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電子カルテ戦国時代の到来! 既存コストを数百分の1にまで圧縮し導入月額9,800円のみのクラウド電子カルテ「Clipla」
展開している事業の内容・特徴
いよいよ医療界へのITの本格的普及が始まろうとしている。前年5月、安倍内閣は産業競争力会議課題別会合の中で、医療分野に「2020年までの5か年集中取組期間」を設定するとし、2020年時で9割以上の大規模病院に電子カルテを普及させるとした。
この背景にあるのがマイナンバー制度だ。マイナンバーをITで管理し、患者の来院・投薬履歴等の情報をシームレスに一元化。重複投薬や重複検査といった患者リスクを抑え、かつ病院側の運営の効率化が狙いである。
この施策により、診療情報の電子記録解禁による1999年以来の、第2の電子カルテ導入ブームが想定される。これは大病院のみに限らず、地域医療連携や地域包括ケア促進を行う中小病院や診療所にも当てはまり、近年の地域医療再生基金や昨今の診療報酬本体のプラス改定が後押しとなって、普及は進むと見られている。病院向け電子カルテ市場は2013年の1,037億円から2018年に1606億円、診療所では、2013年の135億円から2018年には238億円に伸びる見込みだ(シード・プラニング「電子カルテ市場規模予測」より)。
だが、中小病院や診療所への今後の市場拡大には懸念もある。それが、コストだ。一般的な導入コストは「300〜500万円」程度と言われているが、近年、赤字経営や都市部での競争激化といった問題が、メディアで度々フォーカスされているように、シビアな経営を強いられている病院・診療所は少なくない。導入しただけでは、売上につながらない電子カルテ。そして、上記イニシャルや、年額「36〜60万円」のランニング、さらに数年毎の更新コストを考えれば、導入を足踏みする医療機関も当然出てくるだろう。事実、電子カルテ未導入の医療機関にその理由を問えば42パーセントが「コストが高い」と回答したというデータもあるそうだ(メドピア・ポスティング調査より)。
この課題に対し、まさに革新的とも言えるインパクトを持ち登場したのが今回紹介するサービスだ。医療IT系ベンチャー「クリニカル・プラットフォーム」が提供するクラウド電子カルテ「Clipla(クリプラ)」である。
同サービスの最大のインパクトとなるのがコストと導入障壁の少なさ。イニシャルは0円、利用は月額9,800円のみ。機器設置やサーバー管理などの面倒な導入フローもなく、利用はデバイスを問わずPC・タブレットどちらでも使える。
そして、コスト・手軽さだけが強みではなく、そのシンプルなUIも大きなメリットだ。例えば導入直後。既存の電子カルテでは、操作法について苦戦し、修得まで時間がかかる医師や看護師が少なくないと聞く。だが、同サービスは、ITや電子カルテに造詣が浅い医療従者でも、非常に親しみやすい。さらに、日常的に使うシステムとして馴染みやすいデザインになっており、診療と同時にカルテ入力を行ってもストレスは感じないだろうし、診療自体が散漫になることもないだろう。
さらにクラウドサービスならでは、さまざまな機能を搭載しており、その中でも特にスマホで撮影した画像をそのまま管理画面にアップロードできるのは魅力的だ。この機能を活用すれば、例えば、患者の患部をリアルタイムでカルテ内に掲載することも可能。これは、多くの医者が苦心する患者へのわかりやすい説明やコミュニケーションにも役立つのではないのだろうか。また、紹介状などの紙資料の管理や、患部の状態を図解するシェーマなどもスマホで手軽にアップできるようになるので、さまざまな業務の効率化に活かすことができる。
また、同サービスには、全国約15,000の医療施設で導入されているレセコン「ORCA」と連動した「スタンダードプラン(月額29,800円)」も。つまり、Cliplaは、電子カルテの枠に括られない拡張性も特長と言えるのだ。
医療経営の現場で得た気づきから着想。産業界だからこそ提案でき、医療界に貢献できるビジネスを構想し起業した。
ビジネスアイディア発想のきっかけ
クリニカル・プラットフォーム社の代表・鐘江康一郎氏のキャリアはユニークだ。Bain&Company、日本オラクル、GEキャピタルといった外資を経て、そのビジネスノウハウを生かし医療界に参画。まず2004年から、都内近郊、東北地方、北海道に医療施設を置く医療法人社団健育会で、理事長の“知恵袋”として活躍。その後渡米し、ワシントン大学のプログラムに参加し病院経営学修士を取得したのち、インターンとしてシアトル州・スウェーディッシュメディカルセンターに勤務した。
帰国後は、2013年の起業まで、聖路加国際病院経営企画室でQIセンターマネージャーとして活躍。2011年には「エクセレント・ホスピタル」の通訳書、看護室長や看護管理者向けの「ナースマネジャーのための問題解決術」といった書籍も上梓している。
医療界に活動の場を選んだきっかけは、たまたまだったそうだが、社会貢献度の高い土壌でのビジネスを常に求めていたと、鐘江氏は話す。
Cliplaを着想したのは、聖路加病院時代のこと。「患者第一主義」を標榜する病院勤務の中で、より患者と病院経営の双方に役立てるアイデアを思い巡らしていた鐘江氏が、注目したクラウドがきっかけだったという。
「クラウドの普及により、業務を軒並み効率化させてくれるシステムがタダ同然で活用出来るようになっている。そういったビジネス界の潮流を見て、これは医療界にも活用できると直感しました。実際に、世の中の病院の管理システムやオペーレーションを調べてみると、まだまだ紙ベースの資料や電話・ファックスなど、旧態然としていているところが多い。中でも電子カルテの普及はあまり進んでいませんでした。それで、クラウド×電子カルテというアイデアが浮かんだんです。起業については、このビジネスモデルが役に立つのは、大病院よりも街のホームドクターだと考えたのがきっかけです。」
そうして、クリニカル・プラットフォーム社を設立。約1年半を開発に費やし、2016年1月にCliplaの正式ローンチに至った。ローンチまでは苦労も多かったと、鐘江氏は笑う。
それが優秀なエンジニアの確保であった。俗に、エンジニア畑ではない人物のITベンチャー創業は困難が多いと言われるように、開発の大きな障壁になったそうで、起業して半年間は、ビジネスモデルはブラッシュアップされていくものの、開発は一向に進まなかったという。しかし、運良くRubyを用いたアプリ開発で高い実績を持つ会社と知り合うことができ、困難を脱したそうだ。
この経験からチームづくりにもこだわりを持つ同社。現在では、月・火曜日を除く週3日はどこでも仕事が可能という、エンジニアにとって働きやすい環境を整備。優秀なエンジニア10数名が在籍するチームを構築している。
また、社員にもリモートワーク制度を設けるというユニークな会社づくりも特色だ。それゆえ、6人いる社員のうち、CFO・小野和宏氏とブランド責任者・堀辺憲氏は自社を持つ経営者で、各メンバーともに自身のパフォーマンスを最大限発揮出来る、それぞれの働き方で業務に取り組んでいる。
電子カルテ機能を拡充させつつ、医療従事者を支えるERPシステムへ。2020年までに5,000社の導入をめざす!
将来の展望
同社は昨今、より医療従事者たちが満足するサービスを提供すべく、医療系ベンチャー・メドレー社が運営するオンライン病気事典「MEDLEY」、医療薬局データベース開発ベンチャー・ミーカンパニー社の「スクエル・データベース」とのサービス連携を果たした。今後も、クラウドという特色を最大限活用して、医療系サービスとの連携を図っていくという。
また、目標とするのは電子カルテ単体のサービスではなく、ERPシステムだとも言う。先述したORCAプランのように、さまざまなサービス連携で医療従事者の業務全般に対するソリューションサービスとしての展開を計画しており、「CRM」、「FIN」、「SCM」、「BI・QI」といった4つのアドオンを企画している。
「CRM」は患者とのコミュニケーションサービス。近々の付与を予定しており、医療従事者は受診予約状況などをリアルタイムで管理でき、患者もスマホから来院予約ができるようになる。またクリニックのトピックや医療情報などの発信も可能になるという。「FIN」はファイナンス。売上データや費用データなどの作成の手間を省き、医院のPLを自動作成する。「SCM」は医療用消耗品などの管理。在庫管理や受発注業務、検査データ管理の支援を行う。そして、「BI・QI」は経営管理・品質管理。患者の来院数や投薬の種類などのデータを比較検証した経営支援や、弁護士などと連携した医院運営にまつわる相談などを行っていく。
このように、包括的サービス提供を当座のミッションに据え、今後の事業を展開。現在の導入数は非公開だが、2020年までには導入5,000施設をめざすとしている。
現在、日本の電子カルテ普及率はおよそ30%で、これは世界的に見ても低い。その一方で、レセコンソフトの普及率は90%にも上るそうだ。この差が生まれる大きな要因のひとつとして、「導入効果の実感の少なさ」があるという。だが、Cliplaの拡張性と導入障壁の低さをみれば、多くの医療従事者が魅力に感じることは明らか。電子カルテ市場の“火付け役”となる可能性も十分にあるのではないだろうか。今後も、Cliplaの躍進を注視していきたい。
クリニカル・プラットフォーム株式会社 | |
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代表者:鐘江 康一郎氏 | 設立:2013年10月 |
URL:https://clinical-platform.com/ | スタッフ数:6名 |
事業内容: ・クラウド電子カルテ「Clipla」の開発・運用 ・HealthTech ブログメディア「CURIO」の運営 |
当記事の内容は 2016/04/05 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。