- 目次 -
ドローンを本格的に産業利用するため、安全飛行管理システム、航空管制システム、飛行支援地図サービスなど、業界として整備を進める。
展開している事業・特徴
首相官邸に墜落したニュースで一気に知名度が上がったドローン。もともとホビー用途と思われていたが、その性能の高さから、空撮をはじめ、測量、橋梁検査、防犯監視、はては物流でも利用しようという構想まで登場している。Amazonがドローンに配達させるというアイデアは記憶に新しい。
しかし、そうした産業利用が急速に進むなか、安全面では不安が残る。まず、市販のドローンの飛行時間は10分程度。そのため、操作中にバッテリー切れで墜落してしまうという事故が多い。
また、操作自体が簡易なため講習などを受けなくても使えてしまうが、特に業務用途であれば免許制度のようなものがあってしかるべきで、行政としても飛行空域の規制や各種の制度、法整備などを進めている。
そうした日本国内の産業用途ドローンを牽引するベンチャーが、今回紹介するベンチャー「ブルーイノベーション」だ。
同社が手掛けているのはドローンの安全技術。例えば、安全飛行管理システムをドローンに搭載する事で、本人認証がないと飛ばないような仕掛けが構築できる。これは盗難防止、悪用防止という側面がある。また、複数のドローンを狭い空域で自律飛行させるといった機能も含まれる。ドローン単体でのバッテリー切れ問題を解決するため、複数のドローンを編成してリレー方式で定点観測などを行うという仕組みだ。この仕組みは将来的にはドローンの航空管制システムとも呼べるものに進化させたいと、同社代表の熊田 貴之氏は考えている。
他にも、ドローンを用いた検査や監視システム、あるいはドローンを用いた新規事業の創出など、導入支援から、運用、研究開発、事業化コンサルティングなど、ドローン全般のインテグレーションとも呼べる領域が、ブルーイノベーション社のビジネスとなっている。
ドローンの商業利用で先行しているのは映像関連だろう。最近はドローンで撮影されたと思われる空撮映像やスポーツ中継の映像などを、テレビで目にする機会も多い。
しかし、熊田氏によれば、すでに立ち上がりつつある市場として大きいのは点検市場だという。国内だけで70万もの橋梁があり、そのうち7万橋がすぐ検査を要する状態で、さらに今後10年間でその数は17万橋まで増えると見込まれる。高度成長期に大量に作られた社会資本が老巧化し、その維持・管理は大きな社会的課題であるが、検査を人手で行っていては膨大なコストがかかる。そこでドローンを利用すれば低コストでの橋梁検査が実現するという訳だ。
ドローンの産業利用を推進するため、2014年7月に産学連携の一般社団法人 日本UAS産業振興協議会(JUIDA)が設立され、同社はJUIDA理事会から求められて事務局を担うこととなった。JUIDAの理事長は日本の航空宇宙工学の第一人者である鈴木真二氏(東京大学大学院 教授)が就任。
JUIDAはドローンに関する日本の国際的な窓口機関としての役割を担うとともに、ドローンに関する安全ガイドラインの策定や操縦者ランセンス制度の導入を進めているが、首相官邸のドローン落下事件の際はマスコミからの問合せが殺到し、一週間ほどブルーイノベーション社としての業務が出来ないほどだったという。そのためか、設立1年目にしてドローン業界を代表する立場になり、すでに190社を超える個人・企業が会員として参加。毎日数件の頻度でビジネスの相談・問合せも入るそうだ。
JUIDAの活動はあくまで産業インフラ整備の側面が強いが、その一方でブルーイノベーション社は、産業インフラを支える安全なプロダクトを開発し、産業インフラと民間ビジネスの両輪でドローン業界の発展を支えている。
飛行ロボットによる調査コストの激減をきっかけにドローンビジネスへ。
ビジネスアイデア発想のきっかけ
ブルーイノベーション社の前身である有限会社アイコムネットの設立は1999年6月と古い。
もともとは熊田 貴之氏の父親が有限会社アイコムネットとして設立、熊田 貴之氏がまだ学生だったころ学費や生活費を稼ぐために、有限会社アイコムネットの名義で、自身の仕事を受けはじめたのが、はじまりである。
熊田 貴之氏は2004年3月に日本大学 大学院の博士課程を修了し、工学博士を取得。専門は海岸侵食対策などの防災工学分野だ。海岸地形の調査コストを下げたいということで、無人航空機に着目(当時はまだドローンという呼び方はされていなかった)。当時、無人航空機を開発していた東大の鈴木真二教授の協力を仰ぎ、無人航空機を活用した海岸調査を開始した。従来の調査は有人のセスナ機が空撮した写真などをもとに行ってきたが、一度の撮影にコストが数百万かかる。しかし、無人航空機を利用すると1/10という費用になる。しかもデジカメの進化で、必要十分な解像度が得られる。そうした組み合わせで調査・空撮にかかるコストの激減に成功した熊田氏は、これはビジネスになると考えて、それが現在のブルーイノベーション社につながる。
その後、2008年から無人航空機の空撮サービスを開始、さらに2012年6月は熊田 貴之氏が正式に同社代表となり、2013年4月にブルーイノベーション株式会社へと社名も変更し、現在に至る。
ドローンが注目されはじめたのは、ここ2~3年のこと。きっかけは国連の国際民間航空機関(ICAO)によって、無人機を航空機扱いとしてきちんと検討しようという動きからだった。これを受けて、欧米では急速にドローンに関する各種法整備が進んでいる。それまで有効活用されていなかった空の空間がビジネス資源となる可能性に気づいたからだ。
ちなみに、航空法が扱う空域は150m以上。それ以下は地権者に属する空間で、地権者の同意があればドローンを飛ばせる。つまり法規制や煩雑な手続きがない状態だ。これは功罪両面あり、だれでもドローンを飛ばせる半面、安全面での保障や規制がされていない。そのため、2015年9月11日に航空法の改正があり、人口密集地域の上空の飛行は国土交通大臣の許可が必要となった。また、これ以外でも国や行政機関の重要な建造物がある周囲も規制する動きがある。
こうした動きを受けて、ブルーイノベーションはJUIDAと連携し、ドローン利用者向けに飛行禁止・可能エリアの地図サービス提供を発表。2016年からのサービス開始を目指している。
これからのドローン産業のキーワードは「IoT×自律型」
将来への展望
熊田氏に今後の展望を伺ったところ、まずドローン業界を世界的に俯瞰すると、ハードウェアの生産体制はすべて中国に集積し、コスト面で、もはや日本はかなわない段階に来ているという。一方の自律飛行のためのソフトウェアなどでは、欧米が先行している。そんななか、日本として勝ち目があるのは、ドローンを使ったサービスやシステム全体の構築といった分野だと見ている。そうした視点から、今後日本でのドローン産業を発展させていくには、IoTと自律型という2つのキーワードが重要とのこと。
IoTは、一意に識別可能な「もの」がインターネット/クラウドに接続され、情報交換することにより相互に制御する仕組みであるが、熊田氏の構想ではドローン=飛行ロボットが社会のあらゆるところにある状態をイメージしている。一方の自律型は額面どおり、ドローンが、自律して動作するようになるという事を指している。
つまり、街のいたるところにドローンが飛んでいたり待機していて、呼べばすぐ飛んできて、ちょっとした荷物を届けてくれたり、あるいは商品を持ってきてくれたりする、そういう未来を熊田氏は思い描いている。
そのためにはドローンを個ではなく群で管理するシステムが必要だが、そうしたシステム・サービスを構築することができれば、1つの社会インフラになるだろう。熊田氏としては、そうした世界の前提として、複数のドローンを制御して仕事をさせるシステムを2017年には完成させ、きたる2020年の東京オリンピックまでには、街中にドローンがたくさん飛んでいて仕事をしている風景が当たり前になっているようにしたいというのが目標だ。
ブルーイノベーション株式会社 | |
---|---|
代表者:熊田 貴之氏 | 設立:1999年6月 |
URL:http://www.blue-i.co.jp/ | スタッフ数:17名 |
事業内容: ブルーイノベーションは、2007年から東京大学鈴木・土屋研究室とともに日本で初めてのドローンを活用した海岸モニタリングシステムを開発し、これを契機に日本のドローン業界のパイオニアとして、産業利用のために、ドローンコンサルティング、最適なドローンの設計・開発、部品の研究開発、アプリケーションの開発、ソリューションの提供等の業務を現在行っています。 |
当記事の内容は 2015/10/20 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。