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デジタルネイティブ世代はテレビよりネット動画好き!? ユーザーの好みを学習して、受け身で楽しめる動画アプリが人気
展開している事業の内容・特徴
生まれながらにパソコンやスマートフォンに親しんでいる10~20代をデジタルネイティブ世代と呼ぶ。この世代はネットを利用している時間がテレビと同等か、テレビより長い(※1)という統計データもある。
※1) 平成25年 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査より
「若者のテレビ離れ」が進んでいるが、これは単にテレビよりネット動画のほうが楽で便利に見られるから。そう考えるとまったく違和感はない。そして、テレビ番組は受動的に楽しめる娯楽だが、ネット動画もテレビ的に受動的になりつつある。面白い動画を自分で検索して見つけるのではなく、まとめサイトやキュレーションアプリなどを活用すればそれが可能となる。
今回紹介するアプリ「ViMET(ビメット)」も、そうしたキュレーションアプリの1つ。開発・運営するのは2014年5月に設立されたばかりのベンチャー、エメットクリエーション株式会社。同社代表の柳本創氏や開発メンバーはデジタルネイティブ世代だ。
同アプリは、YouTubeから人気のある動画を探してきてくれる。人力でのキュレーションではなく、システムによって人気度などでフィルタリングし、さらにユーザーの好みを学習してレコメンドを行う。
柳本氏によれば、YouTubeには1分間で300時間分もの新動画がアップされ続けているという。その中から「面白い」ものを探すのは大変だ。そこで、玉石混合の動画の中から“玉”だけをセレクトしてくれるのがアプリの役割となる。2015年8月にローンチされた同アプリは、2016年2月時点でユーザー数30万人、月間平均視聴回数500万回という人気ぶり。また、同氏によれば、「好きなもの」だけをお勧めしてもユーザーには面白くないそうで、一定の割合で「意外」なものが入るように調整しているという。セレンディピティではないが、ユーザーにとっては、ときおり変化球気味のコンテンツが届くというのも、同アプリが人気となっている秘密の1つだ。
まだ開始して間もないためマネタイズはこれからだが、動画再生中にユーザーの好みに応じたCMを配信することで、広告収益を得る計画だ。
実姉の彼氏が起業家だったことがきっかけとなりベンチャーの道へ
ビジネスアイディア発想のきっかけ
創業者の柳本氏が起業に至った経緯は、少し変わっている。学生時代、もともとはドリームゲートアドバイザーでもある清水智氏の会社(株式会社しんがり)で、メールマガジンの広告マッチングサイトを共に運営していた。柳本氏のお姉さんの彼氏が清水氏で、二人の結婚後、清水氏は彼の義理の兄となった。身近に「起業家」という存在ができたことで、起業に対するイメージが変わったという。
メールマガジン広告の仕事をするなかで広告ビジネスの経験を積んだ柳本氏は、いつしか起業家を志すようになった。慶應義塾大学文学部を中退し、フリーランスとしてUstream 公式スタジオでの番組運営、国会議員やアーティストの動画メディア運用、SNSのコンサルティングなどの仕事を受託していた。
また、柳本氏個人のツイッターはフォロワー数が4万を超えている。これは、毎日「絵ハガキ」をつくってはネットにアップし、希望者には無料で郵送する活動を続けた結果だ。柳本氏曰く、「個人がメディアとして成立することを示したかった」。無料にしたのは、仮に有料にしてしまうとユーザーとの関係がビシネスになってしまうから。あくまで善意で成立する関係を目指しており、特に対価を求めたことはないが、絵ハガキを送付したフォロワーさんからお礼として「地元の名産品」が送られてきたこともあったという。そうやって、ネットでビジネスを展開することに自信を深めていったという。
動画サービスに目をつけた理由は、フリーランス時代に大手CM制作会社と仕事をしたことがきっかけだった。大手メディアに新しい企画をもちかけたりしたが、なかなか実現しなかった経験から、古いテレビ業界のやり方、考え方ではデジタルネイティブ世代の興味は引けないと感じた。かといって、マスメディアの持つ力は、ネット全盛の現在でも大きい。それは、テレビが受動的で楽な娯楽だからだ。
ネットで自発的に検索などをして面白いものを見つけるユーザーは、実はITリテラシーの高い少数派であり、大多数はネット上でも受け身であると柳本氏は考えた。つまり、テレビであろうとネット動画であろうと、受け身で楽しめるサービスでなければメジャーにはならない。逆にいえば、受動的なサービスがシェアをとっていない状況から、ネット動画がテレビに代わってマスメディアになれる可能性があると考えた。
そうして開発したのが、自分好みの話題動画がすぐに見れる動画アプリ「ViMET」というわけだ。創業メンバーはツイッターで知り合った仲間だという。2014年5月に会社を設立し、個人投資家などから約1億円の資金調達を行っている。
実は、同アプリは3世代目(Version3)にあたる。最初にベータ版としてリリースしたのは2014年10月。その後、2度のバージョンアップを経て、ユーザーの好みを学習する機能を導入したところ、平均視聴時間も4分から27分と拡大に伸び、一気に人気に火がついたという。
CM自体がコンテンツになれば、ユーザーも広告主も、もっとハッピーになれる
将来の展望
柳本氏に今後の展望を伺ったところ、意識しているのは「信頼感というキーワード」という回答をいただいた。ユーザーの消費行動はメディアとの信頼関係に左右される。かつてはテレビがその王道であったため、テレビで紹介された商品が売れたが、いまや個人が触れるメディアは多岐にわたっている。
そうなると、ユーザーがどのメディアにどれだけの時間を使う=興味を示す=そのメディアを起点に支出する、という関係に移り変わる。従来はテレビをきっかけに消費されていた金額を100として、今はテレビが50、まとめサイトが20、LINEなどのコミュニケーションツール経由が10、動画アプリが10、その他10というように分散化しつつある。しかし、消費を決定づけるの根底にはメディアへの信頼感がある。いくらユーザーの消費時間を得たとしても、メディアとして信頼されていなければ、そこで大事なお金を消費するという行動にはなりづらい。
事業として成功するには、なによりもユーザーとの信頼関係の構築が必須というわけだ。そのためには、ユーザーが好まないサービスや押しつけのような情報配信はタブーであると、柳本氏は考えている。それゆえ、ユーザーが潜在的に好むコンテンツを先読みする事が必要になる。だからユーザーが好む、快感を覚えるコンテンツとは何かを学習しなければならない。そうした学習データを蓄積していくことが、柳本氏の狙いだ。
「ViMET」でせっかく好きな動画が始まろうとする際に、まったく興味のないCMが流れたとしたら不快に思われるだけだ。これではCMとして機能してるとはいえない。テレビであればCMが入るのは当たり前という感覚があるため我慢もするだろうが、動画を見るユーザーには、そうした我慢を強いることが難しい。見たくないものはスキップしてしまう、あるいはすぐ別のコンテンツに移動してしまうからだ。
しかし、むしろユーザーが見たいと思うようなCMを、パーソナライズして流せばどうだろうか。CM自体がコンテンツになれば、ユーザーは自然とシェアも行う。友人からシェアされてきたコンテンツだと、ついつい見てしまう。こうなると、CMの効果はとても高いものになる。ネットの世界ではこうした取り組みをネイティブ広告とも呼ぶが、動画の世界もそうあるべきというのが柳本氏の持論だ。
エメットクリエーション株式会社 | |
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代表者:柳本 創氏 | 設立:2014年5月 |
URL:http://emet.jp/ | スタッフ数:11名 |
事業内容: ・モバイル動画アプリ「ViMET」の開発・運営 |
当記事の内容は 2016/02/16 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。