期にきている。
さらにオーナーの高齢化も問題で、子や孫世代に相続するにあたり、収益性を高めたいというニーズが強い。収益性が低いままでは大規模な改修・リノベーションの投資も難しいため、収益性を高めて投資リスクを軽減したいというわけだ。
また、新しい富裕層の登場も背景にある。年収が2000〜3000万円程度の若い富裕層世代にとって、リーマンショックなどで金融資産そのものへの不安感もあり、現物回帰志向として投資用不動産の人気が高まっている。同社ではそうした新富裕層を顧客として捉えているが、そうした層は要求がシビアなため、不動産の管理業務の品質が自然と高まっていったそうだ。
東大、三井不動産というエリートコースから、社会貢献性の高いビジネスを目指して起業。富裕層が不動産資産に偏重している点にビジネスチャンスを見出す。
ビジネスアイディア発想のきっかけ
武蔵コーポレーション株式会社を創業した大谷 義武氏は、1999年に東京大学経済学部を卒業後、三井不動産株式会社に入社し、マンションや大規模ショッピングセンターの開発・運営業務(用地取得業務、テナントリーシング業務など)、オフィスビルの開発運営業務などを手がけていた。そんなエリートコースを歩んでいたが、起業しようと考え出したのは25歳頃。当時、大谷が手がけていたショッピングセンターのビジネスは、その地域の商店街から客を奪ってしまうという問題があった。また、大きなマンション建設などでは、日照権の問題なども社会問題となっていた。ビジネスとはいえ、誰かを不幸にしてしまう仕事はしたくない・・・。そうした悩みを上司に打ち明けても解決はしない。思い悩んだ大谷氏は、不動産ビジネスでもみんながハッピーになるような仕事、社会貢献ができるはずだと考えた。
ショッピングセンターの仕事を通じて、テナントとして入ってもらった中小企業のオーナー社長と知り合う機会も増え、そこから富裕層の課題、収益用不動産の管理や売買ニーズがあることに気づいた。調べてみると、日本おいては富裕層の資産が不動産に偏重していることもわかった。そこで収益用不動産の販売というビジネスのアイデアをおもいついた。
そうして2005年12月に起業。競合はほとんどいなかった。しかし、経営は順調なことばかりではなかった。社員が20名近くまで増えたころ、社内のキーマン的人材が抜けてしまい、社内のコミュニケーションがうまくいかないようになったことで、社員の半分が離職してしまったこともあった。
いつしか自分が会社の利益ばかりに意識が向き、起業時の想いを忘れていた。そこからは、社員の幸せにも真剣にとりくみはじめた。会社としても「社会貢献」するという理念を強く打ち出し、毎月一度、大宮氷川神社の清掃活動をおこなったり、リトルリーグ大会や埼玉県少年柔道選手権大会への協賛も行っている。結果、社員が会社に誇りを持てるようになり定着率もあがった、また、顧客からも毎日のように感謝の手紙が届くようになり、会社も順調に成長するようになった。
富裕層向けサービスをワンストップですべて行える、日本流のブライベートバンクを目指す。
将来の展望
同社は大谷氏の出身地である埼玉を拠点に事業展開しているが、東京をはじめ、大阪、名古屋、福岡、札幌など全国展開も進めている。
また、ダイヤモンドダイニングやゼットンといった有名飲食ベンチャーの店舗開拓などの仕事も手伝うようになっている。
大谷氏に今後の展望を伺ったところ、2020年に年商300億円、粗利100億、社員300名という目標を掲げている。
2016年時点の収益構造としては、不動産の管理と売買差益の売り上げ比率は半々で、今後は付帯収益として電気やガス業者の斡旋手数料、保険、太陽光発電設備の施設、さらには相続対策などにも事業領域を広げる構えだ。これは富裕層の持つ課題を同社がワンストップで解決できる、いわば日本流のプライベートバンクのような事業体を目指していきたいというのが大谷氏の基本戦略だ。
同社の理念は不動産ビジネスを通じた社会貢献だが、「収益用不動産を通じて人生の安定を」というキャッチコピーを掲げている。
その意図を大谷氏に伺ったので、そのコメントで本稿を締めくくりたい。
「人生の安定は不安感の払拭にあると思っています。不動産から確実な収益があれば生活も心も安定しますし、好きな事にも取り組めると思います。特にキャッシュフローリッチな新しい富裕層の方がストック資産を持つようになれば、もっといろいろな事に挑戦できますし、それが社会をよりよくしていく事、経済の活性化にもつながると考えています。それが当社の使命・ミッションだと思います。」
武蔵コーポレーション株式会社 | |
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代表者:大谷 義武 (おおや よしたけ)氏 | 設立:2005年12月 |
URL:http://www.musashi-corporation.com/ | スタッフ数:80名 |
事業内容:収益用不動産の売買・仲介・賃貸管理 |
当記事の内容は 2016/04/14 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。