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コンセプトは「大人の食育」。食品添加物をシャットアウトし、無農薬・低農薬の野菜を使用。1食500Kcal以下・塩分3.3g以内に抑えたお弁当を毎日配送。
展開している事業・特徴
今回紹介する株式会社Smiley(スマイリー)は、京都を本拠地とし、「OFFICE CAFÉ®」という無添加のお弁当やお惣菜などの配送サービスを手がけるベンチャーだ。工場は京都と富山、営業拠点として横浜にも支社を置いている。
2012年11月に法人を設立し、サービス・商品開発に約2年間を費やし、2014年7月よりサービスをスタート。当初は無添加のお菓子や飲料の販売から始め、2015年4月20日から弁当・惣菜の提供も開始。この5カ月で契約社数は100社を超えている。
契約先は、製薬会社、金融機関、人材サービス会社、IT系企業などと幅広い。導入先の1つであるロート製薬では、本社の社員食堂があるものの支社や他営業所には社員食堂はなく、お昼時の混雑やランチ難民が多いことから「OFFICE CAFÉ®」のサービスは喜ばれているという。
1社あたりの配送数は、1日5食から、多いところで60食ほど。週5日で配送し、月間では数千食という規模になっている。
同社が製造・販売している弁当・総菜のポイントは徹底的な「健康志向」。食品添加物はシャットアウトし、無農薬・低農薬の野菜を使用して、1食500Kcal以下・塩分3.3g以内に抑えている。
「食べたもので体と心はできている」
食べるもので「なりたい自分に近づくこともできる」し、遠ざかることもできる。だからこそ、食べるものは気にしてほしいと矢津田氏はいう。
毎日のことなのに、生(活)きていくために必要な食について、不思議なことに私たちはしっかり教えてもらっていない。そんな私たちに「OFFICE CAFÉ®」では食育セミナーや料理教室、農業体験や食育旅行などのイベントも行っているという。
ただ、食べるものは気にしたくても、多忙なビジネスパーソンの食事は、どうしても外食やコンビニ食、ファストフードに頼りがちで、高カロリーで塩分過多、栄養も偏ってしまう。
そうした健康上の課題解決を目指して、「OFFICE CAFÉ®」は、栄養バランスの良い食事を、手軽にリーズナブルに提供してくれる。
弁当・惣菜の提供は、定期配送方式だ。契約先に冷蔵庫とレンジと加温庫を設置し、クール便で毎日届けてくれる。冷蔵庫に入れて置けばDay+3日の賞味期限があるそうだ。食べ忘れても翌日に持ち越せるため、ほとんど廃棄は出ないそうだ。
食べる時はレンジでチン、もしくは加温庫に入れておくと1時間半ほどでホカホカになる。冷蔵庫だけでなく加温庫も設置していることもポイントだ。ランチタイムに社員が冷蔵されている弁当を温めるためにレンジに殺到する。温めに1個1~2分としても、30人が並ぶとそれだけで昼休みが終わってしまう。そこで同社では加温庫も貸与することにした。加温庫は温度設定ができるので、レンジだと温めすぎると堅くなるお肉もそのままの美味しさで食べてもらえる。朝出社して「OFFICE CAFÉ®」の弁当を加温庫に入れておけば、ランチタイムにはホカホカの弁当がすぐに食べられるというわけだ。
値段は弁当1食あたり600円~890円というお手頃価格。メニューは日替わりで3コースから選べる。ちなみに筆者も取材時に試食させてもらったが、味付けはしっかりとしていて(減塩にありがちな薄味でない)、品数・ボリューム・使用食材数もコンビニ弁当などよりずっと多く、とても美味しく満足度が高かった。
契約は会社単位。同社では「御社の社食の代わりに」というアプローチで営業を進めている。
ちなみに、100席程度の社員食堂をつくる場合、80~90平米ほどのダイニングと厨房スペース、設備費に2000万~3000万円、さらにシェフなどのスタッフが最低3名は必要となる。もちろん原材料も毎日仕入れなければならず、しっかり栄養バランスを考える場合は、栄養士へのフィーも。とにかくコストがかかるが、「OFFICE CAFÉ®」であれば畳1畳分のスペースに冷蔵庫・加温庫を置くだけで、100名分の食事が提供できる。初期費用は、冷蔵庫・加温庫などを借りる際の保証金のみで始められる(保証金は解約時には返金される)。あとは弁当を注文した分だけの料金を支払うだけ。注文数も最低数を契約で定めているが、1週間前であれば専用のWebサイトから個数を変更できる。
同社では、会社側が一定額を負担して、社員はワンコイン500円で食べられる「福利厚生プラン」という提案も進めており、半分程度がこのプランで契約しているそうだ。まさに社食の代わりとして使われている。
そして、同社の最大の強みは、1日数千食という大量の無添加の弁当・惣菜を生産し、低価格で提供できる体制にある。添加物を使わない弁当・惣菜づくりはかなり大変で、無添加の出汁をとる作業一つとっても、とにかく時間と手間がかかる。この体制を有している会社はほとんどないという。また、手間や設備費を商品価格にまともに反映させると高額になるが、あえて一般的な相場に合わせた価格設定としている。これは定期契約という方式に秘密がある。毎日安定した数量を生産・配送することで、廃棄を極限まで減らし、薄い利幅でも採算が取れる仕組みを構築しているのだ。
ちなみに、同社は、無添加の惣菜を大量生産できる設備を持つ富山の食品工場と提携し、最大1日3万食まで対応できる体制を整えている。
プログラマーから経営者へ。そしてシリコンバレーでの出会いが、「OFFICE CAFÉ®」の実現につながった。
ビジネスアイデア発想のきっかけ
Smileyを創業した矢津田智子氏は、大学卒業後、京都にあるソフトハウスで、半導体製造用ソフトやプリクラ機の画像処理システムなどの開発に携わっていた。その後、東京でネット系のソフト開発をしていたが、あまりにも不規則な生活とストレスで体を壊し、1年ほどの療養生活を余儀なくされる。矢津田氏は、学生時代に国体に水泳選手として出たこともある。体力には自信があったこともあり、体力の過信と人の言うことを聞かない性格から招いた自業自得の大病に大きなショックを受けたという。この辛いときを支えてくれた家族や仲間、医師の理解と助けのおかげで回復へ向かうが、この時に人の痛み、優しさ、有難さ、心強さ、そして無くしてわかる健康の大切さを痛感したという。
体調が回復した後、京都にあるSIerに転職したが、その会社が大手人材系企業に買収されてしまう。そこで仲間とともに2005年、株式会社AIVICKというシステム開発会社を立ち上げた。プログラマーから経営者となった矢津田氏だが、2008年のリーマンショック以降受託の仕事が激減したため、ほぼ社員全員が社内で自社製品の開発をすることに。業績は低迷し続け、どのように経営するべきかわからず、どこに向かっていくべきか、何のための事業なのか、自分自身も何のために生きているのか日々悩み、ドツボに嵌まって経営者として失格を自覚する。そんな矢津田氏の未熟さに社内の雰囲気も暗くなり、仲間が1人また1人と去っていくような状況に。
そうした苦悩を自分勝手に抱えていたところ、知人の先輩経営者に諭され、一念発起。今まで自分が逃げてきたことをやって、自分のためでなく世の中のため、仲間のためになるような事業を立ち上げようと決心し、自分が不在の間は会社の仲間に任せて、いきなりシリコンバレーに渡った。
100本ほどのITサービスの企画書を抱えて、英語も全くできなかったが、現地でマンションを借り、学校に通いながらひたすら経営者やベンチャーキャピタリストに会い、パワーブレックファーストや紹介でピッチをしまくる日々を送り、事業計画書を練り上げていった。
一方、日々の生活の中で、アメリカの食の多様性に驚き、食と健康に関して興味を持つことになる。病気を患い健康に関心があった矢津田氏は、「何の違いがあるんだろう?食の何がどう体に影響を与えてるんだろう?」と不思議に思い、食と健康の因果関係の不明瞭さについて考え、勉強し始めることになるのだ。
そんな中、転機となったのは、伝説的なベンチャーキャピタリストである原丈人氏との出会いだった。原氏に事業計画をプレゼンしたところ、日本でそのITサービス事業を行うことを勧められた。
日本に戻ってITサービス事業開発を進めていたそんなある日「矢津田さん、ポットを2台買ってください。」という社員に理由を聞くと、ランチにほぼ全員が毎日カップ麺を食べるからお湯が足らないという。彼らの食事内容は、朝はジュースやゼリー、お昼にカップ麺とおにぎり、おやつの時間にお菓子、夜はコンビニ弁当や牛丼、パスタ、ラーメン。偏った食事に運動嫌い。矢津田氏は、みんなの健康診断結果を気にするようになった。脂質異常に肥満など生活習慣病が・・・
このままだと早く病気になって、命を落とすなんてことも!そんな!大変!!と同業の経営者に相談すると、「うちも同じだよ」と。
彼らは、何をどれだけ食べたらどうなるのか教えてもらってもいないし、一人暮らしで自由だけど忙しいので食事のことは後回しに。いつでもどこでも好きなものを好きなだけ食べることができる、便利で幸せな環境のはずが、こんな歪になってるなんて、なんとかしなくちゃ!と2012年11月に社員、仲間、家族、友人、知人、繋がるみんなの「健康と美しさと笑顔のために」起業。ITサービス事業のコンテンツもヘルスケアデータに変更して開発を進めた。
食と健康について、全く知らないことだらけ。まずは現場で勉強させてもらおうと、矢津田氏は、「OFFICE CAFÉ®」の実現に向けて、無農薬で野菜を育てている農家を訪ね、土づくりから勉強を進めた。他のたくさんの農家を訪ね、有機野菜といっても土づくり、育て方に違いがあることを知った。微生物の力で発酵させた堆肥でつくった野菜と、そうでない野菜では、味も栄養素もまったく違うことを知った。また、徳島大学医学部栄養学科の食品研究者を訪ね、食事の持つ抗酸化力を調査。太陽の下で育った野菜や果物は、紫外線耐性のため強い「抗酸化」力を持つ。そうした野菜や果物を使った弁当とそうでない弁当を比較すると、抗酸化力に100倍以上もの開きがあるものもあった。
とにかく健康になるための食事とは何かを考え続け、それを商品化するプロセスをひたすら繰り返した結果、かたちになったのが現在展開している弁当や総菜の配送サービスである。
世界中の人々の「健康と美しさと笑顔のために」
将来への展望
矢津田氏に今後の展望・目標を伺ったところ、「事業としては2017年度に30万人の方に提供できるようにしたいという答えが返ってきた。
理念は、世界中の人々の「健康と美しさと笑顔のために」。
食と健康を科学し、食事で体質改善「なりたい自分に近づける世界」をつくり上げること。そのためには、人々の食事に対する意識改革から始めなければならない。また、「OFFICE CAFÉ®」を展開させる中で、安全安心な野菜・米・肉などを生産する生産者自体がしっかり経営していけるビジネススキームを構築する必要もある。
理念が生まれた背景には、シリコンバレーに滞在していた頃に受けた衝撃がある。アメリカでは、明確に生活者の階級格差があり、階級ごとに使うスーパーマーケットも違う。売っている食品の値段も2倍、3倍以上の差があるのが当たり前で、高所得層はオーガニック食品を好んで食べ、体型もスリムで見るからに健康的だ。
一方、貧困層の多くは、安いが高脂質、高カロリー、栄養バランス的にも偏った食事をとっている。当然だが、肥満体になりやすい。見た目にも不健康そのものだ。そうした食の格差が固定化されつつあるという現実を目の当たりにし、これが未来の日本に重なって見えた。近年、日本でも、貧困層の拡大、子供の食事の栄養の偏り、コンビニ食やファストフードの増加が社会問題として取り上げられている。
食事の質の悪化は、大人もそうかわらない。安く手軽に食べられるもの、好きなものだけを食べる生活。これが、生活習慣病や原因不明のアレルギー疾患などを増加させている大きな原因だと矢津田氏は考えている。食品添加物の継続的摂取が健康にどのくらい影響するかは、因果関係が科学的にはっきりと証明されたわけではない。しかし、食品添加物に頼った食事を中心的に摂取すると、ナトリウム量が増加し、1日のナトリウム摂取量が基準値6g/日(日本高血圧学会発表)を上回りやすくなるなど健康への影響も考えざるをえない。
塩分は決して塩辛い食品だけでなく、食品添加物(主にナトリウム等と表記される)のなかに含まれているのだ。しかし、そのことを知っている人は少ない。そうした食に対する意識を変えることから必要だと矢津田氏は考えている。
そのため、同社は契約前にかならずセミナーを開き、「食育」についての講義を受けてもらっているという。そこで食と健康に対する意識付けをしたうえで、サービスを利用してもらうようにしているそうだ。
2015年11月より、食事で予防、未病改善、体質改善のための「なりたい自分になろう」サービスをスタートする予定だ。これは血液・尿検査、体組成などをチェックし、さらにオプションで遺伝子検査なども組み合わせて、栄養士の指導のもと、ダイエット、妊婦向け、妊活、美容、成人病など個々の課題に合わせたひとりひとりの食事を作って毎日配送するというもの。
かつては各家庭でお出汁をとって、野菜中心でバランスも取れていた、古きよき日本の食文化。そうした風習が徐々に失われつつあるが、Smileyは、この古きよき日本の食文化に今のよき自然科学と栄養学をプラスして、職場や家庭に「スローフードをファストに提供」することを推進している。
こうしてSmileyは、新しく素晴らしい日本の食文化を、ビジネスを通して生み出そうとしている。今後も同社の挑戦に注目していきたい。
株式会社Smiley | |
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代表者:矢津田 智子氏 | 設立:2012年11月 |
URL:http://office-cafe.jp/ | スタッフ数:7名 |
事業内容: ・病気予防、未病改善、スタイル維持、健康維持、食事療法が必要な方のための 「食」のライフスタイルを提案する事業。 ・ギフトに特化した、ECセレクトショップ事業。 |
当記事の内容は 2015/9/24 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。