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施工写真の撮影代行と良質な事例記事づくりで、建築家の営業機会を創出するビジネスモデル
展開している事業・特徴
日本には、建築設計事務所、工務店、ハウスメーカーなどを含めて、約11万の建築事務所がある。そのうち設計のみを行う5名以下の小規模の事務所が約3万5000もあるという。
これだけインターネットが普及している現在でも、そうした事務所の大半がネットを有効に活用できておらず、いまだに紹介ベースでの営業が主。しかし、住宅は消費者にとって一生に1度あるかないかの大きな買い物であり、きちんと情報を集めて業者を選びたい。しかし、残念ながら特に建築事務所に関する詳しい情報はあまり流通していない。
そうした課題を解決するサービスとして2015年5月にスタートしたのが今回紹介する「KLASIC(クラシック)」。株式会社クラシックが運営する、暮らしと家を考える人のためのWebメディアである。まだスタートして3カ月ほどだが、すでに150名超の建築家が登録し、登録数が毎月30~40名ペースで増えている。
ユーザーと建築家とのマッチングを目的としたWebサイトはこれまでもあったが、その大半が掲載は無料で、成果報酬型のビジネスモデルをとっている。しかし、同サイトのポイントは、建築家が年間固定の掲載料と掲載事例の取材費を支払っている点にある。
有料掲載にすることで、とにかく徹底した取材をし、本気で家探しをするユーザーにとって読み応えある事例記事づくりをモットーにしている。ユーザーが同サイトに会員登録すれば、事例を掲載している建築家に直接質問することもできる。
なぜ、建築家はお金を払ってまで同サイトに事例を掲載しているだろうか?
その理由は、竣工時の写真撮影と記事作成の制作代行にある。普通、建築家は自身が設計した家が完成すると、プロのカメラマンに撮影してもらう。竣工写真の撮影手配は建築事務所の業務の1つ。クラシックは事例取材で撮影した写真の使用権を建築家側に渡す。竣工写真の制作代行というかたちで、建築家コスト負担感を少なくししているのだ。費用は物件1件あたり15万円ほどで、これは竣工写真の撮影相場にそったもの。これまでは写真だけであった制作に、記事制作も加わる。
建築家としては、どうせ発生する費用であれば、自社で使うのはもちろん取材記事としてKLASIC.JPに掲載して営業につながる分、メリットになる。クラシック社側も制作費用で、プロのカメラマンとライターを使い、しっかりとした取材が行える。結果、上質なコンテンツ制作ができる。
取材記事は1本あたり2000~文字で、単に外観やビジュアル面だけでなく、建築家がどういった意図で設計したかも、詳細にインタビューされている。特に重要なのが、現時点の家族構成から将来設計まで、施主の人生をきちんと見据えて考え尽くされているかどうかである。そうした情報は写真だけでは伝わらない。本気で家づくりを考えているユーザーが、どうやってその思いを建築家と一緒に実現したのか、そのプロセスをテキストで伝えていく。
同社では、上記取材費用以外に、年間12万円~の掲載料を建築家からもらっている。毎年費用をいただいている以上、双方が本腰で営業活動をするという関係づくりに繋がっている。
例えば、建築家が自身の無料ブログを開設して、自分で設計した家の素晴らしさを熱心に綴った記事を投稿して、顧客をつかまえられるかというとそうでもない。主観かつ無料ゆえに、建築家側も片手間になりがちで、結果として掲載されるコンテンツの内容が薄くなってしまう。そうした情報はユーザーにとってあまり参考にならない。そうなると、双方にとってメリットがほとんどないメディアになってしまう。家づくりといった重いテーマであるほど、CGM型のメディアではどうしてもコンテンツの質が低くなるという点が従来メディアの課題であった。そうした課題を解決したのが、KLASICのビジネスモデルといえる。
1万2000事務所にテレアポをして掴んだ、建築家業界に残されたビジネスチャンス
ビジネスアイデア発想のきっかけ
クラシック代表の坂井裕之氏は、株式会社アサツーディ・ケイで雑誌などのメディアバイイング・プランニング業務を担当した後、2006年に株式会社リクルートに転職。ホットペッパーのメディアの事業企画などを経験した。そして2011年に、株式会社講談社BCに身を転じ、新規事業開発室に所属した。
2014年、フリーのプランナーとして独立。これまでの経歴から、独立しても十分やれるのでは?という思いがあった。しかし、その自信は早々に崩れてしまう。いくら企画を立てても採用されない。面白くてもマネタイズできない。仕事が取れない日々が続くなか、これまでやったことのない仕事で自分を鍛え直そうと決意する。
まず、チラシの投函という仕事を始めた。1日3000枚を1年間、配り続けた。さらにホームページ制作テレアポのバイトも始めた。ひたすら「ホームページをつくりませんか」というテレアポを続けた。
週6日間、1日500コールで、1か月で1万2000件ものテレアポをこなした。その中でテレアポを生花店と建築事務所に絞ることを思いついた。その理由は、この2つの業界が、特にIT化が遅れていると見たからだ。実際、何件かホームページ制作の仕事を獲得したが、それよりも大きかったのが建築士に共通する課題が発見できたことだった。
ホームページはPRのためにつくるものだが、そもそもPR以前にどうやって営業すべきか困っている建築士が非常に多かった。ここに、ホームページ制作の営業よりも大きなビジネスチャンスが眠っているということに気づいた。
そこから、建築家の課題をより深くヒアリングすることを目的に意識を変えた。1万2000件のテレアポから、じっくり話を聞けたのが1000名。さらに、そのなかの200人とは実際に会って話ができた。そうした活動のなかで、どうすれば建築家の営業を効率的にできるかを考え抜いた結果、KLASICのモデルにいきついた。
上記のような「どぶ板営業」を必死でやり切ったことで、「性根もたたき直せたし、仕事についての根拠のある自信、地力がついた」と坂井氏は語る。「いざとなれば、また自分が毎日500コールのテレアポ、3000枚のチラシ配りをすればいいと思っています。それよりも、1万2000件ものテレアポをして掴んだファクトと、そこから導き出した企画には、これまでにない成功の確信がありました」
見えない価値を見える化し、量から質への転換・再帰が、これからのネットメディアのテーマ
将来への展望
坂井氏にこれからの展望を伺ったところ、当面の目標はこれから1年間で500名の建築家の登録と、500件の事例を制作することだという。
また、理念としては「価値の見える化」と「量から質へ転換」というのがキーワードであるとコメントしてくれた。
「価値の見える化」は、まだまだ世の中には情報が正しく消費者に伝わっておらず、情報の非対称性が残ったままの業界が多いという事実。そこに大きなビジネスチャンスが眠っている。そうした業界に対して、正しい情報をきちんと編集して届けることで、KLASICのモデルを展開していけると坂井氏は見ている。人にとって毎日暮らし、人生で一番大きな買い物の住宅、建築業界で成果をあげようというわけだ。
また、インターネットでは情報自体がカジュアルに扱われ、コモディティー化され過ぎた結果、価値のある情報、きちんと編集された情報が少なくなっているという点も坂井氏は大きな課題と見ている。これまで、雑誌や新聞が担っていた、良質な情報の生産という領域が崩れつつあるなか、それでもユーザーを動かすのは良質な情報であることには変わりがない。ネットメディアでも量から質への転換・再帰が、これからのテーマになると坂井氏は見ている。建築家と家を購入したいユーザーの関係性を情報の伝え方によってどう変えていくのか――クラシックの挑戦から目が離せない。
株式会社クラシック | |
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代表者:坂井 裕之氏 | 設立:2015年5月 |
URL:http://www.klasic.jp/ | スタッフ数:10名 |
事業内容:・クラシックのメディア運営 ・建築物の事例写真、取材原稿の制作 ・WEBサイトの制作受託 ・広告・販促企画のプランニングと実施 ・メディアの運営代行 |
当記事の内容は 2015/10/6 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。