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10年後には1000億円市場。トヨタなども参入しているパーソナルモビリティ分野に登場したユニークな電動化キット
展開している事業・特徴
超少子高齢化社会への対応やCO2削減が求められている昨今、自動車やバイクにかわる新たな移動手段として「パーソナルモビリティ」が注目されている。有名どころでいえば「セグウェイ」だが、公道での試験なども進んでいるが、日本ではまだ認可されてはいない。
パーソナルモビリティの定義はさまざまだが、電気モーターを搭載した1~2名用の近距離移動用の乗り物というのが一般的で、電動二輪車、電動アシスト自転車、シニアカー、マイクロEVなども含まれる。
国内では電動アシスト自転車が市場として先行して立ち上がり、パナソニックやヤマハが商品を開発・販売している。また、電動バイクではテラモーターズなどのベンチャーをはじめ、トヨタやホンダなどの大手も参入してきている。パーソナルモビリティの市場規模は2025年には全体で1000億円規模になると見込まれている(矢野研究所調べ)。
これから成長市場として注目が集まるであろう同分野だが、今回紹介するベンチャーは、一風かわった視点でパーソナルモビリティ市場に参入した「Fabmobi(ファブモビ)」だ。
2014年から活動を開始したばかりでまだ法人化もされていないが、すでにTOKYO STARTUP GATEWAY2014で優秀賞&オーディエンス賞など複数の賞を獲得。しかも代表の嘉数 正人氏は若干21歳という若さ。これからの成長に多いに期待したいメイカーズ・ベンチャーだ。もともと嘉数氏が個人スタートさせたプロジェクトだったが、取材直後の2015年10月、ICTやロボットで中山間地の農業を活性する事業を行う株式会社HopeFieldを合同で設立。嘉数氏は同社の取締役副社長に就任する形で、「Fabmobi」は同社の一事業部となって新たなスタートをきった。
「Fabmobi」が市場での販売に向けて開発を進めるのは、運搬用一輪車電動化キット「E-cat Kit」。これは、農業や土木建設業など、さまざまな分野での資材の運搬に使用されている“ねこ車”に取り付けるだけで電動化ができるというもの。その狙いは、高齢化が進み人材不足が深刻になっている農業や土木建築業で、運搬作業にかかわる体の負担を軽くするという点にある。
電動ねこ車自体は、過去にホンダなどが商品化しているが、同製品が画期的なのは、その汎用性と軽量化・低価格であること。モーターとバッテリーを手持ちのねこ車に取り付けるので、さまざまな用途に使用できる。既製品の総重量が約50kg程度に対し、「E-cat Kit」自体は5~7kg。従来の一輪車と組み合わせても17kg程度と、約1/3程度の重さにしかならない。コストについても従来品が12万円前後に対し、「E-cat Kit」の本体価格は約7万円(予価)。一輪車込みでも8万円程度におさまる。
国内で販売されているねこ車には、いろいろな種類があるが、タイヤの規格は統一されているので「E-cat Kit」は大半の製品に装着可能。さらに、海外の規格にも対応する予定とのこと。
ちなみに、手押し一輪車の年間販売台数は、日本では10万台、世界だと500万台。嘉数氏の推計によれば、現存台数だと日本国内だけでも200万台、世界では1億台以上になるという。
数十件の農家を対象にしたモニター調査では高評価を得ており、現在はテストユーザーという形で、無償貸し出しを行っている。2016年初頭のテスト販売に向け、使いやすさや安全面をより充実させるために改良を進めている。
モノづくりの根幹「欲しいものをつくる」。その情熱から、ゼロから技術を覚え製品を開発
ビジネスアイデア発想のきっかけ
「Fabmobi(ファブモビ)」の代表者である嘉数 正人氏は、エンジニア畑の出身と思いきや、実はそうではない。首都東京大学 経営システムデザイン学科で経営工学を学ぶ学生だ。
子供のころからビジネスには多少興味があり、小学生時代にはトレーディングカードをパック詰めにして、クジとして友人や知人に販売。高校時代にはAmazonで中古本や雑貨の販売、電子機器などの輸入販売も行うようになり、累計で2500件以上の取引を行っていたという。
嘉数氏がパーソナルモビリティの事業をはじめたきっかけは「自分が欲しかった」というシンプルな動機。
「私の出身は沖縄県なんです。東京に出てきて、初めて電車中心の生活になりました。そこでふと気づいたのが、電車に乗るまでの不便さ。都市交通において電車は最良の手段だとは思いますが、駅に向かうまでの時間って結構かかるんですね。また、駅から目的地までの時間も同様。私自身、これが大の苦手なんです(笑)。それで、なんとかできないかと考えたことが、Fabmobiにつながりました。」
自分自身の移動を効率化したいという想いから、さっそく自分が乗っていた自転車にモーターを付けるというアイデアを実行してみた。そうして出来上がった自作の電動自転車。驚くのはそうした開発を未経験ながら一人で手がけたことだ。
嘉数氏によれば、現代は“ググれば”情報を調べられるし、必要な部品も海外通販などで容易く手に入れることができるとのこと。テスターの使い方を”ググる”所から始まり、開発は試行錯誤ながらも進められた。この時にかかった開発コストは20万円ほど。
そこからさらに構想が進み、折りたたみ自転車にフォーカスした「ORIEV」というプロダクトが誕生した。一言で説明すると「電車に載せられる電動バイク」。これはGUGEN2014に出展され、DMM.make賞を受賞した。その受賞特典で得たDMM.make AKIBAの利用チケットを活用して、第二弾のプロダクトとして開発に取り組んだのが「E-cat Kit」である。
目下、パーソナルモビリティの国内普及に向けての最大の課題は道路交通法。「ORIEV」も道交法の影響を受け、公道を走る場合は免許とヘルメット装着が必要。手軽な移動ツールといったコンセプトにはどうしてもそぐわない・・・そこで次の一手として考えたプロジェクトが「E-cat Kit」。
ちなみに「E-cat Kit」のアイデアについては、祖父母が農業を営み、自身も小さい頃にねこ車で遊んでいた記憶から着想を得たそうだ。
「人類の移動速度を2倍に!」をミッションに事業拡大へ。
将来への展望
「E-cat Kit」はTOKYO STARTUP GATEWAY2014で賞を受賞し、そのときのコネクションから、浜野製作所が運営するメイカーズ支援施設「ガレージスミダ」に入居、開発拠点として活動を進めている。
今後の展開について嘉数氏に伺ったところ、まずは「E-cat Kit」の実販売を急ぐことが目標。早急に事業として立ち上げどれだけのシェアを獲得できるかが、今後のキーとなる。まずはこの1年間で販路を開拓し、さらに3年以内には、農業や土木建築業以外の分野にも展開させたい考えだ。
また、「E-cat Kit」で得た開発ノウハウ、特に低コスト・短期間での開発・製造スタイルは強みにもなっており、そうしたノウハウを必要とする企業からの受託も積極的に受けていくとのことで、すでに大手企業から好感触を得ているそうだ。
また、リバネス社が開催している「アグリサイエンスグランプリ」へ出展した時の引き合いから、ドローン技術を駆使した獣害対策サービスを展開させるベンチャー企業と知り合い、そのベンチャーと共同で株式会社を立ち上げる計画も進めている。
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の主催スタートアップイノベーター・プログラムに向けて、両社の技術をあわせた提案を練っており、開発費として補助金の採択も目指している。
さらにまだ機能試作レベルだが「2倍の速度で歩けるスニーカー」といった、次の製品の構想も検討中との事。
“移動はヒトのする仕事じゃない”というのがFabmobiの理念。「すべての人の移動速度を2倍にする」というミッションを掲げて邁進中のFabmobiの今後に期待したい。
Fabmobi | |
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代表者:嘉数 正人氏 | 設立: |
URL:http://fabmobi.com/ http://www.hopefield.jp/ |
スタッフ数: |
事業内容:・“ねこ車”電動化キット「E-cat Kit」の開発・販売 ・パーソナルモビリティの開発 |
当記事の内容は 2015/10/15 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。